後を絶たない虐待や子どものいじめ、それによる自死などのニュース。学校や家庭といった閉鎖的な環境の中で、周囲の大人たちがSOSに気づき、サポートすることはできなかったのでしょうか。子どもへの暴力を未然に防ぐためには「子どもは無力ではない」ということを大人と子どもの両方が知ることが大切だといいます。子どもへの暴力防止のための予防教育に取り組むNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

子どもへの暴力防止プログラムとは

幼児期の子どもへのプログラムの一場面。ポーズをつけて、皆で「あんしん・じしん・じゆう」と声に出す

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「CAP (Child Assault Prevention)プログラム」は、1978年にアメリカで開発された子どもへの暴力防止プログラムです。日本で1995年からこのプログラムを広めるために活動しているNPO法人「CAPセンター・JAPAN(キャップセンター・ジャパン)」は、大阪市阿倍野区に事務所を構えて活動しています。

小・中学校、幼稚園・保育園を主な現場として、子どもと大人(保護者、教職員、地域の人たち)を対象にプログラムを提供、2019年3月までに556万人以上が参加しました。このプログラムの実践者を育成する養成講座も開催しています。

「一貫して『子ども自身には力がある』ということを、プログラムを通じて伝えています」と話すのは、CAPセンター・JAPAN事務局長の長谷有美子(はせ・ゆみこ)さん(56)。これまでの活動でできたネットワークを駆使し、子どもの人権研修などにも関わっています。

実は身近な「子どもへの暴力」

お話をお伺いした長谷さん(左)と重松さん(右)。大阪の事務所で

「子どもへの暴力」と聞くと、虐待やいじめ、身体的な暴力などをイメージしがちですが、目に見えないだけで、実は身近なところで起きているといいます。

「暴力のイメージとして殴る・蹴るということがあると思いますが、暴力はそれだけではありません」と話すのは、事務局次長の重松和枝(しげまつ・かずえ)さん(56)。

「CAPプログラム」の実践者を育てる養成講座では、参加者と「何が暴力なのか」を考える際、「暴力っていうほどじゃないかもしれないけど…」「ひょっとしてこれも?」と、大人たちからさまざまな意見が出るといいます。

「子どもへの暴力防止のための基礎講座」にて、「子どもの暴力ってなに?」のディスカッションで書き出された言葉。「いじめ」「体罰」「性暴力」などの言葉の他に「居残り」「給食の食べ残しの対応」「親の期待・エゴ」などといった言葉も。参加者同士のやりとりで多くの気づきが生まれるという

「大人から子どもへ一方的に意見を押し付けること、子どもの意志を確認しないこと…。こういったことが、小さな”芽”として存在します。社会全体として、大人が子どもの持つ力を信じられておらず、子どもだからという理由で『何もできないでしょ』『なんとかしてあげる』という思いで接していること。それが結果として子どもの力を奪ってしまうことになりかねません』

「『子どもには力がある』と知ることが、子どもにとっては自己肯定感や自信を育む一方で、周囲の大人にとっては、子どもを信じ、その力を最大限に活かすための働きかけにつながっていくのです」

子どもにとって特別に大切な3つの権利

小学生向けプログラムの一場面。「あなたはどう思う?教えて」。子どもに問いかける

「大人はおおむね良かれと思って、そしてちっとも悪いと思わず『この子のために』とその子の力を奪ってしまう」と二人。「大げさだと感じるかもしれませんが、それは人権の侵害になるということを意識すべき」と警鐘を鳴らします。「人権の侵害」とは、一体どういうことなのでしょうか。

「プログラムでは、子どもに、そして大人に対しても人権とは『人が元気に生きていくのに絶対に必要なもの』と伝えています。そして、その中でも子どもに特別に大切な3つの権利が『あんしん(安心)・じしん(自信)・じゆう(自由)』です」

「子ども向けのプログラムでは、『”あんしん”ってどんな時?』『”じしん”はどんな時に感じる?』と問いかけ、皆で『あんしん・じしん・じゆう』を考えながら、『元気に生きていくために誰にも取られたくないものが権利だよね』と伝えています。つまり、子どもの『あんしん・じしん・じゆう』が脅かされた時、それは立派な人権の侵害になるのです」

小学校1、2年生までのプログラムの一場面。「人形劇を通して、知らない人に出会ってこわい思いをしたら何ができるかを一緒に考えます」(長谷さん)

「社会的に無力と捉えられがちな幼児期の子どもであっても、本人が『あんしん・じしん・じゆう』のいずれかでも感じられていれば、危機が迫った時、『あんしん・じしん・じゆうがなくなっている』と感じ、それを危機だと認識できて圧倒的に対処できるようになる。SOSを発信することができるようになります。そういうふうに捉えていくと『何が暴力なのか』も見えてきます」

「極端な話をすると、親戚の子どもにあった時、迷いもなく抱っこしたり頭を撫でたりスキンシップをとる人がいますが、触れられるのが嫌な子どももいますので、これも人権の侵害になる可能性があります。自分のからだは自分のもの。その子のことは、その子が決める。触れてもいいか、よくないか、誰が触れていいのか、それを決められるのはその子自身なのです」

