「社会問題が複雑に絡み合うこの社会には不確かな情報が溢れている。拾われるべき小さな声を拾い、正しい情報を発信し続ける力が求められている」。こう話すのは、移民・難民問題などを中心に様々な社会問題を取材・発信するライター・編集者の望月優大さん。社会的な判断の拠り所となるコモンセンス(共通感覚)を問い直し、多くの人が社会問題について語り合える社会をつくっていきたいと意気込みます。(オルタナS HearTo支局)

国際協力分野で活躍する人を紹介するフリーマガジン「HearTo(ヒアトゥ)」を発行する慶応義塾大学公認の学生団体S.A.L.のメンバーからなる「オルタナS HearTo支局」は昨年末、東京・渋谷で、望月さんへの公開インタビューを行いました。

HearToメンバー27名でインタビューを行った。写真中央が望月さん

望月さんは2010年に東京大学大学院を卒業後、経済産業省、博報堂コンサルティング、グーグル、スマートニュースというキャリアを経て、昨年12月に独立。株式会社コモンセンスを立ち上げました。

グーグルでは、「Google for Nonprofits」の日本ローンチに携わり、スマートニュースでは教育格差の解消を目指した「スタディクーポン・イニシアティブ」の立ち上げにも関わるなど、社会問題への意識を高く持ちながら働いてきました。

独立した現在は、認定NPO法人難民支援協会が運営するウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長に就任しつつ、ウェブメディアを中心とする様々な媒体で、社会的なテーマについて発信するライター・編集者として活躍しています。

インタビューでは、独立を決意した経緯や社会問題に関する情報発信で心がけていることなどを聞きました。私たちが望月さんの話を聞いて、印象に残ったキーフレーズを紹介します。

望月さんが編集長を務めるニッポン複雑紀行

「拾われるべき小さな声を持続的に拾い続けていく、この社会で実現するにはどうすればいいのか」――。まず始めに紹介するのは、望月さんが独立を決断したきっかけについて語ったこの言葉。「転職」ではなく「独立」を選んだのは、社会問題の情報流通に関する危機感を覚えたからだといいます。

社会問題が複雑化している一方で、新聞・TVといった既存のメディアビジネスは厳しさを増しています。7人に1人が子どもの貧困状態にあり、世界でも例を見ないほどの高齢化が進むなか、適切な情報が適切なタイミングで発信され続ける社会をこれからも維持できるのだろうか。そうした危機感があるというのです。

自らの情報発信やNPOの情報発信への支援などを通じて、「(社会問題について)語り合える社会をつくっていきたい」と力を込めました。そのために重要なテーマになるのがSNSの使い方です。

教育格差の問題に取り組むスタディクーポン・イニシアティブ

「人としての面白さが、伝える力になる」――。次に紹介するのは、望月さん流のSNSの考え方です。SNSの発信力はフォロワー数に比例すると考えられがちですが、「フォロワー数よりも、フォロワー一人ひとりとの信頼関係が重要」と言います。

ソーシャルメディアの発達で遠く離れた人とも簡単につながれるようになりましたが、「泥臭い、リアルな人間関係を忘れてはいけない」と強調。望月さんが人と会う際に意識しているのは「誠実な姿勢」。

相手に自分のことを話すときには「肩書」を説明するのではなく、自分を主語にして語るようになりました。所属する企業名などではなく、「望月優大として面白いと思ってもらえるように心がけています」。

自分の発言に興味を持ってもらうには、「一人称で語ること、ビジョンを明確にすること、情報発信を蓄積していくことが大事」としました。

一般的に「social」は、「社会的」と訳される形容詞ですが、福沢諭吉は、人と人とのつながりを意味する「人間(じんかん)交際」と訳したとされています。望月さんの「人として面白いと思ってもらうことが伝える力になる」という言葉を聞いたときに、人との「信頼関係」が発信力のエンジンになるのだと気付きました。

「コモンセンスを問い直すのが自分の役割」――。最後に紹介する言葉は、今回のインタビューで最も重要なキーワードになった「コモンセンス(共通感覚)」についてです。この言葉は、望月さんが立ち上げた会社の社名でもあります。

SNSなどを通じて誰もが情報を発信できるようになった現代社会。残念ながらそれはフェイクニュースなどの不確かな情報が溢れる社会でもあります。そんな社会に生きる人々に求められるのは、正しい情報を発信する力、そして情報の取捨選択をしてできるだけ正しく判断する力です。

そしてこの「正しさ」を社会的にブラッシュアップし続けていくことが「コモンセンスを問い直す」ということの意味だと望月さんはいいます――。

自身もシングルマザー家庭の出身だそうです。決して恵まれた環境で育ったとは言えません。米国の大学への留学中に人種差別の実情に直面した経験も大きかったと語りました。同時に、社会人になり仕事で忙殺された結果、世の中で起きている問題について考える余裕も時間もなくなってしまった、そうした経験も現在の活動の大きな背景になっているそうです。

社会問題を「傍観」する社会から、「語り合う」社会へと変えていく。そのために「望月優大」は今後どのような発信をしていくのでしょうか。「こぼれた声を拾う」望月さんの活躍に注目です。

望月さん


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