鎌倉投信は投資信託「結い2101」を立ち上げ、社会性のある企業への投資を行ってきた。収益性と社会性の両立が可能な企業の条件とは。結い2101を運用する新井和宏氏に、企業の見極め方を聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)
――今回は、新井さんが考える「いい会社」についてと、就職を考えている学生へのアドバイスをお聞きできれば幸いです。よろしくお願いします。
新井:よろしくお願いします。僕らの仕事は、投資先を見極めるために、相手の化粧を剥がしていくことです。リクルート活動も同じだと思います。会社を選ぶとき、その会社の普段の姿をどう見抜くかがカギです。
学生は、いろいろな角度から会社を見たほうがよいです。少なくとも面接やOB訪問だけにはしない。そういうものを用意している企業は、戦略的にピカイチの人ばかりを紹介してきます。そうすると、社員全員がそのような人だと思い込んでしまう。化粧した顔ばかり見ても意味がないのです。
化粧を剥がすには、一般の社員にも会うことが一番です。そうしたときに会社の本性が見えるので。僕は投資先を理解するために、その会社のトイレに隠れたこともあります(笑)。
そうして、偶然トイレに入ってきた人に話しかける。数人と世間話でもしていると、社内の雰囲気が分かってきます。
――そのようにして、足で企業を観ているのですね。ただ、学生は理由なく、オフィスに入ることが難しいです。表面的な企業の嘘を見抜くために、どのようにすればよいでしょうか。
新井:まず、自分が興味を持っている業界以外も観ることですね。周りからの評価が高い会社なら、興味がなくても観たほうがいいです。やはり数を観ないと、社風の判断がつきません。興味がまったくない業界でも、いい会社を観ておけば、違いが判ったり、違和感を抱いたりできるようになります。
どんな会社でも、必ず考えてほしいことがあって、それは、人としてどうかということです。経営者や人事担当者と話して、人として違和感を持ったら絶対にいかないほうがいいです。
逆に、社会のことが分からないなかでも、この人はすごくよいと感じられる人が多くいる会社に入ったら、失敗する可能性は低くなるはずです。
まとめると、いい会社を見つける一番の方法は人間力の高い人に会うことだと思います。
――いい会社と人間力の高さは比例しているということですね。
新井:いい組織は、個々に違うのですが、これまでに多くの企業を拝見させていただいて思う共通点は、人間力をちゃんと鍛えてくれる会社でした。なかでも、若い人を積極的に起用しているところは、その傾向が高いです。
――企業が若手に裁量権を与えるためには、社風から変えていく必要がありますか。
新井:まず経営者が、そういった考えを示さないといけません。でも、組織が大きくなれば、経営者だけでなく、現場の担当者まで、その考えが浸透していないと難しくなります。
例えば、経営者が障がい者雇用率を4%まで高めると宣言しても、現場が理解しないと難しい。経営者が現場の社員たちに、なぜ障がい者と一緒に働くのか、その理由を説明し、納得してもらえないといけません。
大切なことは、本業の拡大解釈をどれだけできるのか、だと思います。本業に対して、視野の狭い企業は嫌われるでしょう。
あなたが存在するのは、社会や顧客、そして、取引先や地域、さらには地球が存在するからです。その視野を広げられないと、結局視野の狭い会社といわれ、誰にも愛されなくなってしまいます。
事業だけを捉えるのではなく、ステークホルダーとの関係性を俯瞰し、社会での立ち位置を理解していないといけません。
例として、「かんてんぱぱ」で有名な伊那食品工業(長野県)とヤマトホールディングスがあります。伊那食品工業は食品会社なのですが、会社のそばに信号機をつくりました。これは、道路に信号機がないと、地域住民さらには、社員の事故につながるとの想いからです。
また、ヤマトホールディングスは、震災時、ドライバーは自分たちも被災しているにも拘わらず、東北へ救援物資を届けにいきました。
このようなことは、使命感がなかったらできない。だって、自分がかわいかったら、まず自分の身を守るはずです。
緊急時に、社員にこのような行動を起こさせる社風はすごく大事で、いい会社はお金では測れない部分にその価値が存在しています。
ずっと数字の世界で仕事をしてきましたが、数字で測れる財務諸表や企業データ、CSRレポートからは、読み取れれるものは少ないと思っています。なぜなら、その数字は化粧ができるから。むしろ、数字で測れないものにこそ、本質的な価値が存在します。そのような会社には個性があり、その個性が、いい会社になる条件だと思っています。
――「結い2101」の投資先の企業情報はすべてサイトに掲載しています。数字ではなく、経営者の人柄を伝えているのですね。
新井:本来金融は儲けるためだけではなく、長期的な視野を持って産業を育てたり、新たな社会を創造したりする役割があると考えています。
でも、短期的に利益を得ることを目指すようになるとどうでしょうか。鎌倉投信は、リーマン・ショック後にできた資産運用(投信委託)会社ですが、その当時(リーマン・ショック前)は、短期的な利益を追求するがゆえに投資家は格付けだけを信じていきました。格付けが高く、利回りがよいものだったらよいと。つまり、何に投資していたのか分からなかった。
僕らは、この関係性に違和感を持ち、見える関係性を大事にしようと考えました。投資先の情報を公開して、お客様につながりを感じてもらい、それらの企業を支えていることを感じてもらうことに重点を置いたのです。
――数字ではない部分を感じてもらうために公開しているのですね。先ほど、いい会社には個性があるとおっしゃっていましたが、なぜ企業には個性が必要なのでしょうか。
新井:いまの社会はモノやサービスが飽和状態です。そして、多くの人が価格で選ぶため、価格競争に巻き込まれる会社で働く人にとってはつらいと思います。個性がなく、価格のみで競う会社では、人財の代替が効くので。
モノやサービスが飽和した社会で、サービスの質が同等なら、共感が決め手になります。この共感を創み出すためには、会社の個性、ひいては、社員の人間力が必要になります。
この10年で若者の意識は社会性を重視する方向に変わりましたが、次の10年でさらに変わるでしょう。彼/彼女らは、車や家を買いたいとは思わない。先人たちによって、物質的欲求は満たされたからです。
若者達が物質的欲求から精神的欲求に移っていることを、上の世代は認識しないといけない。よく、「最近の若者はハングリーじゃない」という話を聞きますが、おかしな話で、彼/彼女らは精神的欲求に対してはハングリーなのです。その流れで、社会の役に立ちたい、ボランティアや環境問題に興味を持つのは当たり前のこと。いい会社は、その欲求にアプローチしています。
新井和宏(あらい・かずひろ):
鎌倉投信株式会社取締役資産運用部長。1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、株式、為替、資産配分等、多岐にわたる運用業務に従事、ファンドマネージャーとして数兆円を動かした実績がある。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、志を同じくする仲間4人で、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍している。経済的な指標だけでなく社会性も重視する、投資先企業をすべて公開するなど、従来の常識をくつがえす投資哲学のもとで運用されている商品でありながら、個人投資家約1万6千人、純資産総額約240億円(2016年9月時点)となっている。また、「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year」でも上位の常連となり、2013年には格付投資情報センター(R&I)でも最優秀ファンド賞(投資信託国内株式部門)を獲得するなど、人気・実績を兼ね備える投資信託へと成長している。