「スラムダンク1億冊感謝キャンペーン」「星野仙一優勝感謝新聞広告」などを手がけて数々の実績を持つ佐藤尚之氏。去年の東日本大震災では震災後すぐに「助けあいジャパン」を設立する。マスに伝える広告に関してはプロ中のプロと呼ばれた佐藤氏だが、震災の情報を社会に発信する際には広告の手法は一切使わないと話す。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆、オルタナS特派員=大塚康平)
——佐藤さんは広告業界で働かれていたときには、数々の実績を収めてきました。ソーシャルメディアが発達した現代においてどのようにして相手に「伝える」のが効果的だと思いますか。
佐藤:ソーシャルメディアでは真摯に伝えたい想いを発信し続けていれば必ず伝わると思います。また、人に何が伝わるのか、というと建前や一般論ではありません。自分たちの生の熱い声を伝えるべきです。それぞれが持っている熱い想いを日々真剣に発信します。
なんとなく感じているのですが、学生たちは雑誌やテレビに対して必要以上にかしこまった見方をしてしまい、こんなユニークな言い方があるのではないかと思っているかもしれません。しかし、一番伝わるのは自分の生の声なのです。
それ以上伝わるものはありません。自分の生の声を発信すればいい。熱い気持ちがしっかりあれば必ず伝わります。
■自分の気持ちを表さない限り共感は生まれない
——ソーシャルメディア上で共感を集める発信の仕方などはありますか。
佐藤:個人の気持ちを発信することだと思います。そもそも人間は生まれも育ちも違います。なので、共感というのは起こるわけがありません。分かり合いっこないのです。この考え方が前提にあります。
しかし、人間は分かり合えないからこそ、他人の中に自分と似たところを探しにいきます。そうして、自分と似たところを見つけたときに共感は生まれます。
しかし、一般論をいくら述べても、人は共感を探しにはいけません。
相手に心を開いて、自分の気持ちをさらしてこそ、相手はその人の中に共感を探しに入っていけます。なので、共感というのは他人に対して自分ならではの気持ちを出さない限り生まれません。一般論ではなく、自分オリジナルの言葉であればあるほど深い共感は生まれます。
■ソーシャルメディアが肥大化させた「仲間事」
——ソーシャルメディアで自分の想いをさらして発言したときには、共感と同時に批判も出てくるかもしれません。その時の対処法などのコツはありますか。
佐藤:コツというものはありません。コツやテクニックよりも自分をどう見せるのかを考えてその通りに素直にさらします。ブログやツイッター、フェイスブックをしていたらほとんど裸のようなものです。見栄を張ってもすぐにばれてしまいます。
だから、インプットして自分を着飾ろうとする学生も多いですが、飾らないで等身大の自分を出してほしい。批判も出てくることはありますが、そこでまた気づきもあります。ソーシャルメディアの最低限のマナーを守って、どんどん発信してほしいと思います。そして、批判されたら考える。そうしていかないとリテラシーは上がっていかないと思います。
——ソーシャルメディアが主流になっている現代社会では、コミュニケーションのあり方はどのように変化していくと思いますか。
佐藤:情報には「世の中事」と「自分事」がありました。「世の中事」とは、新聞やテレビで流されているニュースなどのことです。主に一般的な情報です。「自分事」というのは自分だけに関する情報です。
ソーシャルメディアが発達して大きく膨らましたものは、「世の中事」と「自分事」の間にある「仲間事」という情報です。自分の仲間が昨日「お風呂で転んだ」とか、そのようなことがニュースになります。
仲間が転んだことは、「世の中事」にはなりませんが、友達が転んだということは自分にとってのニュースです。つまり「仲間事」という領域がすごく増えていきます。仲間が何をしたのか、そういったことがすごくニュースとして増えていくのが今後の社会です。
そうして、「仲間事」の世界が膨れ上がり、個と個の人間関係が中心になっていきます。そして、その「仲間事」の中で広がっていく情報は一般論ではなく、個人の共感を呼べるような、素を出したものになっていくと思います。
