東北で初となるパートナーシップ制度の導入に向けた動きが加速している。変革の旗手は移住してきた20代の若手市議会議員だ。同性カップルを「婚姻相当の関係」と認める「パートナーシップ制度」は2015年に東京・渋谷区と世田谷区で始まり、全国47自治体に広がっている。しかし、東北地方だけは、どの自治体も導入していなかった。制度がないことで都市への流出や当事者の自死にもつながることがある。(オルタナS編集長=池田 真隆)
” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]「パートナーと会う」=不要不急
「同性カップルは家族として認められていないので、 『不要不急』とみなされ、 会うことさえもできない」――これはLGBTQを対象にしたアンケートの答えだ。新型コロナウイルスの感染対応について抱えている不安や悩みを聞いた。
実施したのは、同性婚の法制化を目指す一般社団法人「Marriage For All Japan -結婚の自由をすべての人に」。このアンケートで明らかになったことが2つある。一つは最大の不安が、「入院や緊急時などに(パートナーと)連絡が取れるかどうか」であること。そして、もう一つは、その不安は、家族として認められていないことから起因しているということだ。
日本では同性同士が結婚する「同性婚」を法律で認めていない。そのため、一緒に暮らしていても法律上は「同居中」と認識される。親族ではないため、入院時の集中治療室への入室や同意書の記入、葬儀への参列、遺産相続などが認められていない。
友人・知人に「いない」が8割超
LGBT総合研究所が2019年に実施した調査では、性的マイノリティーは人口の10.0%に及ぶことが分かった。10人に1人という割合は、左利きの割合と同じだが、非LGBT層の85.6%が性的マイノリティーは「身の回りにいない」と回答した。
8割以上が友人・知人に当事者がいないと答えた背景には、当事者が差別や偏見を恐れて自身のセクシュアリティーを話していないことがあるが、そもそも打ち明けることを是としていないこともある。「カミングアウトが必ずしも必要だと感じていない」という回答もおおよそ2人に1人からあった。
これらのことから、一人で悩みを抱えた性的マイノリティーの姿は「見えなく」なりがちで、声を可視化することが困難を極めるのだ。
「制度なし」は東北地方だけ
では、どのようにして声なき声をすくいあげて包括的な支援につなげていくのか。その担い手はミレニアル・Z世代といわれる若者たちだ。SNSネイティブな彼らはインターネット上で様々な人と交流し、多様な価値観を持つとされる。
ジェンダーやセクシュアリティを研究している福島大学教育推進機構の前川直哉特任准教授は、「各種調査から、性的マイノリティーへの理解度は、年配より若年層が高いことが明らかになっている」と述べる。
岩手県陸前高田市議会議員の木村聡(あきら)さん(26)も担い手の一人だ。木村さんは、盛岡市議会議員の加藤麻衣さん(25)と組んで、陸前高田市に東北地方で初となる「パートナーシップ制度」の導入に向けて動いている。
同性カップルを「婚姻相当の関係」と認めるパートナーシップ制度は2015年に渋谷区と世田谷区で始まったが、いまでは東北地方以外の47自治体に広がった。
制度がないことで自死にも
東北地方の自治体がどこも導入していない理由について、前川氏は「実証データがないので、私見になるが」と前置きした上で2つ説明した。一つは、地元の報道の少なさにより、当事者が実名・顔出しで声をあげづらく、可視化が進んでいないこと。
もう一つは、女性の政治家(地方議員や首長)が相対的に少ないことだ。「東北は(性的マイノリティーに関して)最も理解に乏しい『年配の男性』が各界で力を持っている。ジェンダーやセクシュアリティーに関する議題の優先順位が上がらない」とした。
前川氏はパートナーシップ制度がないことによる社会的損失についても言及した。「制度がないことで当事者が都会へ流出する傾向があるし、デンマークやスウェーデンでは同性婚を認めたことで同性愛者の自死率が大幅に減ったというケースもある。制度の導入は社会的に同性愛を認めることにもつながるので、声をあげやすくなり、可視化しやすくなる」。
21年4月までに制度導入を
木村さんは3月の議会で一般質問に立ち、パートナーシップ制度導入の可能性について質問した。同市の戸羽太市長からは、「性的マイノリティーの方にこのまちで暮らしていただく選択肢をご提示する上でも、ぜひ実現したい。一方で当事者が本当に望む形で制度設計をしなければならない」という回答を得て、一定の手応えを掴んだ。
4月からは識者に協力してもらい、市民向けのオンライン勉強会を複数回開き、当事者の声を集めている。今後はアンケートを実施して、6月に控える議会で、制度を導入するための委員会の発足を提案する考えだ。アンケートにより見えなかった声を可視化し、データに基づいた議論を委員会で行い、2021年4月までの導入を目指す。
木村さんはパートナーシップ制度に関心を持ったのは、「問題を知ってしまったから」と言い切る。「結婚したときに多くの方に祝ってもらった。恋愛対象がたまたま異性であったが、もし同性だったら同じように祝福されていただろうか。そう思うと他人事に感じられなかった」。
時代を動かすのは若者の「価値観」
筆者はかつて、世界で初めて同性婚の法案を通したオランダの元国会議員ボリス・ディトリッヒ氏にインタビューしたことがある。「同性婚を通すための最大のカベは何だったか」という質問には、「旧世代の価値観」と答えた。どう乗り越えたかと聞くと、「法案通過後に生まれた子どもは同性婚が当たり前の時代を生きる。モラルは崩壊しないと論破した」と笑顔で語ってくれたのが印象的だった。取材の最後に、ディトリッヒ氏は「いつの時代も若者の価値観が社会を動かす。声をあげ続けよ」と言い残して去っていった。
よく地方を変えるのは、「よそ者、若者、ばか者」と言われるが、まさに木村さんもそうだ。東京生まれ東京育ちの木村さんは、学生時代に東日本大震災の支援団体に入った。その団体の活動拠点が陸前高田市であったことで、東北と縁ができた。慶応義塾大学大学院を卒業後、25歳で陸前高田市に移住して、昨年26歳の若さで市議会議員に当選した。
木村さんは取材中、「最近、こんなうれしい出来事がありました」と教えてくれた。それは、小学校の同窓会でのこと。男の子を生んだ友人は子どもに「美遙(みはる)」と名付けた。その由来を聞くと、「男の子でも女の子でもどっちになろうが名乗れるから。性別は本人が決めればいいと思う」と答えた。
その友人は特段、性的マイノリティーに関心が高いわけでもない。社会課題に意識が高いわけでもない。多感な時期にジェンダーを描いたテレビドラマを観て育ったため、「このほうが、この子のためになる」と考えたのだという。
「自分も含めて若い人の価値観は本当に変わってきていると実感しています」と木村さんは話した。
【こちらもおすすめ】
・世界初 同性婚通した元議員
・「移住なら親子の縁切る」22歳の葛藤
・LGBT成人式「やっと笑えた」