住まいに求められる社会性は、災害対策、省エネ、資源循環など多彩だ。住宅メーカー大手の積水ハウスは、新築戸建住宅に占めるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が76%と、経済産業省が目標とする「2020年までに過半数」をすでに達成、外構には日本古来の生態系に沿った植栽を提案する「五本の樹計画」で生態系保全に取り組むなど、社会課題基点に立った住まいづくりで業界を牽引している。その中でもユニークな「アウトサイドイン視点」と言えるのが、子どもの視点に立った住まいづくりの研究だ。(オルタナS関西支局=立藤 慶子)
多くの人にとって一番落ち着く場所であろう住まいは、子どもにとって、実は危険な場所でもある。14歳以下の子どもの死亡事故発生場所は、家庭内が31%と、交通事故やその他の死亡事故よりも多いのだ(平成28年人口動態調査)。
また、家づくりを考える際、「子どもがのびのびできる家」や「子育てしやすい家」などを希望するステークホルダーは多い。このことから積水ハウスでは、2000年頃から、子どもの安全・安心への配慮はもちろん、「子どもが自ら育つ力=子育ち」という視点で、子どもが本来持って生まれ、自ら育とうとする力を伸ばすことができる住まいのあり方や、子育て家庭がくつろげる住まいの研究を重ねてきた。
2007年には、子どもの健やかな成長発達に貢献する社会創出を目指して様々なステークホルダーと協議を重ねる「NPO法人キッズデザイン協議会」と連携。このNPOの調査研究部会「こどもOS研究会」を、同社研究所がリーダー企業として立ち上げた。研究会では、発達心理学や認知心理学(アフォーダンス理論)の考え方をもとに、例えば「高所によじ登ろうとする」「狭いところが好き」といった子ども特有の行動特性を観察、パターン化。子ども特有の行為を代表的な22のデザイン共通言語『こどもOSランゲージ』として抽出し、「プレイフル・デザイン・カード」を作成した。これらは企業が製品・サービスを考える際のアイデアや発想のツール、安全・安心のデザイン提案に役立てられている。
(こどもOS研究会:http://www.kidsdesign.jp/labo/)
同社が2018年にリニューアルした「トモイエ」にも、子どもの居どころ研究の知見は散りばめられている。同商品は、近年の共働き世帯の増加を受け、女性に偏りがちな傾向のある家事・育児負担を「家族みんなで参加する=みんな家事」に変える動線やアイテム提案を盛り込んだ共働きファミリー向けの住宅提案だ。
「洗濯導線を限りなくゼロにする洗濯専用室」や「家族みんなで同時に作業できるセパレートキッチン」など、「トモイエ」では主に水回りの家事効率改善の提案がされ、家事動線の工夫により住まい手に新たに自由な時間をもたらすという側面もある。が、「トモイエ」開発のリーダーであり、前述の「こどもOS研究会」メンバーとしても活動する同社住生活研究所所長・河崎由美子氏によると、もう一つの隠れたテーマが「家族の居どころ」だったという。
「共働き世帯が増えて、家族の時間も大事だけど自分の時間も大事にしたいと考える人が増えています。それぞれが思い思いにくつろげる空間づくりにおいては、子どもの研究が生かされています。例えば、『子どもは段差があるところを好む』『床を少し低くした“くぼみ”空間は心理的な安全性が得られる』などの行動特性研究の知見をもとに、床を少し低くしたピットリビングなどの要素も組み合わせて提案しています」。
「トモイエ」は、子どもの安全・安心と健やかな成長発達に役立つ製品・サービスなどを顕彰する「第12回キッズデザイン賞」において、今年9月、奨励賞・キッズデザイン協議会会長賞を受賞している。これからも同社の子ども視点の研究に注目したい。<PR>