——仲間事の情報を中心に受けると思いますが、暮らし方にはどう影響を与えるでしょうか。
佐藤:江戸時代の長屋のようになる気がします。壁がうすくて隣の喧嘩まで全部聞こえるような暮らし方になるでしょう。近所で食事に困っていたらご飯をごちそうしたり、障子が壊れたらお隣からもらってくる、そんなイメージです。
ようするに、多くの人が村などの関係性が嫌で東京という大都市に出て来たのですが、ここにきて村的な暮らし方に戻っていくのではないかと思います。
——消費活動にも影響を与えますか。
佐藤:ものすごい影響を与えます。友人たちを通して伝わってくる情報が一番に入ってきます。「お前も買った方がいいよ!」という一言がかなり重要になってきます。
■阪神淡路の時には「がんばろう」と言って去っていく人がたくさんいました
——「助けあいジャパン」ではソーシャルメディアを通じて有志が集まったそうですね。どのような活動をしているのでしょうか。
佐藤:主に情報産業の方が集まり、被災者の救済と復興を支援するために、被災地における不足物資や必要な支援、また不必要な物資や支援等の情報を収集しています。
被災地の方々と被災地以外で支援を行いたいと思っているボランティアや個人にその情報を提供しています。また、現地を車で周りニーズを汲み取りながら、各地域が連携できるように働きかけています。
——最近の若い人は社会貢献思考が高まっています。助けあいジャパンの活動にも学生が参加しているそうですね。佐藤さんから学生たちに何か一言ありますか。
佐藤:被災地に行ってほしいです。ボランティアしなくてもいいから見てほしい。見ないと自分事にならないからです。今のこの時代に生きていて、これからの時代も生きていく若い人たちが被災地を見ないのはありえないと思います。将来、絶対に後悔すると思います。
——震災から1年が経過しましたが、世間ではすでに風化が始まっています。
佐藤:私は阪神淡路大震災の被災者です。だからこそ、今回被災された方々の気持ちにはとても敏感です。阪神淡路の時には、「がんばろう」と言って去って行く人がたくさんいました。
当時一番うれしかったことは、多くの人が支援活動を辞めていく中で少しでもいいから続けてくれた人がいたことです。復興で立ち上がるのは被災地の人ですから、被災地の人が立ち上がることを気持ちだけでもいいから応援してほしいです。
——今までマスに対して情報を発信していた佐藤さんですが、「助けあいジャパン」ではその手法を取らないそうですね。わけを教えてください。
佐藤:助けあいジャパンでは広告の手法は使っていません。プロ中のプロと言われながら、また、多くの人に「なんでやらないの」と聞かれますが、私はやりません。
ソーシャルメディアでは発信しますが、マスメディアでは流しません。なぜなら消費されてしまうからです。今回の震災の情報は消費されてはいけないことなのです。
「頑張れ」と伝えることは簡単ですが、それだけではないと思います。復興というのは一人一人違います。なので、慎重に丁寧に見続けていきたいと思っています。
佐藤尚之
1961年6月1日生まれ/大学(文系)まで東京にいて、広告会社に就職してすぐ関西へ転勤。14年間、関西でCMプランナー&コピーライターとして務める。2000年に東京へ転勤。ウェブ・プランナーを経て、現在、ネットを中心に、コミュニケーション・デザインを主な領域とするシニア・クリエーティブ・ディレクター/ソリューション・ディレクター。受賞歴としてはACC賞、JIAAグランプリ、カンヌ銅賞、日刊新聞広告賞グランプリなど多数。「明日の広告」を刊行し10刷のベストセラーになる。内閣官房「国民と政治を近づけるための民間ワーキンググループ」にも参加。東日本大震災に際して「助けあいジャパン」を設立。ウェブサイト「www.さとなお.com」を運営。twitter:@satonao310,facebook:さとなお
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