日本には約503万人の身体障がい者・知的障がい者がいて、そのうち約485万人が在宅(身体障がい者419万人(うち在宅412万人)、知的障がい者84万人(うち在宅73万人))で暮らしています(内閣府「平成30年度 障害者白書」から)。医療の進歩によって重度の障がいがあっても長く生きられる命が増えた一方で、介護者である親や家族が老いた時、あるいは亡くなった時に彼らの生活はどうなってしまうのか。「重度障がい者の地域の暮らし」の実現に向けて活動する団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「親亡き後も、暮らしてきた地域で同じように暮らし続けられる社会を」

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福岡市を拠点に活動する認定NPO法人「障がい者より良い暮らしネット」は、「重度障がい者が、親亡き後もそれまで暮らしてきた地域でそれまでと同じように暮らし続けられる社会を作りたい」と、重度障がいのある子の親たちが集まり、2008年から活動しています。

団体を立ち上げるきっかけになったのは、重度障がいのある娘の介護をしていた一人の母親の突然の死でした。

「ひとり親のご家庭だったため、遺された弟たちには障がいのあるお姉さんのお世話をすることが難しく、彼女はこれまで暮らしてきた地域を離れ、家族からも仲間たちからも離れ、遠くの入所施設に入ることになったのです」。そう話すのは、代表の服部美江子さん(67)。自身も重度障がいのある息子を持つ母親です。

服部さん(左)と長男の剛典さん(右)。剛典さんは福岡ソフトバンクホークスの大ファン。「ペイペイドーム球場」に応援に行った時の一枚

「地域に受け皿がないためにこれまでの生活から切り離され、縁のない遠い場所で暮らさなければならない。それは彼女に限ったことではなく、どの障がい者も同じ運命にあるのだと、自分の子どもたちの置かれている現実を突きつけられるできごとでした」と当時を振り返ります。「現状を何とかできないか」と周囲に声をかけ、活動をスタートさせました。

それから12年。「制度も少しずつよくなった部分もありますが、『地域に重度障がい者の暮らしの場がない』という問題は、ほとんど改善されていない」と服部さん。一昨年からは「重度障がい者の地域の暮らしの実現」に焦点を絞って活動しています。

在宅以外の障がい者の「暮らしの場」とは

団体副代表の並松富美代さんと長男の健輔さん。「食事は一さじずつ口に運んであげます。43年間、一日も休むことなく続けてきました」(並松さん)

41歳になる息子の剛典さんと、現在も共に暮らす服部さん。「平成30年に当会が独自に行った『地域の暮らしの場に関するアンケート』では、重度であることを示す身体障害者手帳1級の方は98人あり、その中で家族と暮らしているのは95人という結果でした」と話します。つまり重度障がいのある人のうち、97%の人が家族介護を受けながら、家族と生活しているという実態が明らかになったのです。

では家庭の事情によって、または家族の入院や死別によって家族と共に暮らすことができなくなった時、障がいのある人たちはどのような場所で生活をすることになるのでしょうか。

「障がい者の暮らしの場として『施設入所支援』『療養介護』『共同生活援助(グループホーム)』の制度があります。『入所施設』とは、主に夜間において入浴や排泄、食事等の支援を行う場所、『療養介護』は、医療と常時介護を必要とする人に医療機関での機能訓練や療養上の管理・看護、日常生活上の援護などを行う施設です。こちらは入院を伴います」

並松さんと長男の健輔さんは現在でも週に1回、リハビリのために通院し、筋の緊張をほぐすなど体幹維持を行う

「『共同生活援助(グループホーム)』は1989年に制度化された新しい暮らし方で、『地域での暮らしを望む知的障害者に対し、日常生活における援助等を行うことにより、知的障害者の自立生活を助長することを目的とする』として始まりました」

