タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆農地法5条と3条
「裏ですかあ」啓介は天を仰いだ。
「なにか私に農業をさせないような」
「なんでさせたくないんでしょうね」
「分からないから不思議なのです」
「分からないから末広に聞いてみましょう」
啓介はポケットから携帯電話をとりだして登録番号に電話を掛けた。しばらく呼び出し音が続いて末広の野太い声がした。
「ご苦労さん」杉山にも聞こえた。
「裏があるらしいです」
「なんの?」
「杉山さんの農地には」
「農地の裏には山かなんかがあるだろうよ」
「いえ、杉山さんの農転が許可にならないのは裏があるみたいです」
「だからどうした」
「その裏は何だか教えてください」
「バカ。山梨の俺が分かるわけがないだろう」
杉山は落胆した。この若者の頭脳の低さは酷い物だ。
「何の為に埼玉に出かけたんだ」
「社長が行けって言ったからです」
「何しに行けって言ったんだ」
「ああそれを聞かないで来ちゃった」
杉山は呆れた。そして途方に暮れた。
「電話を代われ」受話器の声が杉山にも聞こえた。
「代わります」啓介と杉山の声がデュエットになった。今度は啓介が受話器から漏れてくる声を聴く番になった。
「裏って誰かの差し金ですか」
「よくわかりません」
「俺が農業委員会に電話してみましょう。相手はなんて奴ですか?」
末広の声が啓介にも聞こえた。
「3条が中山さんで5条が山中さんです」
俺は何の為にここにいるのか、3条とか5条とか言っていたがそれさえも知らないじゃないか、と啓介は自分に呆れた。
「あの~」啓介がおずおずと杉山に聞いた。
「3条と5条ってなにか教えてくれませんか」
杉山はどうしたものかと考えた。この若者の事は諦めようか、それとももう少し我慢しようか。
杉山の心の中のヤジロベーが何回かスイングして、もう少し我慢するに落ち着いた。
「3条は利用権の移転で、5条が農地転用です」
「杉山さんが畑をどなたかから借りるんですね?でも5条の農地転用ってなんですか?」
「農地を農業以外の用途に使う事です」
「でも、農業をするんですよね」
「そうです。でも太陽光発電にも使うでしょ」
「だから太陽光発電に使わせてくれって言う許可ですよ」
「なんで許可してくれないんですか?」
「まず3条の利用権の移転ですが、当時私の身分は東京の大学の博士課程にありましたからね。農業を真面目にしないだろうという意見が農業委員からだされたそうです」
杉山の語尾が震えた。
啓介の携帯電話も震えた。
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