「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰の糸井重里さんは、地方創生は何もないと思うことから始まると考える。地方が抱える課題を起点に考えてしまうと、「責任」や「義務」というニュアンスが先行してしまうからだという。従来の発想にとらわれず、あえて否定から始まる糸井さんの「地方創生」について聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)
このほど、糸井さんは「太陽の会 前橋まちづくり第一弾プロジェクト」である故岡本太郎作の「太陽の鐘」の群馬県前橋市への移設に携わった。太陽の会とは、前橋市の活性化のために集まった24の有志企業からなる団体だ。
前橋市に拠点を持つ企業家が毎年純利益の1%(最低100万円)を寄付し、まちづくりに生かす。第一弾として、前橋の地域創生のシンボルにするべく、「太陽の鐘」の移設を行う。
前橋市をどのようにして活性化するか、太陽の会が前橋市出身の糸井さんに話を持ち掛けたところ、糸井さんが「太陽の鐘」の移設を提案した。
5月9日にその記者会見が行われた。その会場で、糸井さんに地方創生をテーマに話を伺った。
――糸井さんは地方創生の動きについてどう見ていますでしょうか。
糸井:マーケティングの時代なので、しょうがないかもしれませんが、みんな「答え」ばかり求めているように見えます。「シャッター商店街をどうすれば活気づけられるのか」、「高齢化にどう対応するのか」などという社会問題を解決できる策を考えています。まるで答案用紙に間違わないように「答え」を書いているようです。
企業のCSR/CSV活動としても地方創生は行われていますが、社会への「責任」や「義務」、「宣伝」というニュアンスが先行し、その活動に純粋に楽しさを感じることが難しいように思います。
――例えば、国連が採択したSDGs(持続可能な開発目標)が定める項目や社会的課題を起点にビジネスモデルを考える傾向にありますが、糸井さんはどのようにすればCSR/CSV活動は盛り上がるとお考えでしょうか。
糸井:むしろ、「答え」を追いかけるのではなく、「問い」を投げかける側になることで、気付きを与えることができるのではないでしょうか。
何かとコンプライアンスといわれる世の中ですが、企業のトップが「やりたいことはやろうよ」と、誰に頼まれるわけでもなく動くことが理想的ですね。
そうした動きは責任感や義務から発生したものではないので、答案用紙に答えを埋めることではなく、何もない白紙の状態から考えていけます。
――このほど、糸井さんはご自身の出身地である群馬県前橋市に岡本太郎の作品「太陽の鐘」を移設するというまちづくりプロジェクトに関わりました。このプロジェクトも白紙の状態から考えたということでしょうか。
糸井:地方創生は課題を起点に考えるので、どうしてもネガティブな話から始まります。負傷した箇所をどのような治療法で治していくのか、マイナスな状態を0(ゼロ)に戻すようなものが多い印象を受けますが、今回は0にすることを飛び越して、一気に「体操しよう!」というような考え(気持ち)で呼びかけてみました。
前橋市の広瀬川沿いの市有地に太陽の鐘を移設しますが、芸術ではなく岡本太郎を置きたかったという思いがあります。つまり、価値のある何かを飾るように置いているわけではありません。
太陽の鐘を見て感じて、岡本太郎の生き様を見出してほしいです。昔、ご本人に、「芸術とは何ですか?」と聞いたところ、「何だこれは?と思うことが芸術だ」と答えてくれました。この太陽の鐘が前橋に移設したら、子どもも大人も「何だこれは?」と思うはずです。なかには、何でこんなところに建てたのか?と悪く言う人だっているかもしれません。でも、この太陽の鐘がきっかけで多くの人が前橋のことを気にしてくれるようになることを期待しています。
また、今回は前橋市に拠点を置く企業24社が支援団体「太陽の会」(会長 田中仁・ジンズ代表取締役社長)を結成して、太陽の鐘の修復費用約3000万円全額を出しました。がんばればこんなことができるんだという全国の地方都市のモデルになってくれたらうれしいと思っています。
――地方創生のキーパーソンとして、若者の動きもあります。大学卒業後、企業に就職せずに地方に移住して活動する若者の動きをどう見ていますか。
糸井:人と違うことをすることが目的ではありません。むしろ、普通のことを真面目にやっている延長線上にこそ、すばらしいものが多くあると思います。人と違う生き方を求めるのではなく、毎日繰り返す活動をよく見ておくことが大切ではないでしょうか。
はじめから個性はなくて良いんです。個性は続けていくうちに付いていくものです。個性よりもそのアイデアを信じて活動してほしいと思っています。
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