「入所施設は、資料で見ると定員が約30人~400人を超えるところもあります。それに対してグループホームは数人〜最大で10人の2ユニットと比較的小規模で、かつ地域の中にあるアパートやマンション、一戸建てなどで、より家庭に近い環境で生活できると考えます。入所施設は多数の職員さんがいて、たくさんの入所者全体を見ながら個別に介助や生活支援を行うのに対し、グループホームはその規模に応じた職員で少人数の入居者の介助や生活支援を行います。一人ひとりに対する『まなざし』というか、そんなことに違いが出るような気がします」

重度障がい者がグループホームに受け入れられづらい現実

生活介護の餅つき大会で、餅をつく剛典さん

現在、「重度障がい者の地域の暮らしの実現」のために、重度障がい者のグループホーム実現に向けて動いていている服部さんたちですが、その背景には「重度障がい者が受け入れられづらい現実」があるといいます。

全国的に見てもグループホームに入居する障がい者のうち、重度者が占める割合は少なく、「重度障がい者がグループホームで暮らすのは限定的」と服部さんは指摘します。

「たとえば24時間介護が必要な重度障がい者の場合、今の介護の制度では24時間介助のための財政的な支援がありません。つまり重度障がい者を受け入れるとなると、介助に必要なヘルパーさんを雇う資金などをグループホームがカバーしなければならず、経済的に大きな負担になるという現実があります。であれば、24時間の介護は必要としない、比較的軽度な障がい者を受け入れる方が事業として安定するのです」

初めて向き合う「親なき後の障がい者が、地域でどう暮らしていくか」という課題

「我が家は3人きょうだいです。いつも障がいのある長男を中心にして遊んでいました」(服部さん)

「『親亡き後の障がい者が地域でどう暮らしていくか』という問題は今、私たちの世代が初めて向き合う問題かもしれません」と服部さん。医療の発達により、以前は長く生きられなかった障がいでも長く生きられるようになったことで直面する課題であると同時に、一昔前は放課後等デイサービスやホームヘルパーといった福祉の制度が充実しておらず、親が我が子の介護にかかりきりになり、社会に対して声をあげることも難しかった背景があるのではないかと話します。

そして今後、障がいのある人が地域で暮らせる社会を築いていくためには、制度の充実だけではなく、地域の理解や寛容さも必要だといいます。

赤ちゃんを抱く剛典さん。「成人した今でもきょうだいはとても仲良しで、剛典は甥や姪の誕生を心から喜びました」(服部さん)

「『ダイバーシティ』という言葉が各所で聞かれるようになりましたが、この世の中には障がい者に限らずさまざまな方たちが生きています。健康な人でも高齢になると誰もが何らかの障がいを持つようになります。偏見を捨てて、寛容な心を持って受け入れてほしいと思います」

「ALS患者の嘱託殺人の事件がありました。さまざまな意見が飛び交う中で、ALSで国会議員の船後靖彦さんが『”死ぬ権利”よりも、”生きる権利”を守る社会にしていくことが何よりも大切』とブログの中で書かれていました。命の安心と安全が保証され、それが大前提としてあって、その中で最大限に自由が尊重される、尊厳ある暮らしを守ってやりたい。親としてそう思います」

「介護する親御さんたちも、それぞれ大変な思いをしています。我が子の面倒を見るのは当たり前だけど、子どもが成人した後、30歳40歳になってもずっと介護が続いた時に、親にも人生があって、親も救われたいという思いが私自身ありました。そのためにも、障がいのある人が尊厳を持って生きられるシステムが必要ではないでしょうか」

「重度障がい者の地域の暮らし」実現を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「障がい者より良い暮らしネット」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×障がい者より良い暮らしネット」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、グループホームが完成するまでの工程を記録し、冊子にするための資金として使われます。

「JAMMIN×障がい者より良い暮らしネット」8/24~8/30の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:モスグリーン、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、風船や気球に吊られて空飛ぶベッドと車椅子。「一人ひとりが生きたい場所で、生きたいように生活できる地域社会をつくっていこう」という願いが込められています。

チャリティーアイテムの販売期間は、8月24日~8月30日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

重度障がいのある我が子が、親なき後も「いつもの街で いつもの暮らし」を送れるように〜NPO法人障がい者より良い暮らしネット

山本 めぐみ(JAMMIN):JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

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