電子お薬手帳を開発したソニーの新規事業部門の「harmo(ハルモ)事業室」は、障がい者向け就労支援事業などを行うLITALICO(リタリコ)と組んで、普及活動へ力を入れる。発達障がいがある子どもを持つ親に服薬管理での悩みを聞き、サービスを改良していく。ソニーが開発した電子お薬手帳の利用者は10都市23万人に及ぶ。(オルタナS編集長=池田 真隆)

harmo事業室とLITALICOのメンバー

日曜日の午後、東京目黒にあるLITALICO本社でワークショップが行われた。集まったのは発達障がいがある子どもを持つ保護者たち。なかには、愛知県から駆け付けた参加者もいた。

参加者は各班に分かれて、「子どもの服薬」に関して日頃抱えている悩みを言い合った。参加者の9割が、薬の副作用・効果に対して疑問・不安を持っていた。服薬自体の是非や、相談相手、今後の展望に関する不安が6割に及んだ。

■薬自体にも工夫を

新薬に関する情報が特に不足していると感じており、いつまで服用すればいいのか、薬の消費期限について知りたいという声が出た。なかには、カプセルの大きさや形を変えるなどして、薬自体に子どもが飲みたいと思える工夫がほしいとの声もあった。

■有料でも「相談先ほしい」

相談窓口の少なさについては、有料でも医師や薬剤師とのマッチングアプリを求めていることが分かった。その背景として、限られた時間では医師には本音を伝えにくいことがあるという。

学校の先生や教育委員会の理解がないことで、学校に登校させることが不安だという人もいた。転院のタイミングや最新の医療情報をアプリや座談会の場で収集できる機会がほしいとのことだった。

■服薬管理、アプリに期待

harmoのアプリには、子どもが飲む気になるご褒美の設定(ゲーム、キャラクターが育つなど)を求める声もあり、harmo事業室では、今回出た意見を参考にして電子お薬手帳へ日々の服薬管理に役立つ機能の改良を検討していく。次の段階では、電子お薬手帳を公募したモニターに利用してもらうことも考えている。

ワークショップにはソニーやLITALICOの社員も参加。写真は今回の連携を担当したソニーharmo事業室の石島知氏

今回、harmoとLITALICOが組んだ背景には、「服薬管理の課題」がある。鈴木悠平・LITALICO発達ナビ編集長は、「薬の管理に困っている保護者さまは多く、そもそも有益な情報にアクセスできていない状況にある。harmoを通じて薬の服用管理をしてもらうことに加え、自社でコンテンツを作り、harmoの新サービスである情報通知機能も活用し、コンテンツを配信することで、この課題を解決していきたい」と話す。

鈴木氏が編集長を務める「LITALICO 発達ナビ」は発達が気になる子どもを持つ保護者ら向けのポータルサイトで、月間の読者数は240万人を誇る。今回のワークショップの参加者はこの読者から募った。

同サイトでは、発達障がいがある子どものコミュニケーションや学習、服薬などに関する記事を配信している。今後は、harmoの会員へ向けた記事も作成していく。そうすることで、電子お薬手帳の普及を通して、服薬管理の課題を解消することを目指す。

そもそも電子お薬手帳など医療情報を個人が管理することの意義は何か。川崎市立川崎病院小児科の楢林敦医長は、「本来、患者さんの情報は患者さん自身が持つべきもの」と述べる。

「医療情報を患者さん個人が管理することで、将来的には患者さんが自身のカルテを自分の意思で共有することが出来るようになる。病院を移られた場合に再度検査する必要もなくなるし、より正確な情報が医師に伝わるので、適した対応も取りやすい。そして、医療費の抑制にもつながる」

だが、この医療情報を個人が管理することには病院ごとで賛否が分かれる。地方では、人口に占める医師の数が少ないためこの取り組みは進められているが、大病院が乱立する都市部では動きは鈍い。

その原因について、楢林医長は「病院の主導権争いや前例がないことを嫌がる体質にある」と指摘する。しかし、「患者さんのことを考えた場合、どうすればよいのかは明らか」と言い切る。

harmo事業室の石島知氏は同サービスについて、「個人を起点とした医療の情報連携システム」と述べる。「このサービスは患者さん自身でお薬の情報を簡単に管理でき、それを医療提供者に提示することができる。例えば、かかりつけのA薬局でお薬をもらった患者さんがB薬局に行った際にA薬局でもらったお薬の情報を提示する。こうすることで、患者さんを起点にして医療提供者間でその患者さまの情報を共有することに繋がる」。

「普及させることで、患者さま個人がお薬の情報を管理して自分の意思で共有するようになれば、提供された情報に基づき医療提供者は適切な服薬指導などに役立てることができる。患者さんと医療提供者のコミュニケーションを円滑にし、結果的に医療の質向上にも貢献していけるはず」と力を込める。

harmo創案者の福士岳歩氏は利用者のニーズベースで広げていきたいという。すでに、滋賀県では同県の薬剤師会が、大阪府豊中市では利用者が集まり、行政への働きかけもはじめている。国としても医療費の抑制に向けて医療情報のICT化を進める方針で、追い風だ。

個人が服薬情報を管理するにあたって、情報漏洩を防ぐためセキュリティ対策にも万全を期した。利用者の個人情報はお薬手帳のカード(交通系のICカードなどで知られるFeliCa技術を活用)に、お薬の履歴はクラウドサーバーにそれぞれ暗号化して保存する。こうすることで、万が一クラウドサーバーから情報が漏洩したとしても、個人が何の薬を飲んでいるのか特定されることを防いだ。

ソニーでは電子お薬手帳を推進するため2013年にharmo事業室を設立。現在は普及させるフェーズだ。

LITALICO執行役員の岡本氏

電子お薬手帳の行方はどうなるのか。LITALICOの岡本敬史・執行役員は、「情報が溢れるなかで、正しい情報を発信し続けていくこと。そして、利用者の期待に応えていくことが普及へのカギではないか」と話した。


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