「社会性」という言葉の延長線上に
暴力を受けた時に「イヤだ」といえない環境が

おとな向けのワークショップの様子。おとなも安心・自信・自由のポーズを実際にやってみて、子どものけんりについて考えているところ

一方で、子ども自身が、幼少期にすでに自分が本当に思っていることやしたいことが閉じ込められ、行動だけでなく心までもコントロールされてしまっている状況があると二人は指摘します。

「このことが結果として、さまざまな暴力に遭いやすい環境を生み出してしまっています。『社会性』という言葉の延長線上に、暴力を受けた時に『イヤだ』といえない環境が生まれてしまっているのです」

「分かりやすい例があります。3~5歳の就学前の子ども向けプログラムでは”自分がスコップで遊んでいる時に無理やり『ちょうだい』といわれる”というロールプレイングを行うのですが、『みんなならどうしますか』と問いかけると、多くの子どもたちが『仲良くしないといけないから貸してあげる』あるいは『後で貸してあげる』という。『貸さない』という子はいないんですね。周囲のおとなから常々『仲良くしなさい』と教えられているからです。幼児期の段階で、すでに『イヤだ』ということがわがままとか自分勝手だと捉えられているんですね」

児童養護施設でのプログラムの一場面。プログラムの後、「さっき話していた”けんり”って、私にもあるの?」と聞きに来る子どももいるという

「多くの大人は人とうまくやっていくために、良かれと思って『仲良くしなさい。スコップを貸してあげなさい』といってその場を収めようとするでしょう。でも、もし貸したくなくて『イヤだ』といったら、たとえば泣き出す相手の姿を見て『相手にも気持ちがあるんだな』ということを学ぶ機会にもなったでしょう。『貸して』といった相手も『自分の欲しいものが全部手に入るわけではなんだな』と学ぶ機会になったでしょう。そんな学びの機会さえ、おとなのその場の『安心・自信・自由』が優先されてきたことによって奪われてしまっているのです」

「被害者だけでなく、加害者にも、そして傍観者にもならない」

おとなワークショップの様子。子ども対象プログラムの模擬体験(相談のロールプレイ)

プログラムを通じ、「子ども自身には力がある」ということを、子ども、そして大人の両方が知ることは、「暴力の被害者にならない」ということだけでなく「加害者にも、そして傍観者にもならない」ことにもつながるといいます。

「一人ではないんだということ、助け合う力があるんだということ。一人ひとりがそう思えることが、状況を変えていくきっかけになるのではないでしょうか」

「教育の現場へ行くと、先生から『あの子が問題なんです』『あの子さえ何とかなってくれたら』という声も聞かれます。しかし『この子が問題だ』という視点で見ている限り、その子が自らの力を発揮できる状況にはならないでしょう。家族との関係や貧困など、何らかの状況で自分の力が十分に発揮できない背景があって、力を感じるためや憂さ晴らしのために問題行動を起こしていることもあるのです」

障がいのある子どもへのプログラムの一場面。「イヤ」という練習をしているところ

「社会の状況の中でいうと、子どもは多くの場合において『穴の中に落とされた状況』だということを大人たちが知ることが大切です。大人が立っている地面に穴が掘られていて、その中にいるのが子どもたち、という状況があると思っています」

「大切なことは、『どうすればこの子が力を発揮できるのか』を考えること。大人が『私が満足』と感じる支援ではなく、子どもが『自分には力があるんだ』と感じられる支援であること。そのためには『地域みんなで支えていくよ。あなたは大事な人やからね』という意識が大切だと思います」

「『子どもはこうするものだ』『子どもはこうあるべきだ』『子どもに正しいことを教えてあげる』という大人の固定概念が、子どもからすでに力を奪っている可能性があるのだということを、頭の隅に置いておいてもらえたらと思います。大人同士の関係であれば、相手と何かをしたり勧めたりする時に『どう?』と聞くのは当然のこと。なのに、相手が子どもになった途端『従って当然』とか『聞いても仕方ない』という風になってしまっているのではないでしょうか」

子どもへの暴力予防プログラムを広げるためのチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「CAPセンター・JAPAN」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

子どもが安心して暮らすことができる社会を作っていくためには、周囲のおとなたちの理解と協力が不可欠です。「JAMMIN×CAPセンター・JAPAN」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、多くの人にCAPプログラムや予防教育のことを知ってもらうため、広く一般の人たちに向けて、各地で公開講座を開催するための資金となります。

「JAMMIN×CAPセンター・JAPAN」3/9~3/16の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。アイテムは他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、いろんな種類の草花が生えた一本の枝。子どもたち一人ひとりに個性や背景があり、皆それぞれが大切な存在なのだということ、また、周囲のおとなたちのさまざまな支援を受けながら、一人ひとりが輝きながら生きる様子を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、3月9日~3月15日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「あんしん・じしん・じゆう」は子どもの権利。あらゆる形態の子どもへの暴力の根絶と予防教育に取り組む~NPO法人CAPセンター・JAPAN

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は290を超え、チャリティー総額は4,000万円を突破しました!

【JAMMIN】

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