根治療法がないパーキンソン病を持つ患者向けに運動を促すコミュニティーが全国で立ち上がっている。患者どうしでリハビリのノウハウや日常生活での困りごとを共有することで、共助の関係性を作り出す。このコミュニティーを立ち上げた、理学療法士の小川順也さんに話しを聞いた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

PD Cafeに集まる参加者、パーキンソン病患者や医療従事者ら

小川さんが立ち上げたのは、「PD Cafeという名称のコミュニティー活動。特徴は、ともに課題を解決し合う共助型にある。参加者は、講師の話を一方的に聞くスタイルではない。そもそも、講師がパーキンソン病を持つ患者自身のこともある。

参加者は普段自宅で行っている運動を紹介し、日常生活で感じているちょっとした悩みを話し合う。つながりを生み出すことで、運動継続を後押ししている。PD Cafeは2013年に東京・小平で誕生。年々数は増えて、いまでは、神奈川(川崎市、横浜市)、山梨(甲府市)、愛知(名古屋市)、広島(呉市)にも広がる。

患者が強みを生かして主体的になれるこの取り組みに共感した当事者や医療従事者らが手を挙げて、主宰者として人を集めている。

■口コミで全国に

この活動を始めたのは、理学療法士の小川さん。帝京科学大学を卒業後、国立精神・神経医療研究センターに理学療法士として勤務し、パーキンソン病患者のリハビリなどをサポートしていた。

小川順也さん

同病院で4年ほど働く中で、ある疑問を抱くようになった。それは、「このリハビリに意味はあるのか」。病院ではリハビリをするが、自宅に帰ると続かない状況を知り、本質的な改善にはなっていないと考えるようになった。

パーキンソン病は筋肉が硬くなり、動きが鈍くなる神経難病。現時点では根治療法がなく、日本の患者数は約16万人。65歳以上の100人に1人に該当する割合だ。

運動と適切な服薬が効果があるとされており、小川さんは患者が運動を継続する仕組みができないか考えだす。パーキンソン病がある患者へヒアリングを行うと、継続して運動ができない要因として大きく2つあることが分かった。

それは、「気軽に運動する場がないこと」と「医療保険で運動を続けられないこと」。これは言い換えると、「気軽に、かつ、医療保険外のサービスで通える場があれば運動を続けられると思っている患者が多い」ということだ。

コミュニティー活動にしたことで、参加へのハードルを下げ、参加費も2時間で1000円程度に抑えた。小川さんは、「理学療法士は運動の専門家であるとするならば、患者は病気の専門家。体験談を通して、アドバイスを送り合える」と手応えを話す。

初めてPD Cafeを小平で開いたときは2013年。まだ小川さんは病院に勤務しており、休日を利用して開いた。それから月に1回の頻度で開催を続けていると、口コミで伝わり、山梨、広島、愛知にもコミュニティーが広がった。

山梨では理学療法士が、名古屋では音楽療法士が「店長」と呼ばれる主宰者であるが、広島では患者自身が手を挙げた。店長は各自で、場所取りを行い、参加者を募る。

2017年は年間で56回も実施された。参加者は700人を超えた。この活動を通して変化したのは患者だけではない。小川さんを始めとする医療従事者も変わっていく。「一人ひとりの患者と向き合うことで、それぞれの趣味や考え方をじっくり聞くようになった。目の前の人と向き合う時間を取れたことで、個性を理解でき、距離感が縮まった」(小川さん)。

今後は、患者の声を集めてデータベースに落とし込みたいと言う。患者の声とは、普段から意識している行為や困りごとなど。例えば、車のアクセルとブレーキの踏み間違えや効果があった運動や薬の飲み方など。

症状ごとにアドバイスをまとめたサイトを開設する予定だ。2019年のオープンを目指す。

PD Cafeのプログラムの一つ

■高校時代に決意

小川さんが理学療法士を目指したきっかけは、祖母のリハビリの辛さを見たことにある。もともと小川さんは人と接する仕事をしたいと思い、保育士になることを志望していた。

しかし、中学生のときに、半身が麻痺した祖母のお見舞いに病院へ行ったとき、平行棒を使って、ゆっくりと歩く祖母の姿を見た。退院後、一人で暮らしていた祖母の自宅へ訪れるたびに、大変な状況を目の当たりにした。

「祖母はダンスが趣味でしたが、行けなくなりました。外に出ることも難しく、見ていて辛かった」と明かす。高校の友人から、運動の専門家である理学療法士という職があると聞かされ、将来はその職に就くことを決めた。

独立した現在は、PD Cafeだけでなく、パーキンソン病がある患者へ適切な運動方法を指導できるセラピストの育成・研修も行う。2022年までには、全国47頭道府県にPD Cafeを広げたいと意気込む。

小川順也:
2011年に帝京科学大学を卒業し、理学療法士を取得。神経難病中心の国立精神・神経医療研究センター病院に入職しリハビテーションに従事。患者さんや家族との対話を通して、医療保険・介護保険などの制度内のサービスだけでは限界があると感じ、2012年から任意団体The Smile Spaceを立ち上げ活動。2015年に同病院を退職した。場づくりを通して強みを活かして主体性を引き出すコミュニティーにより社会課題解決を目指している。


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