タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆獅子奮迅

市場では色々物が売られていた。
熟していないグリーンバナナ、小さくて硬い。ラグビーボールより大きいジャックフルーツ、赤や青の毒々しい色の熱帯の魚、大きな肉の塊。新聞紙に包んだフィッシュアンドチップスを売っていたから歩きながら食べ、シティーマーケットを抜けた。辺りはすっかりと暮れてアベユーは甘酸っぱいくちなしの匂いが漂っていた。しばらく歩くと人の群がりがあった。

赤と紫のイルミネーションが点滅した看板にはStar Lightと書いてあり、女たちがビールをラッパ飲みしていた。
「寄って行こうやないか」
「いいですね」
入り口で100シリング払って中に入った。
バンドが煩く演奏している場所を通ると外に出てしまった。ナイトクラブと言うよりビアガーデン?いやむしろただの野原だ。草原に金属製の安テーブルと折り畳み式の椅子が並んでいるただの空き地だった。
「なんや、外に出てしもうたやないか」

小室が狐につままれたような声を出した。野原に女が何人もいて、まるで黒い狐の群れの様だった。目を凝らすと、まばららに固まる先客の白人達にまとわりついている。末広たちがやって来たので一斉に目を向ける。空いた席に座るやいなや女が寄ってきて飲み物をたかった。

10シリング札をやるとそれぞれがバーカウンターに行ってソーダやビールを買ったり買わなかったり。さらに100シリング紙幣を何枚かやると女たちはビールを末広たちに買ってきた。かれこれ10人以上の女が集まって来てしまった。タスカビールの空き瓶が並んで、ムシカキという焼肉が大皿で置かれた。日本人は気前がよすぎる。女を持って行かれたイギリス人らしい男が二人、女を取り返しにやってきた。

女の腕を掴んだ。末広たちには挨拶なしだ。「なんや嫌がってるやないか」と小室が腕に入れ墨をしたランニングシャツの男に言った。日本語の意味がわからずとも表情は読める。男が小室を睨んだ。一緒に来た黄色の顎鬚をした太った男がなにか言った。分からない。もう一人の背の高い若者が来て、小室を指差し、なんかまくし立てている。「帰りましょうよ」末広が小室に言った。「ああ」とだけ言って小室が立ち上がった。

二人は建物に向かった。女が二人付いてきた。その時、後ろから何から飛んできて小室の頭を越すと、入り口の壁に当たってパシャと鳴った。中身が入ったビール瓶だった。ビンは一瞬、壁に張り付いたように潰れ、壁をずり落ちて床に散った。

小室が体を翻すと、ビンを投げた男に向って跳び上がり、空中を歩くように飛ぶと黄色い髭の男の顎を蹴って着地した。蹴られた男は腰から崩れて仰向けに倒れた。小室が地面に片手を付いて着地すると、他の男たちが小室に組みついた。末広が小室に重なっている男を引き剥がしにかかると、三人目の若い背の高い男が後ろから末広の首に腕を回した。末広はその男の片腕を両手で掴んで体を前に丸めた。男は末広の背で逆立ちをしたように両つま先を天井に向けると、丸太が倒れるようにして隣のテーブルの上に背中から倒れた。見事な一本背負いだ。

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