トヨタ財団は11月28日、トヨタNPOカレッジ「カイケツ」第2期の成果報告会を開いた。約半年を掛けてトヨタ自動車の問題解決手法を学んだNPOが成果を発表した。なかには、当期利益2倍増を実現した団体も出た。その模様を報告する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

トヨタ自動車で業務改善を担当する古谷健夫氏が受講生のNPO代表らに問題解決手法を教える

同講座を開いているのは、トヨタ自動車が1974年に設立した財団法人である「トヨタ財団」。同財団では、社会課題や地域課題の解決につながる研究や活動について助成金を出していた。しかし、社会課題が複雑化していくなかで、支援のあり方も変えていく必要があると判断し、組織マネジメントを伝授する企画を考案した。

トヨタ財団の遠山敦子理事長は財政赤字を抱え、少子高齢化の日本社会ではNPOの存在は重要だと強調した

同講座は昨年から始まり、今年で2期目となる。講師はトヨタ自動車で業務品質改善部に所属する、古谷健夫主査ら。参加者は5人ほどのグループに分かれ、それぞれに講師が一人付く。

トヨタ自動車の問題解決のステップに従い、解決したい対象を決める「テーマ選定」から始まり、「現状把握」、「目標設定」、「要因解析」、「対策立案」の5項目を半年間かけて学んできた。

当日は、参加したNPO団体の代表らが、この問題解決のステップをA3一枚にまとめて発表した。

問題解決の各ステップをA3一枚にまとめた

■労働72時間減で収益2倍

性暴力被害者やLGBTIQの支援を行うレイプクライシス・ネットワークは「持続可能性のあるコミュニティを構築するために収益の安定化」をテーマに選んだ。同団体はLGBTIQなどの当事者によって構成された団体であり、多くのスタッフがボランタリーに関わっている。

スタッフには短期的な成果を求めてしまい、長期的な視野で人材を育成することができていなかった。経営についても、コスト感覚に欠けていた。運営を安定させていくために収益の向上を目指した。

現状把握では、コアスタッフが各事業に費やす労働時間を算出した。月に平均256時間働くが、その76%を「店舗運営」が占める。しかし、店舗運営の収益はわずか9%。各事業を、「利益」「コスト」「リスク」「社会貢献度」「意欲」「収益の将来性」の6項目5点満点で評価した。

店舗運営は8事業中、最も点数が低い事業で、「外部講師」や「自主講座」など費用対効果が高い事業に費やす時間が取れていなかった。

そこで、店舗運営時間を大幅に削減した。その分、広報活動や「LGBTIQレイプサバイバー」に対応したプログラムの開発などを行った。労働時間を月平均72時間減らしたが、店舗運営の利益は変わらず、8~9月の店舗外での当期利益が2016年度平均で2.3倍に上がった。

レイプクライシス・ネットワーク代表の岡田さん(中央)と講師を務めた藤原慎太郎・トヨタ自動車業務品質改善部第1TQM室主査(右端)

同団体代表の岡田実穂さんは、労働時間を減らしたことで、「精神的にも、身体的にも余裕が生まれたことで、広報やプログラムの開発への意欲を持てた」と話した。

同団体が開発した「LGBTIQレイプサバイバー」に対応する人材育成プログラムは日本初のもので、「大きな成果を出せた」と話す。

岡田さんは、「当事者団体であるため、人材を育成していくことが団体を継続するためには必須だった。しかし、困っている人が安心できる社会をつくりたいという焦りから、短期的な成果を求めてしまい、『失敗』とみなしてしまっていた」と振り返る。

そこで、「サバイバーにとって生きやすい社会を」と掲げる同団体のミッションに立ち返ることから始めた。「既にあるリソースをより強化することで、この結果を出せた。自分たちの団体のポテンシャルの高さに気付けた」と言う。

■寄付額30%増

認定NPO法人セカンドハーベスト名古屋は寄付収入を昨対比で30%増やすことに成功した。同団体では事務所移転を控えており、全体収入の3分の1を占める助成金以外での収入増を必要としていた。

セカンドハーベスト名古屋の森さん

寄付収入が増えない要因を解析すると、管理と人材、広報活動において原因があることが分かった。それは、「定例会での確認不足」、「ファンドレイジングの体系的な知識がないこと」「寄付の使途や効果が伝えられていない」「SNSや広報誌での案内不足」の4つ。

対策立案として、定例会では寄付について話し合うことにした。担当者だけでなく、事務局メンバー内でも寄付の意識を上げた。准認定ファンドレイザーの資格を得るための学習も始めた。寄付の定量効果を算出し、寄付金の使途や効果を伝えていった。

これらの施策の成果で、寄付収入が上がった。2017年の1~10月の寄付収入は6354万円。この額は2016年の寄付収入2524万円と比べると152%増だ。だが、この結果は、大手新聞への掲載による大口寄付が大きな要因とされる。新聞への掲載はこの講座で考えた対策を実施する前であるため、この講座による成果とは言い難い。

ただ、その額を除いても、同講座で考えた対策を実施したことで賛助会員による寄付額が上がり、寄付収入は昨年と比べて30%上がった。

■「ビジョンなきところにカイケツは生まれない」

講師を務めたトヨタ自動車業務品質改善部主査の古谷健夫氏は、「ビジョンなきところにカイケツは生まれない」と言い切る。「志を持って団体を立ち上げたが、目先の仕事に追われてしまい、長期的なビジョンを描き切れないでいる。この講座では、仕事を棚卸して、どんな社会をつくりたいのかを起点に事業を考えていった。この半年間で学んだことを繰り返し、一歩ずつ社会を良くしていってほしい」と話した。


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