伊藤忠商事の特例子会社である伊藤忠ユニダス(神奈川県横浜市)は11月25日、新社屋の竣工式を行った。新社屋は鉄骨造4階建ての構造で、最新の機器に加えて、畳敷きの休憩室や防犯カメラなど障がい者が働く環境を整えた。伊藤忠商事の小林文彦・代表取締役 常務執行役員は、「人種・国籍・性別・年齢等を問わず、多様性を意識して雇用に取り組むことが会社としての使命」と話す。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

竣工式でのテープカット、中央左が伊藤忠商事の岡藤正広社長、右が伊藤忠ユニダスの萩原社長

竣工式でのテープカット、中央左が伊藤忠商事の岡藤正広社長、右が伊藤忠ユニダスの萩原社長

伊藤忠ユニダスは1987年7月に創業。主な事業は、シャツやユニフォームなどのクリーニング、名刺やパンフレットなどの印刷、そして、社員証などの写真撮影の3部門に分かれている。同社では身体・知的障がい者などを雇用し、71人いる社員のうち、41人が障がい者だ。そのうちの半分にあたる21人は重度障がい者である。

同社は1988年3月、障害者雇用促進法に基づく特例子会社として神奈川県で初、全国でも27番目の特例子会社として厚生労働省より認可を受けた。厚生労働省による障害者雇用優良企業として、「ハートフル・リボン・マーク」の認証を2010年から3年連続で取得した実績を誇る。

伊藤忠商事では、障がい者雇用への取り組みに力を入れ、2015年7月1日現在の障がい者雇用率は2.27%で、法定雇用率を超えた雇用を実現している。

スーツを自動で運び、乾燥機にかける

スーツを自動で運び、乾燥機にかける

特例子会社ではあるが、自主自立を目指す経営方針を貫いており、現在では伊藤忠商事以外からの売上高比率は7割程度にまで拡大している。年間売上高は4億円程度。成長を続ける要因について伊藤忠ユニダスの萩原能成社長は、「責任の所在を明確化したことで、仕事に対する責任感を与えた」と話す。

同社のクリーニング工場では、ハンガーの色が数種類ある。これは、色によって社員の担当を決めているからだ。こうして、どの作業で不備があったのかを明らかにした。萩原社長は、「ミスが起きたらみんなで話し合い徹底的に改善する。健常者と同じように扱うことで、モチベーションを上げている」。

クリーニング工場のハンガーの色は多彩。色によって担当者を決めている

クリーニング工場のハンガーの色は多彩。色によって担当者を決めている

同社の売上を伸ばしているトップ営業マンは、萩原社長自身。萩原社長は、社員寮やタワーマンションに営業し、クリーニングの契約を相次いで獲得してきた。いまでは1日にワイシャツ1400枚を扱うほどになった。新社屋では、最新のクリーニング機器が揃い、勢いはさらに増していきそうだ。

■新人に伝える、名刺に託された思い

伊藤忠商事が障がい者雇用に取り組む意義について、同社の小林文彦・代表取締役 常務執行役員は、「総合商社の模範となるため、多様性のある雇用をすることは当然のことであり、それが社会的使命」と話す。

小林常務執行役員は、人事・総務部長を兼任しており、新入社員には必ず伝える話がある。それは同社の名刺にまつわる話だ。同社の名刺は、伊藤忠ユニダスで作られており、「1枚1枚丁寧に思いを込めて作られている。粗末に扱ってはいけない」と、新入社員全員に伝える。

伊藤忠商事の名刺はここで作られる

伊藤忠商事の名刺はここで作られる

この話をするきっかけとなったのは、実際に伊藤忠ユニダスで働いていた一人の重度障がいを持つ社員との出会い。その社員は、高校生のときに交通事故に遭い、車椅子で過ごすことになった。その社員は、名刺作りに携わっていたが、なんと、一人ひとりの社員のことを覚えていたのだ。実際に会ったことはないが、社員の肩書きが変わるたびに、「この社員は海外に行くことになったんだ」「この社員は課長に昇進するのか」など、まるで昔から知っているように話したという。

その話を聞いた小林常務執行役員は、彼らは、外に出歩くことが困難だが、彼らの思いを名刺に託しているのではないかと思うようになる。そうして、この名刺を渡すときに、必ず、伊藤忠ユニダスの話をするようにした。

伊藤忠ユニダスの新社屋の規模は国内でも最大級。セキュリティも整っている。同社の桑野博子・総務部部長代理は創業時に入社し、28年間勤めている。桑野総務部部長代理は、同社に入るまで50社ほど面接を受けたが、車椅子のため、どこも受け入れてもらえなかった。

「ここが唯一私を受け入れてくれた。本当に感謝しかない。定年まであと数年だが、元気に働き、できる限り恩返しをしたい」と話す。

伊藤忠ユニダスの創業期に入社した桑野さん

伊藤忠ユニダスの創業期に入社した桑野さん

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