アパレル大手ストライプインターナショナル(岡山市、石川康晴社長)が基幹ブランド「earth music&ecology」を立ち上げてから20年余りが過ぎた。当初から「エシカル(倫理的)」をコンセプトにしていたのは先見の明だが、この数年でようやく顧客の意識が追い付いてきた。石川社長はエシカルを掲げる目的は「ロイヤルカスタマー(優良顧客)」の開拓戦略だと言い切る。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆 写真=飯塚 麻美)
このインタビュー記事は第4弾となります。第1弾はこちら

インタビューを受ける石川社長

海ごみへの意識は「まだ足りない」

最近、私たちがCSRやSDGsを推進していくにあたって、いくつか足りないと感じている領域があります。その一つが海への意識です。そのため今年5月からショッピングバッグ有料化(20円)に踏み込みましたが、一番大きい店では3%のお客さまが拒否反応を示しました。

都心に近づくほど、抵抗感を示す方は少なかったのですが、地方は拒否される方が多い傾向にありました。店長からは半泣きで「どうしたらいいですか」と助けを求められました。

そのときに会社のレギュレーションとしては、「自己中心的で地球環境を考えないお客様は我々のステークホルダーから外れてもらっていい」と、明確に打ち出し、いまもその方向性で突き進んでいます。

8月1日からは全ブランドでオーガニックコットン素材のエコバッグの販売を始めました。来年の2月には、すべてのショッピングバッグを紙などに変える予定です。プラスチックは完全に廃止します。

いずれにしても、ショッピングバッグ代として20円いただきますが、利益にするつもりはありません。いま考えているのは、岡山大学海洋汚水研究所と組んで、瀬戸内海の海洋汚水研究を地域大学と行うプロジェクトの資金に活用することです。

また、クラウドファンディングの草分けであるREADYFORと組んで、新たなプロジェクトを来年実行することも考えています。

――「地球環境を考えないお客さんはステークホルダーから外す」と明確に意思表示をしたとのことですが、社内から反発は起こりませんでしたか。

石川:こうした判断は20年前にはできなかったと思いますが、いまなら、最小リスクでこの概念で経営できると判断しました。

エコロジーやCSR、SDGsなどには、一定のリテラシーはある会社なので、反対意見は出ませんでしたが、ショッピングバッグそのものが20円は高いのではないかという意見は出ました。

なんで20円にしたのかというと、10円だと毎回ショッピングバッグを利用する人は減らないと思ったからです。20円がいい塩梅ではないかと考えました。

企業の最大の目的は「ソリューション」

――SDGsもCSRも、あくまで経営のツールです。CSRやSDGs自体を目的化する必要はありません。むしろ、SDGsやCSRの取り組みを通して社会課題を解決し、未来の顧客を生み出すことが企業の目的でしょう。石川社長は企業の目的をどう考えておりますか。

石川:企業の最大の目的は「ソリューション」だと思います。若い世代ほどそう考えている気がします。

スタートアップの経営者は「ソリューション」という言葉をよく使いますが、事業で社会課題を解決することがすごく大事だと理解しています。一昔前は、金儲けのために起業する風潮がありましたが、ようやくスタートアップの意識が変わってきましたね。

――利益追求型から社会問題や環境に配慮した循環型企業を目指すようになってきたのですね。

石川:私たちは、創業から「Do good」という概念を大事にしていて、日本語だと「いいことをしよう」です。これは3つに分けていて、「ビジネスグッド」「ソーシャルグッド」「ローカルグッド」です。

ビジネスで地域や社会の問題解決にどう貢献できるのかということを考えながら25年間やってきました。このDo goodという概念はSDGsにもぴったり当てはまりますし、近江商人の「三方よし」ともつながります。

例えば、大学3年生が教育実習の時期に入るとアルバイトができなくなります。そういう子たちも視野に入れて、「メチャカリ」というサブスクリプション型のファッションレンタルサービスを立ち上げました。

月額5800円で服借り放題のサービスです。大学4年生から社会人になるとき、結婚するときなどのライフステージが変わるときにその場に合った服も必要になります。そういうときに、メチャカリが生きてきます。

顧客の高いリテラシーに合わせた製品を提供

最近、当社はドーナツ事業も始めました。大手コンビニチェーンもドーナツから撤退して、ミスタードーナツでさえも減収するなかで、どうしてドーナツなど始めたのかと言われます。しかし、社会課題は明確で、多くのドーナツはカロリーが高くてケミカルだからです。

京都にあるkoé donutsは、出来立てのドーナツをナイフとフォークで食べる体験型のドーナツファクトリー

私たちは199キロカロリーで食べられるドーナツをつくっています。有機小麦を使って、農薬だらけの植物油から玄米油に変えました。原価は倍くらい高いですが、これでカロリーは3割近く落ちました。さらに、エシカルなサプライヤーではないといけないので、京都に出した一号店では、京都産の卵と牛乳を選んでいます。

店舗も建築家の隈研吾さんに内装を依頼して、手ではなく、フォークとナイフで食べるドーナツを提供しています。一番高いドーナツは1800円ですが、安いものでは200円のものもあります。

子どもに食べさせる素材に関してリテラシーが高い若い親が増えています。服だけでなく、飲食でも、若い層のリテラシーに合わせて作り方を考え、ビジネスで社会課題の解決を実践していきます。

石川 康晴(いしかわ やすはる)
株式会社ストライプインターナショナル
代表取締役社長 兼CEO
1970年12月15日岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円、グループ従業員数は6,000名を超える。中国、台湾、ベトナム、インドネシアなど海外各国への進出も強化しており、国内外の店舗数は1,500店まで拡大。ファッションのサブスクリプションサービス「メチャカリ」や、ECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」、ホテル併設型グローバル旗艦店「hotel koe tokyo」など、最新テクノロジーを駆使したプラットフォーム事業・ライフスタイル事業にも注力。公益財団法人 石川文化振興財団の理事長や、国際現代美術展「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。



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