元陸上選手の為末大氏による、引退後初のプロジェクト「為末大学」が24日、表参道で開催された。「スポーツとアート」のコンセプトで、超集中状態とされるZONEについて話し合われた。

議論は約2時間に及んだ。写真右から為末氏、谷尻氏(白シャツ)、小川氏


為末大学は、為末氏の「常識に捉われすぎずに議論を通して物事を決めていきたい」との思いから生まれたプロジェクトである。為末氏を含む有識者数人が壇上にあがり、参加者と議論する仕組みで行われる。

今回の「為末大学」は二回目となる。登壇者には、為末氏の他に、アルスエレクトロニカ・フューチャーラボの小川秀明氏と建築家の谷尻誠氏を迎え、約80人の参加者と共に議論した。

為末氏は、アーティストの2人を議論相手に選んだ理由を、「アーティストは常識を超えるモノを世の中に生み出している。その姿勢が、アスリートが自分の限界を超えることに似ていたので選んだ」と説明した。

ZONEとは何か。為末氏は、ZONEのことを「超集中状態」という。ただ、どうやってその状態に入ったのか認識することは非常に難しいという。「睡眠状態と似ている。寝ていることは分っているが、いつ寝たのかは詳しく分らない。それはZONEの状態と似ている」と話す。

会場からの、「ZONEと成績は関係するのか」という質問に、ZONE状態になれば、良いパフォーマンスが発揮できて成績は良かったと、為末氏は答えた。レースの前には、トイレに行き、人を寄せ付けない顔をしているのか鏡の前で確認していたというエピソードも紹介した。ZONE状態でのレースは、走った実感が感じられずに、我を忘れているという。

ZONEに入る鍵は何かという質問に小川氏は、「私たちは周りの環境にリアクトしながら生きている。なので、周りの環境に適した文脈でつながろうとすれば、自然にZONEに入るのではないか」と話す。

谷尻氏は、「何らかのリビット(繰り返す行動)が必要なのではないか。建築でも祭りでも、何もない所に向かい続けると見えてくる景色があるはず」という。

為末氏は、「失敗を恐れず、他者の目を気にしないで、今この瞬間だけに集中することでZONEに入りやすいのではないか。会場のお客さんに期待される重圧に押しつぶされるのではなく、その期待されているパワーに上手く自分を乗せる感覚」と話す。

自分のベストな環境を見つけることが大切と話す谷尻氏


また、最近流行りのソーシャルメディアとZONEの関係性にも話は及んだ。

「ツイッターやフェイスブックに没頭しすぎると、何をしていてもソーシャルメディアに気がいってしまい、一つのことに集中できなくなってしまうのではないか」と、為末氏は疑問を投げかけた。

小川氏はこの質問に対して、「SNSが発達してどこにいてもすぐに連絡が取れるようになったので、リアルタイムで連絡を取り合うことが良いとされているが、返事を一呼吸置く事も良いのではないか。スポーツは時間を掛けたら、フィジカルに影響が返ってくるが、SNSではいくら時間をかけても、フィジカルには影響しないので、無意識のうちに多くの時間を掛けてしまっているのではないか」と、答えた。

谷尻氏は、「できないときはできないものと認めた方が良い。ただ、ZONEの状態になるには、いつも自分のコンディションを整えておかなければいけないので、自分にとってベストなパフォーマンスを発揮できる環境を作っておくことが大切になる」と話した。(オルタナS副編集長=池田真隆)