武蔵大学社会学部メディア社会学部メディア社会学科松本ゼミはこのほど、「地方紙から考えるこれからの地域メディアと地域社会」をテーマにトークイベントを開いた。ゲストには、元河北新報社デジタル戦略委員会シニアアドバイザー、現メディアプロジェクト仙台代表理事佐藤和文さんを迎えた。(武蔵大学松本ゼミ支局=森 洋平・社会学部メディア社会学科3年)

イベント風景。ヤフー社内に設けられたコワーキングスペース「LODGE」

かつて地方紙の休刊、廃刊が進んだアメリカでは地域に根付いた地方紙が廃刊となり、その地域に関する情報が希薄になり投票率の低下、行政の監視が曖昧になってしまい地域行政の汚職につながったことなど問題が生じた事例が存在する。

アメリカの事例だけに関わらず地域メディアというものが今後の日本の地域社会においては必要不可欠であり、地域の情報源の1つとして地方紙は大きな役割を担っている。

しかし、近年のデジタル化により新聞の発行部数の減少が問題となっており、地方紙の休刊や発行部数の大幅な減少が強いられている。そんな地域メディアの現状について今回はスポットが当てられた。

ゲストの佐藤さんは、河北新報社でデジタル化が進んだ90年代、2000年代にデジタル局長だった。この経験を踏まえながら、新聞のデジタル化、ネット進出が遅れていると問題提起した。

加えて退職した現在、仙台メディアプロジェクトとして活動する中で関わりを持つインターネットニュースメディア「TOHOKU360」と代表の漆田さんが仕掛け人となりインターネットサイト内で仙台市の出来事やニュースを様々なコンテンツを用いて発信するNPO法人「メディアージ」について紹介した。

■TOHOKU360からみる可能性

佐藤さんが紹介した「TOHOKU360」は仙台を中心に活動をしている。2015年から、地域メディアとしてインターネットニュースを発信している。

記事を書いているのは、地域情報の発信に関心のある人々で、「通信員」と名付けられている。通信員は「東北ニューススクール」という講座を受けて記事制作のノウハウを学ぶ。講師は大手新聞社で働いた経験のある現役のジャーナリストだ。

TOHOKU360は通信員が主となりニュースを発信しているが、ニュースと言っても政治や時事情報では無い。自分の身の回りで起きた心動かされた出来事などのローカルニュースを重視している。

一つのニュースを作り上げる過程で、通信員会議が行われる。プロとアマの連携コミュニティーが自然と出来上がるそうだ。

「TOHOKU360」の活動は「ローカルの価値を掘り起こし既存のメディアにはない新たな地域メディアとしての可能性を生み出すのではないか」と佐藤さんは語った。

ゲストの佐藤和文さん

■新聞はコミュニティーサイズへ

トークライブ後半では、参加者から前半部の佐藤さんの話についての質問や今後の地方紙、地域メディアへの意見交換が行われた。

意見交換の様子。司会進行は武蔵大学社会学部メディア社会学科松本ゼミ3年吉岡優作、森洋平の2人によって行われた

学生からの質疑では、河北新報のデジタル化に対する状況や、地域メディアがなくなってしまうことで起きるデメリットについてなどが寄せられた。

質問に対して佐藤さんは地域メディア、ローカルメディアに対して「価値観の多様化を実現し、無尽蔵に生き続けている」と考えを述べた。

新聞業界に携わる参加者からは地方紙、全国紙の生存について「ネットが普及した現在、今後の新聞というメディアが生存していくには新聞の根本である瓦版のようにますますローカルになっていく、つまりコンビニのようにコミュニティーサイズにしていくことが新聞の生存の要素ではないか」という意見が挙がった。

インターネットが普及する現在、どこにいても様々な情報を取得できる環境になった。だからこそ身の回りの小さなニュースを発信していく地域メディアが、人口減少していく日本のこれからの地域コミュニティーに大きく付与していくのではないだろうか。


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