俳優・監督として活躍する伊勢谷友介氏は、株式会社リバースプロジェクトの社長という顔も持つ。地球環境に配慮した衣類の製作や地方自治体や地域住民とのワークショップなど、エシカルな取り組みを展開してきた。社会起業大学が行う「ソーシャルビジネスグランプリ2014冬」では、「政治起業家グランプリ」も受賞した。伊勢谷氏にとってのエシカルとは何か聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆)

活動が評価され、「政治起業家グランプリ」を受賞した=2月1日・ニッショーホールで

--伊勢谷さんは、2009年に株式会社リバースプロジェクトを立ち上げて、地球環境に配慮した衣類などをつくってきました。「より良い社会」を目指すエシカルな取り組みを展開しています。エシカルな活動をする人は増えていますが、それぞれ「良い」の定義が異なり、一方では負の影響を与えていることもあります。伊勢谷さんは、「良い」をどのように定義していますか。

伊勢谷:その問いは、ぼくが27歳のときに考えていたことです。そのときに出した答えを今でも信じていて、それは、「人類が地球に生き残るための活動」です。

これが、「良い」という定義の一番大上段にある解だと思っています。そして、最も大事なことは、それを実行することです。未来につながる行動を、地球上に生きる動物としてできているのかを常に自分に問いかけています。

--伊勢谷さんが社会や環境のことに関心を持った原体験とは何でしょうか。

伊勢谷:よく聞かれるのですが、体験ではないのです。単純に、社会をドライに見た結果、このような考えに至りました。きっと、宇宙人がぼくら人間たちを見ると、「自分たちの未来を食いつぶしている生物だ」と言うと思ったのです。そこをいかに意識して、これからの行動を変えていけるのかが大事だと思っています。

社会や環境の危機に気付いたのは、特別なことではなく、ニュースなどを見ていれば、誰でも感じる事だと思います。世の中の情報が得やすくなったので、感じやすいのではと思います。

自分の立ち居地を把握し、社会のためにできることを考える。それが社会起業家や政治起業家だと思います。

命を使って活動したならば、すぐに結果が出なくても良いでしょう。その背中に感化される人が、新しい時代に出て、つないでいってくれるはずです。

人間は5万年前から2%ほどしか脳の能力が変わっていないそうです。ということは、ハードディスクの進化はずっと止まったままで、これから先も急激に発達することはないでしょう。もともと人間には長期的な危機回避能力はないそうです。考えることをしなくなると、ますます短期的なものしか考えられなくなっていきます。

自分が亡くなった後のことを考えて行動している人、種のためを思って動いている人が求められています。

--近年、社会貢献意識を持つ若者が増えていると感じています。その背景にあるのが、「かっこいい」の変化だと思っています。拡大が良しとされてきた高度経済成長期に若者が抱いた「かっこいい」には、「成り上がり」、「上昇思考」「一匹狼」などが連想されていました。見ていたアニメも「明日のジョー」や「巨人の星」のようにアウトロー的な一人の主人公が逆境を乗り越えていくものです。しかし、今の20代が抱く「かっこいい」は、「誠実さ」「優しさ」「仲間思い」からできています。感化されたアニメも、「ポケットモンスター」や「ワンピース」のように、一人だけではなく、みんなで一緒になって世界を変えていくという趣旨です。このように、時代に応じて「かっこいい」がエシカルに近づいてきているので、若者は抵抗感なく社会貢献活動ができるのではないかと見ています。伊勢谷さんは、「かっこいい」とはどのようなものだと思いますか。

伊勢谷:ぼくが考える「かっこいい」とは、人類が地球に生き残るために意思を持って実行した人だと思います。考えているだけでなく、行動を起こすことが大事です。だから、実行が伴うことは、かっこいいの絶対条件です。

このことは、衣食住すべてにおいて、言えます。洋服はかっこよさを表現する一つの手段ですが、同時に資源も大量に使っていますし、異常に安い服は社会問題(児童労働など)の温床にもなっています。

