日本の学歴社会に一石を投じようとしている若手起業家がいる。24歳の小幡和輝さんだ。小幡さん自身も幼稚園から約10年間不登校を経験した。幼い頃からインターネットを使いこなしていたため、その手法や着眼点はユニーク。SNSだけで、啓発イベントを全国100カ所に広げ、14歳から月1万円を稼ぐプログラムの開発などを行う。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■100人から「仲間になりたい」
今年4月4日、小幡さんは自身のツイッターとフェイスブックで下記の投稿をした。
【まだ決まってないこと多いけど言っちゃう!助けて!】
8月19日に不登校の当事者だけが参加できるイベントをやります。9月1日(夏休み明け)は子供の自殺が一番多い日。
「死ぬくらいなら学校に行かなくていいよ。」
そんなメッセージと仲間、居場所が作れるような企画にしたい。仲間募集です。
この投稿から4カ月後の8月19日、47都道府県の100カ所で不登校の当事者向けのイベントが開かれる。実は、この大規模なキャンペーンは小幡さんの投稿がきっかけで始まった。
もとは夏休み明けの9月1日に子どもの自殺をなくすためのイベントを都内で開くことを考えていた。そのイベントのために仲間を募集したのだが、投稿した初日に大きく拡散され、小幡さんのツイッターには続々と「仲間になりたい」というメッセージが届けられた。
全国にいる不登校の当事者や経験者、そして親からであった。その数は投稿初日で100人に達した。その内、面識があるのは2割程度で、多くは会ったことがない人たちからだったという。最年少は関西に住む13歳の当事者からだった。
予想外の反響に、小幡さんはフェイスブックグループを作成した。仲間になりたいと名乗り出た人とSNSやライブ配信を通してコミュニケーションを取った。不登校を肯定する雰囲気をつくりたかったので、話し合った結果、「1カ所で数百人規模のイベントをしても当事者は来づらいだけ。小規模で全国各地で開催したほうが外に出やすい」となった。
■「#不登校は不幸じゃない」
小幡さんは不登校の経験を持つからこそ、いまの空気に違和感を持つ。「子どもを学校に通わせることだけをゴールにしている風潮がある。戻りたいのであれば戻ったらいいが、学校に行かなくても問題ないということを個人的には思っている。不登校の子どもに適した生き方を提案したい」。
小幡さんは約10年間の不登校を経験した後、定時制高校に通い、そのときに起業した。若者向けに地元和歌山の活性化に取り組む事業を展開していくことで、社会とのつながりをつくっていった。2017年には、高野山で「地方創生会議」を主宰。47都道府県のキーパーソンが参加した。さらに、クラウドファンディングと連携した1億円規模の地方創生ファンド「NagomiShareFund」も立ち上げた。
「学校に通わなくても問題ない」と言い切る背景にはこうした実績がある。この思いが今回の企画の根底にあり、「#不登校は不幸じゃない」というキャンペーンが生まれた。
SNSで集まった仲間には自由にイベント内容を考えてもらった。コンセプトはキャンペーンの名称通りで、当日実施するコンテンツは、プログラミング教室や音楽の演奏体験、料理教室など実に多様だ。
小幡さんからお願いしたのは、イベントは夏休み前の8月19日に無料で開催することと、チームの中に当事者か当事者の家族を必ず入れること。そして、その人の意見を尊重すること――のみだ。
「イベントを企画するにあたって、フェイスブックグループで悩み相談は受けたが、ほぼ関わっていない。すべての会場をコントロールすることができないので、大枠のイベントの流れを考え、プレスリリースやチラシのテンプレート作りや、PVの作成、会場やメディアの紹介などを行なった」(小幡さん)
これらの費用は小幡さんが7月に発売した著書 『学校は行かなくてもいい 親子で読みたい「正しい不登校のやり方」』(健康ジャーナル社)の印税を充てた。
会場費などイベント開催に掛かる経費は各地の主催者の持ち出しにした。それでも、プログラミング教室を開く地域では、参加者のPCを自前で揃えたり、宣伝用のチラシを1000枚以上刷ったりした地域もあった。
「こんなにたくさん悩んでいる人がいることを可視化できてよかった。この動きを通して、学校に行きたくない人を無理やり行かせることはおかしいのではないか?というメッセージを伝えたい」と話す。
■14歳から毎月1万円の仕事
不登校の肯定を目指す小幡さんだが、その後の当事者のキャリアについてはどう考えているのか。日本では新卒一括採用を行う企業が多い。就職活動の面接では学生の中身を見るとはいっても、そもそもエントリー時点での足切りは少なくない。そして、足切りの判断軸の多くは「学歴」だ。
小幡さんに直球で質問したところ、「学校名以外で分かりやすい評価軸を持っていれば学歴はいらないはず」と答えた。「例えば、プログラミングやエクセル作業、ゲームのレビューなどを14歳から取り組み、毎月1万円稼いできた人と22歳までまともに働いた経験がない大学生だとどちらが評価されるか?」。
現在、小幡さんは14歳から毎月1万円稼ぐためのプログラムを開発中だ。子どもにはスキルを教えていくと同時に、仕事の発注を通して、人とのつながりをつくる。学校ではなく、フリーランスが多いコワーキングスペースに通ってもらうことも考えている。
「子どもの頃、不登校だった人で結果論としてうまくいっている社会人はいる。学校に通わなくても問題ないという願望で終わらせるのではなく、不登校の子どもに合わせた生き方をマニュアル化して、現実的に考えていきたい」と意気込む。