社会課題と企業課題を同時に解決する「社会派クリエイティブ」を得意とする辻愛沙子さん。ツイッターのフォロワー数約4万人を誇る注目のZ世代のクリエイターに、コロナ後の社会で企業に求められるサステナビリティを聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

辻さんは中高時代を英国、スイス、米国で過ごし、在学中からアート製作を精力的に行う、大学(慶応SFC)入学に合わせて帰国した

――コロナ後の社会で、企業に求められるサステナビリティは何だと考えますか。

去年の後半ごろから、お金の循環を意識してモノを購入する「応援経済」の勢いが増してきたと感じています。同時に、社会課題についてオープンな形で議論するようにもなってきたと感じています。これらはSNSで誰でも容易に様々な情報をキャッチアップできるようになったことが背景にあると思います。これまでは、社会課題について特定の専門家や有識者だけで限定的に話していた印象ですが、経営者やタレント、学生など様々な立場の人が口にするようになりました。この流れはコロナ禍でさらに加速していくと思います。

企業にとって、経済合理性と倫理性は、二項対立にとらえられてきましたが、社会課題や倫理への意識を建前ではなく、本気で高めないと消費者が離れていくでしょう。

特に、いまの子どもたちはSDGsが教科書に載っている世代です。社会と自分の関係性や支払ったお金がどこへいくのかを強く感じながら育っているので、その世代が大人になって、資本を持って経済を回す側になると大きく社会は変わると思います。

――社会とのつながりを感じながら育ったZ世代に企業はどのようにアプローチしたらよいでしょうか。

例えば、環境保全として、ラベルレスボトルを企業が導入するとします。「いい企業と見られるのと同時に、これまでプラゴミを排出してきた功罪を認めたからこその新しい意思表示とも見られます。社会課題に対して取り組むということはそういう事。将来への意思表示と、過去への贖罪の自己矛盾に、板挟みにされ、頭を悩ませた結果、多くの企業は「まだうちには早いから」と敵を作ることを恐れて、当たり障りのないイメージを訴求する。その積み重ねが今の物申さぬ日本の風土にもつながっているのかなと思っています。

正直にいって、全てがクリーンな会社も個人も存在しないと思っています。だからこそ、常に内省し、改善点を認めた上でのアクションを積み重ねていく事が重要なのだと思います。Z世代は社会課題にもデジタルにもリテラシーが高い層が多いので、表面的なメッセージか、これまでの事業の贖罪と未来への意思表示としての取り組みか、その企業の本気度を見抜く力を持っていると思います。

前提として、Z世代に企業がコミュニケーションを取るには、スタンスを明確に表すこと、そして、これまでしてきたことを隠さず内省することの2つが大事です。この作業をしっかりしないと炎上する確率が高まります。それができてから、どういう意思を未来に出すのか考えます。最後に、社会の潮流を読み取り、伝えたいメッセージを最適化します。ですが、言葉で言うほどスタンスを明確にすることは簡単ではありません。経営者と時間を掛けて議論を重ねて、ようやく固まります。でも、スタンスを決めたとしても、それが今の社会に受け入れられるとは限らないところが広告の難しさ。

社会課題は複雑化していて絶対的な「正解」がない時代なので、「正解」よりも、議論をわき起こす「問い」を投げかけることが有効です。もちろん、社会性だけだと説教臭くなってしまうので、ビジュアルやデザインなどを工夫して、若者が自発的に気になりだすようなクリエイティブも欠かせないです。

多様な「解」、教育で啓発


――辻さんは「社会派クリエイティブ」を掲げていますが、社会性を強調したのはなぜでしょうか。

そもそも社会派ではないクリエイティブはありません。でも、明確に出したのは、広告で培った技術や知見、アイデアは社会のために活用できると思ったからです。

個人的にジェンダーには関心が高いです。中学、高校は海外で育ったので、日本に帰国してからジェンダーへの意識のギャップを強く感じました。若者や女性への無意識の偏見は、日本社会に染みついているので、その課題についてZ世代に啓発していきたいと思っています。

そして、いつかは教育分野に携わりたいです。絶対的な「正解」を求めるのではなく、それぞれに解があることを子どもたちに伝えたいです。議論と炎上をごちゃまぜに考えてしまうところがあるので、長期的な取り組みで若年層の意識を変えていきたい。企業も社会課題へのスタンスを明確にすることへのハードルが下がっていくはずです。

辻 愛沙子(つじ・あさこ)
1995年11月24日生まれ。株式会社arca代表、クリエイティブディレクター。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。news zero(日本テレビ系)のレギュラーコメンテーター