世界最悪の紛争地と言われるソマリア連邦共和国の紛争問題に取り組んでいる国際学生NGOがある。日本ソマリア青年機構だ。立ち上げたのは、永井陽右さん(24)。永井さんは、大学1年のときに団体を立ち上げ、隣国ケニアにいるソマリア人ギャングたちを、対話を通して更生させ、社会復帰を促してきた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)
――ソマリアはその危険さから、その問題に特化して活動するNGOの数は少ないです。ですが、永井さんは大学1年のときに団体を立ち上げました。立ち上げにはやはりソマリアに対する思い入れがあったのでしょうか?
永井:そもそもソマリアに思い入れがあるわけではないのです。
――では、どのようにしてソマリアとつながったのでしょうか。
永井:一番いじめられている人たちを助けたいという思いからです。そう思う理由は、ぼくが小中といじめる側の人間だったことがあります。団体を立ち上げた理由も、続けている理由も、過去の罪を償いたいという気持ちが強いです。
その思いが根本にあり、一番いじめられている地域といったらルワンダだと思い、大学生のときに訪れました。ジェノサイド(大量殺害)から十数年も経っていましたが、まだ何か課題はあるだろうと思っていたのですが、そこで見たのは、毎年7パーセントの経済成長を続けるまさに「アフリカ版シンガポール」でした。
渡航するときに意気込んでいた思いをどこに向けていいものか、肩透かしをくらった気分でした。でも、ルワンダからの帰路、たまたまケニアに滞在することに決めて、そのときにソマリア人難民移民居住区であるイスリー地区を訪れました。これが、ぼくがソマリアを知ったきっかけです。
■「ユース」とは誰か
――日本に帰国後、ソマリアに対して活動したいと決めて、教授やNGO関係者に相談しに行きましたが、ほとんどの人から反対されたそうですね。
永井:多くの人から、「いまは危険です。10年待ちましょう」と言われました。でも、そう言われるたびに、なおさら誰かがソマリアをやらなきゃいけないんだという気持ちが高ぶってきました。
深刻で重大なニーズがあるけれど危険だから誰もできない。そうであるならば、やはり誰かがやらなくてはいけない。シンプルにそう考えましたし、今もそう考えています。
――団体では、「ムーブメントウィズギャングスターズ」というプロジェクトで、1年半の期間で講義、議論、テイクアクション、スキルトレーニング、カウンセリングなど多様なプログラムを通して、ギャングの社会復帰を支援しています。どのようにしてこのプロジェクトは考えたのでしょうか。
永井:ギャングは、ぼくらと同じ若者です。今や国際会議では、ユースは必要不可欠なアジェンダの一つですが、一体ユースとは誰を指すか。有名な国の優秀な若者だけなのか。そう考えたときに、犯罪者であり、潜在的テロリストとされているソマリアギャングたちも年齢で考えたらユースでした。だったら、彼らもユースとして、エンパワーメントされる存在であるべきだと考えたわけです。
――これまで50人以上がプログラムに参加しました。
永井:まず講義や議論を通じて自身が治安を悪化させている原因になっていたんだと理解してもらいます。ギャングの多くは貧困家庭で育ったリ、紛争や飢饉で家族や友人を亡くした人も少なくありません。そのような環境について、ギャングは政府や国連のせいだと批判しますが、批判しても変わらないと気付かせます。「じゃあ、誰がこの現状を変えられる?」と投げかけます。
そのどうしようもない世界を変える存在こそが、まさに君たちユースなんだと。そのような方向性で、プロジェクトのサイクルの中で徐々にユースリーダーとしてのアイデンティティを創っています。ギャングを辞めさせるのではなく、ユースリーダーとして迎えるわけです。
――テロリスト予備軍ともいわれているギャングたちを、社会はすぐに受け入れてくれましたか。
永井:ギャングたちが脱過激化できているのかについては、完璧に理詰めで説明することはできません。その点で、社会側はやはりすぐには受け入れることはできません。何がきっかけで再び過激化するか分からないですし。
なので、彼らを社会とどう統合していくのかが一つ重要になります。
。コミュニティレベルで考えなくてはいけない。まずは地域での関係を良くしていくことから始めています。プログラムの修了式では、彼らが議論しているところを収録したビデオを流して、近隣の大学教授などを来賓として招き、見てもらったりして、社会との接点をつくっています。
ただ、ケニア人とソマリアギャングたちが分かり合うことはかなり厳しいだろうなと思います。政治的関係が良くならないと、現場レベルだけで良くなることは難しい。
――活動していくやりがいは何でしょうか。
永井:スタートが罪滅ぼしから始まっていますが、紛争解決や予防の文脈で、誰もできなかったことができたときに個人的な存在意義を感じます。
ソマリアは実に多くの人々が亡くなっています。死を身近に意識せざるを得ない環境なので、何のために生きるのか、団体や自分の存在意義はよく考えています。
その思考があるからこそ様々なものを捨ててソマリアなどの紛争に注力できています。あと、これまで活動に携わった人々や応援してくださる方々の想いや期待に応えたい。それも一つのやりがいになっています。これからソマリアの最前線で活動していきますが、いつも考えることは同じで、<今ココ>で最大限をやるということ。それが僕のミッションです。
永井陽右(ながい・ようすけ):
日本ソマリア青年機構全体代表。1991年神奈川県生まれ。早稲田大学在学中にソマリアの大飢饉と紛争の問題を知り、日本で唯一のソマリアに特化したNGO「日本ソマリア青年機構」を設立。2015年3月早稲田大学教育学部複合文化学科卒。同年9月よりロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの紛争研究修士課程に在籍。これまで人間力大賞、小野梓記念賞など受賞多数。著書『僕らはソマリアギャングと夢を語る』(英治出版)