「海洋プラゴミ問題への関心は高まっていますが、まだ研究が十分に進んでいません。解決するための明確な科学的な回答がないので、このことが問題を複雑化していると思います」――こう話すのは、駒場東邦高校3年の楜澤(くるみさわ)哲さん。今春から東京大学でプラスチックの研究を行う楜澤さんは、高校生が識者と海洋プラゴミ問題を解決するための研究を行うプログラムを企画しました。(オルタナS編集長=池田 真隆)
楜澤さんが考えたプログラムはこうです。まず全国から高校生と高専生を募集して、審査で約100人に絞ります。その中から、興味のある課題ごとに8人程度に分け、各チームには海洋プラゴミ問題に詳しい研究者やビジネスパーソンをメンターとして付けます。高校生とメンターは共同で約半年間を掛けて解決策を考え、そのプランの実現性を競い合います。
研究テーマは次の3つ。一つは、「プラスチック製品の代替使用」、もう一つは、「プラスチックの回収・処理手法の最適化」、そして最後が、「プラスチックの海洋環境への影響の削減」――です。各チームは興味のあるテーマを選び、オンラインで定期的に議論を行います。
高校生の募集は7月20日から始まっていて、8月19日まで集める予定です。メンターには、保坂直紀・東京大学大気海洋研究所特任教授や浅利美鈴・京都大学地球環境学堂准教授、高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授ら約20人が名をつらねます。
優れた研究を行ったチームは来年2月に行われるサステナビリティをテーマにしたカンファレンス「サステナブル・ブランド国際会議2021 横浜」での発表機会が与えられます。
■研究に「高校生の力」生かす
このプログラムを企画した楜澤さんは、高校生が各国の大使になり切って国連を模倣する「模擬国連大会」の日本代表に選ばれた高校生。模擬国連に出場して、同世代と社会課題を議論したことが、このプログラムを考えたきっかけと言います。
「模擬国連で話し合った決議案にも脱プラ推進は記載されていましたが、高校生の力では具体化できることが限られています。そこで、研究に特化すれば高校生の力を発揮できると考えました」
そうして立ち上げたのが、IHRP (Interdisciplinary High School Research Program) 実行委員会。「高校生でもできること」「高校生だからこそできること」をコンセプトに掲げ、高校生と研究者・企業をつなげて社会問題への解決策を生み出すことを目指した有志団体です。
そのコンセプト通り、楜澤さんも今春から東京大学で大学生とともに、生分解性プラスチックや代替素材の研究を進めています。これまでの活動でできたアカデミック分野の識者とのつながりは多く、それを生かして、今回のプログラムを企画・実行しました。
協賛と後援には、10以上の会社や団体が付いていますが、そのほとんどは楜澤さんがメールで依頼したものとのことです。「社会実装できない非現実的なプランは求めていませんし、ただのアイデアコンテストで終わらないようにしたいです」と力を込めます。
「プラスチックの代替素材を考えるには、生分解性の弱さや脆さを解決しなければいけないし、プラスチックの使用量を減らすことも検討するなど多角的に見ないといけません。また、リサイクルについて考えるには、日本で行われているサーマルリサイクルがco2の排出要因になっていること、EUはリサイクルとして認めていないなど国際基準にズレがあることを踏まえて、議論してほしい。海に廃棄されたプラスチックが海洋環境へ及ぼす影響をどう測るのかも十分に考える必要がある問題です」と今回の3つのテーマについて自身の考えを述べます。
Z世代やミレニアル世代は社会や環境意識が高いと言われていますが、そのことについては、二極化が起きていると指摘します。「意識が変わってきている世代ではあると思いますが、一方で上辺だけの活動に留まる人もいます。思いだけでなく、科学的な知見から解決策を導き出したいです」と前を向きます。