杉本彩さんは、化粧品における動物実験反対の声を上げる。今年2月には、一般社団法人動物環境・福祉協会Evaを設立し、動物の保護に取り組む。「今ある仕組みの背景を知ってほしい」と訴える。(聞き手・オルタナS編集部=佐藤 理来)
――化粧品の動物実験反対の声を上げてから、芸能活動への影響が懸念されましたが、どのようなものがありましたか。
杉本:例えば、コマーシャルの依頼が来たとき、受けるかどうか企業を調べて決めるのですが、その過程でやはり選択肢が狭まることはあります。ただ、会社の利益としてコマーシャル契約というのはとても大きいものです。たとえ芸能活動が制限されるとしても、そういった企業の広告を担うということは、罪深いことだと思っています。選択の上でも美しくありたいです。
――契約してから、これを言わないでくれ、と制限されるようなことはありましたか。
杉本:契約後はないです。私がそういう活動をやっているという前提で理解していただいています。一つ嬉しかったことがあって、ヘアカラーのコマーシャルをやった時のことです。
向こうの方が動物実験のシンポジウムに来ていただくなど、しっかり勉強してきてくれたことがありました。契約自体はもう切れてしまったのですが、そういった社会の流れみたいなものをくみ取ろうとする企業がいたことがとても嬉しかったです。
――芸能人のなかで殺処分、そして化粧品の動物実験反対に声を上げるのはとても少数派になることだと思います。でも潜在的に芸能界にそういう気持ちを持った方がいたりはしますか。
杉本:それがなかなか難しい。確実にそういう会社と契約のある人も多いですし、殺処分の問題ですらみんな引いてしまうところがあって、化粧品でも動物実験となるとなかなかその段階までいかないという現状があります。
殺処分に関しても「殺処分ゼロを目指そう」ということなら言ってくれるのですが、では、どうして殺処分が発生しているのかという背景にまでは絶対に触れてはくれないのですよね。
結局ペット業界のスポンサーだったり、直接的なテレビのスポンサーの場合もあるし、あるいは生体販売と間接的につながっている企業さんがいたりとか。
そういうことがあって、何か表明することを非常にリスキーに感じることが多い。面倒なことは起きるけどメリットはないというような考え方で、だからまだまだなのですよね。
これには、日本特有の芸能界のシステムも絡んでいて、ここが変わらないと難しいところもあります。海外だと各自フリーでエージェント契約ですが、日本の場合プロダクションに所属することになるので、そこのコントロールを受けてしまいます。
――殺処分や化粧品の動物実験のことを杉本さんが初めて知った時、沸き起こった感情というのはどういったものでしたか。
杉本:それは「衝撃」でした。最初に知ったのはリアルファーの問題ですね。1980年代はまさにバブリーな時代で、多くの人が当たり前に毛皮の服を着ていました。
私もいただいたものを含め数点持っていた。そんな頃でした。実態を知った時は、もう嫌悪感。ものすごい後悔の思いと、嫌悪感を覚えました。知ってから、初めて知らなかったことの恐ろしさを感じるのですよね。
やっぱりそれが自分の手元に届くまでの生産流通過程みたいなものを、消費者としてしっかり知るべきだと思います。そして何か突破口が開けると、そこから化粧品の話だったり、ペットショップの問題だったり、全てに入っていくことができます。
――「世の中の仕組みを知ること」、「モラルある消費者になること」が必要だとおっしゃっていましたが、他に若者に起こしてほしいアクションはありますか。
杉本:一番ストレートに伝わると思っているのは、「ペットショップで動物を買わない」ということですね。民間でも行政でも保護施設から里親になるという選択がスタンダードであるべきだと知ってほしいと思います。
よく保護施設にいる動物は、何か障害や問題を持っていて難しいのじゃないかと言われがちです。もちろん、そういった子もいますが、本当に今すぐ家庭の中に入っていって可愛がられるだろうなというような子が、民間にも行政にもいっぱいいます。
誰でもいつでも、その動物について学ばず、お金さえ出せば購入できる社会は異常なのだ、とまず若い人たちに知ってほしいと思います。
――それを理解するためのヒントはありますか。
杉本:やはり、他人のメッセージを一方的に聞いただけでは、自分の中でつなげて考えるのは難しいです。リアリティがないというか。リアリティを持って感じるために、自分の眼でいろんなことを確認してほしいと思います。
ペットショップの話で言えば、生体販売する「商品」のために動物が生産されれば、必ず売れ残りが生まれます。そうなった子たちがどうなるのか。物事の仕組みの背景にあるものを考えてみてほしいのです。
そして、先ほども言ったように、何か一つ突破口ができれば、どんどんいろんなことが気になって、知らなければいけないという気持ちになります。
知らず知らずのうちに罪深きことはしたくない。資本主義の社会で利益ばっかりを追求すると、いろんなところにひずみが生まれてきます。色んなものに過剰な犠牲を強いていて、それは最終的に自分たち人間の首まで占める行為だということに気付いてない人というのは、やっぱりまだまだ多いです。それをしっかりとみんなで本当に見据えて社会の問題と言うのを考えていかないといけないなぁと。すごく思うのですよね。
杉本彩(すぎもと・あや)
1987年、東レ水着キャンペーンガールでデビュー。女優、作家、ダンサーなど幅広い分野で活躍中。
2010年には、新会社「株式会社リベラルライフ・クリエーション」を設立し、実業家としての顔も持つ。
EUで化粧品の動物実験廃止が決定する前日の2013年3月10日には、シンポジウム「美しさに犠牲はいらない」に参加し、芸能人としてのリスクを負いながらも化粧品の動物実験反対の声を上げる決意を表明した。2014年、一般財団法人動物環境・福祉協会Evaを設立。芸能活動と並行して、動物と人間が幸せに暮らすための活動を続けている。