小川光一さんは東日本大震災を機に防災と向き合い続けてきた。岩手県陸前高田市を拠点に活動するNPO団体を取り上げたドキュメンタリー映画の監督を務め、上映と講演のセットで、防災の必要性を訴える。3月21日、東京・多摩市で行われる最終上映会に向けた思いを聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)

ドキュメンタリー映画「あの街に桜が咲けば」は、岩手県陸前高田市を襲った津波の最高到達点に桜を植える活動を行っている認定NPO法人桜ライン311を追ったもの。映画は2014年1月に完成し、口コミで日本全国に広がり続けて来た。最終上映会までの予定も含め、自主上映会は全47都道府県で171回を数え、概算累計総動員数は2万人に迫る勢いだ。小川さんは、上映会場に駆けつけ、映画終わりに講演を行ってきた。

この2年間の防災啓発の上映会数は3月21日で171回、4日に1回のペースで全国を周った

この2年間の防災啓発の上映会数は3月21日で171回、4日に1回のペースで全国を周った

――今年3月21日の上映会でこの映画の上映を終わりにします。どうしてでしょうか。

小川:この映画は2013年下半期をメインに取材したものなのですが、映画で取り上げた桜ライン311も日々変化していて、副代表も先日交代しました。陸前高田市の景色もだいぶ変わりましたし、「映画の情報が古くなった」というのが1つの理由です。
また、自分自身もいつまでもこの映画の上映を続けるより、新しいステップを踏んでいかないといけないと思い、ここで一区切りをつけることにしました。

桜ライン311はこれまでに1000本近く桜を植えてきた

桜ライン311はこれまでに1000本近く桜を植えてきた

――全国各地で講演し、防災の普及・啓発をしてきました。その成果をどう考えていますか。

小川:映画上映を始めてからのこの2年の間にも、災害が起き、多くの犠牲者も出ました。来場者に対して希望を持てる瞬間もありましたが、まだ十分に伝わっていないと思う気持ちの方が強いですね。

日本全国を周っていて痛感したことは、「だけど」という言い方。例えば、「自分の街は大丈夫だけど」と言ってから何かを語ろうとする人がすごく多かったです。正直、災害が起きやすいこの国土に対して、危険意識が全く見合っていない。大きな不安を覚えています。

――伝わったと実感したときはどんなときでしょうか。

小川:夫婦で観に来た来場者が帰りにホームセンターに行って防災バックを買ったという報告を受けたり、映画を見た中学生が感想文で「いままで、避難訓練にダラダラと取り組んでいたけど、これからは本気で取り組むって決めた」と書いているのを見たりした時は嬉しかったですね。また、上映した地域で後日、自主防災組織が立ち上がったときには、メッセージが伝わったんだと心の底から思えました。

この映画と講演で一貫して伝えてきたことは、「大切な人のために防災をしてほしい」ということです。いくら防災しろと言われても人はなかなか動きませんが、家族のため、大切な人のためだったら、「してみようかな」と思うかもしれない。その可能性を僕は信じています。

この映画の自主上映会が171回も開かれたのは、口コミでの広がりがあったからです。映画を見た人たちから、「友達も連れてくればよかった」「家族と観に来ればよかった」という感想を多くいただきました。時には、来場者の中に、次の主催者が生まれるようなこともよくありました。

――小川さんは2年の間に171回上映と講演をしてきました。4日に1回のペースです。原動力は何でしょうか。

小川:震災が発生した当時から、陸前高田で住み込んだりして、復興のお力添えをして来ました。実際に家族や大切な人を亡くした人から、「自分たちと同じ思いを誰にもしてほしくない」と言われ、その時は胸が張り裂けそうだった。代わりが務まるわけじゃないけど、そのメッセージを全国に伝えたいと強く思いました。

大切なものを失ってから気付くんじゃ遅過ぎることなんて、みんな頭では分かっているのに、それでも失ってから後悔する人が後を絶たなくて。この連鎖を断ち切りたいという思いが原動力です。誰にも災害で命を落として欲しくない。

若い人がさらに若い人に伝えていく流れが、防災意識を形成すると考える小川さん

若い人がさらに若い人に伝えていく流れが、防災意識を形成すると考える小川さん

――防災の大切さを伝えるためには、どのような方法が有効だと思いますか。

小川:子どものころに防災教育をしっかり受けていることが重要なんだと思います。また、この2年間の日々で感じたのは、若い人が若い人に伝える可能性です。まだ20代の僕だからこそ、親近感を持って耳を傾けてくれる若者が沢山いました。最終上映にも沢山の家族や中高生が来てくれたらいいなって思いますね。

小川光一:
1987年5月29日東京生まれ。日本防災士機構認定防災士。多数のNPOおよびNGOに所属し、国際協力や東北支援を中心に活動中。「他人の痛みを想像できる人間であれ」を信条に掲げている。 陸前高田まち・ひと・しごと総合戦略策定会議 委員/映像制作NGO LUZ FACTORY代表理事/ウガンダ支援NPO法人MUKWANOサポートメンバー/陸前高田ドキュメンタリー『あの街に桜が咲けば』監督/カンボジアエイズドキュメンタリー『それでも運命にイエスという。』監督 他

【「あの街に桜が咲けば」ラスト上映会】
日付:2016年3月21日(月祝)
時間:14:00~16:30(13:30開場)
会場:永山ベルブホール (定員198名)
(〒206-0025東京都多摩市永山1-5ベルブ永山5F)
小田急永山駅徒歩3分 or 京王永山駅徒歩3分
参加費:大人 1000円 大学生/専門学生 500円 高校生以下 無料
主催:あの街に桜が咲けば 多摩上映実行委員会
申し込みはこちら

予告編はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=pp1Dbfqq-7g

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