タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆生き返る

ドアノックの音で眼が醒めた。鍵のかかっていない戸が開いて清掃人が入ってきた。もうそん時間になっていたのだ。カーテンが開いたままの窓からかなり強い日の光が差し込んでいた。衣服を付けて小室を起こし、バスに乗って他の学校に出かけた。そんな日が何日か続いたある日、ナイロビの事務所から呼び出された。小室とバスに乗って市内の事務所に入ると、そこには所長と肩章が付いた制服を着た太って偉そうな中年の警察官が座っていた。なんだろう。立っている二人に所長が言った。「君たちハイウェーで交通事故者を助けなかったか?」

あの事か・・・「はい」「へえ」二人同時に答えた。まずい。末広は思った。死体遺棄だ。小室はそんなことは頭にないように「助けました。大変な思いをしました」と快活に答えた。

何か自分の善行が表彰されると思っているようだ。しかしそれは末広の思っているようなまずい事でも、小室が期待している良いことでもなかった。所長が二人に座るように言った。末広が部屋の隅の椅子を持って来ると、小室は所長の机の角に腰かけようとして叱られていた。末広は古びた木の椅子を二つぶら下げて所長の机の前に座った。所長はおもむろに「この方はナイロビ署の所長さんだ」と言った。末広はとてもまずいと思い、小室はとても良いと思った。

「君たち二人には裁判に出廷してもらう」と所長が言うと、末広はとてもとてもとてもまずいと思った。そして小室は怪訝な顔になった。「なんで裁判所で表彰されなあかんのですか?」
「誰が表彰されるんだ」
「わしたち二人がです。人命救助や」
「確かにそいつは助かった。しかし面倒なことに首を突っ込んでくれたもんだ。ハイウェーでは車からおりてはいけないと言っただろう」
「た、助かったのですか?」末広が恐る恐る尋ねた。
「助かった」所長が頷いた。

「助かった」末広も頷いた。もはや死体遺棄ではない。「裁判所でなんかくれますの?」小室が訪ねた。「くれないよ。君たち二人は証人だ」
「何をしますの」小室は眉をひそめて尋ねた。
協力隊の所長が、警察の署長に何か英語で聞いた。黒くて恰幅のよい所長と茶色に干からびて小さい所長の対比が情けなかった。
「その男はインド人の食料品店に深夜忍び込んだ泥棒だ。金庫を壊して金を盗んで逃げる途中あまり急いだから事故った。来週の月曜日が裁判だ」所長がよろしくと言うようにちょっと手を上げると、飲みかけのコーヒーを飲み干して席を立って二人に手を差し出した。二人はペコリと頭を下げて握手に応じた。
「クワヘリ、アサンテ」と言って署長が部屋を出ると、所長が苦虫を潰したような顔をして言った。「全く余計な事をして」

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