であれば、「かっこいい」とは何であるかと考えたとき、形だけのかっこよさを求めているのものでは決してないと、たどり着きました。形だけを追求するのではなく、未来を考えた上で、「かっこいい」を創出することができる人こそ、最高にかっこいい人ですね。

--未来を考えることは大切です。しかし、どうしても、デザインや見た目が先行してしまい、「未来のために」「環境のために」と言ってもなかなか伝わりません。

伊勢谷:未来に起こりうる問題を考えないで、単純に目先の欲求で消費する事が、本当にかっこいいのか自分に聞いてみてほしい。プライドを持って未来を開拓している人間であれば、目の前のことをどのように消費しているのか認識できているはずです。

問題を知らない、もしくは知っていても理解しようとせず、解決する方法も探らなければ、かっこ良いとは言えないですよね。
人として、意思があり、プライドを持った動物でいたいならば、どこにプライドを持てばよいか。そのことがぼくは重要だと思っています。

--リクルートキャリアがまとめた「就職白書2013」では、就職活動生の一番の悩みが、「志望動機が書けないこと」でした。働き方や生き方が多様化しているので、ロールモデルがおらず、一つに絞れないことが背景にあると言われています。伊勢谷さんは、俳優・監督として、そして株式会社の代表として多様な働き方をされていますが、やりたいことが見つからない人も多くいます。

伊勢谷:それこそ、やりたいことを見つけるには、「かっこいい」とは何かと考えたらよいのではないでしょうか。ぼくは、人類が地球に生き残るために動いた人だと思っているので、それを目指して働いています。

「志を持って働け」とよく言われますが、自分の志が何か分からない人には、ぼくの言葉を信じてくれるならば、人類が地球に生き残るために一個人として何ができるのかを考えてほしい。

ぼくは大げさかもしれませんが、大義があれば何でもできると考えています。そして、自分だけの大義ではなく、人類全体の大義に気付けば、それに反する行為は精神的にできなくなります。

この資本主義社会の中では、お金だけを手に入れても幸せにならないことを、ぼくたちは知っています。社会の中で、自分がやれること、居場所を見つけることが求められています。

ぼくは、問題を解決するために、仲間を集めて実行に移しました。本音を言うと、活動の原動力には、「かっこよくなるにはどうするのか」「モテるためには何をすればよいのか」と考えてきたことがあるのかもしれません。

その結果、一番大上段のテーマにたどり着きました。「人類が地球上で生き残るために」というテーマは、人間であれば誰でも否定できないもので、最大のテーマです。これに挑むことが最大のかっこよさだと気付きました。

--「人類が地球上で生き残るために」という大義は誰もが共感するものである一方、崇高なもの過ぎて、遠くに感じてしまう人もいるのではないでしょうか。その大義が伝わらず挫けそうになることはありませんでしたか。

伊勢谷:基本的に挫けそうになるのは、仕事のことよりもプライベートのほうが多いですね(笑)。

仕事のことで、挫けそうになったら、それは社会と合っていないということですから、方法論を変えなくてはいけません。思いだけでは、実行できません。社会のベクトルを見つけて、それを最大化することが社会起業家の仕事です。

--オルタナSは、エコ・ソーシャル・エシカルに関心のある若者たちが読者にいます。その若者たちへメッセージをください。

伊勢谷:デジタルネイティブ世代のみんなには、インターネットの技術が人類にどう影響を及ぼしているのかを考えてほしいと伝えたいです。たとえば、お金を稼ぐために、お金を使う事で悪い循環が生まれたと、言われています。

それと同じで、インターネットの使い方が問われます。地球上に生きる一人の人間として、どう使うのか、そして、使ったことでどのような影響を及ぼすのかを真摯に向き合ってほしいです。みんなの使い方で、社会は変わっていきます。

リバースプロジェクト

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