タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆死の臭い

「くたばってしもうた奴をどないするんや」
「置いていく?」
「That is only one thing we can」

お互いに顔を見合わせた。ピーターがリアシートに横たわっている男の両足を引きずり出そうとした。顔をしかめる。「スメル バヤサナ」酷い臭いだ。「フルブラッド」血だらけのシートが夜目にイカ墨の様に真っ黒に見える。ピーターが血糊で滑る男の体を殆ど引き出そうとするので末広は男の頭を両手で持って支えた。

死の臭いがする。死神の臭いだと思った。男の半分開いた目は黒目が見えず、赤黒く見えた。ピーターがかまわず引き出す。小室が男の腰を支え、末広が頭を抱えて車の外に運び出した。そうしないと頭がコンクリートに当たってスイカの様に砕け散ると思ったからだ。重い頭が血糊で滑ってもう持ちきれない。

「降ろそう降ろそう」末広は殆ど落とすように男の頭を玄関横の植え込みの横に下した。小室が手を放し、ピーターが足をドスンと捨て下した。三人はまた顔を見合わせた。なにも言わずそろそろと車に戻り、スピードを上げて病院を去った。

「服がベロベロや」「ぐったりです」ピーターは日本人二人に室内に手を塗り付けるなと言ってから、車のクリーニングにいくらかかるか分からないと言った。東の空が赤紫に染まり景色がぼんやりと色づいてきた。車は市内のラウンドアバウトを廻って西に向かった。

車に朝日が差すと車の汚れが地図のようにはっきりしてきた。車がウエストランドホテルのパーキングロットに入る。テラスの前に車が停まった。既にコーヒーショップは開かれて、ウエイターたちがブレックファーストの用意をしていた。二人は話しかけられるのが嫌だったので、そうっと階段を上って部屋に帰った。

末広が部屋に入って血だらけの服を脱ぎ棄てていると隣の部屋からシャワーの音が聞こえた。末広もバスルームに入って乱暴に水道の栓を捻って水を流して服をかなぐり捨てた。上着の下着も全てだ。

真っ裸の小室が冷たいシャワーを浴びると、床に投げ捨てられた服の乾いてこびりついていた血が溶けて流れ出して、バスルームの白いタイルの床が赤く染まった。石鹸で体をこする。石鹸が手から飛び出した。床に落ちた白い石鹸が血に染まってピンクになった。「ロゼワイン」と一人ごちた。体をろくに拭きもせず、裸でベッドに倒れ込んだ。

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