元プロサッカー選手の中田英寿さんは1月18日、社会貢献に寄与した実業家として賞を受賞した。中田さんは昨年初めに、酒や工芸などの日本文化をPRする事業会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANY(ジャパン・クラフト・サケ・カンパニー、東京・港)を立ち上げた。現役引退後、約10年の旅を経て、なぜ日本文化を発信することに決めたのか、そして実業家として目指す「ゴール」は何か聞いた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

中田さんは日本文化を発信していくことを「第二の人生」と言う ©takuya suzuki

中田さんは日本文化を発信していくことを「第二の人生」と言う ©takuya suzuki

中田さんが受賞したのは、「シーバスリーガル18年 ゴールドシグネチャー・アワード2017 Presented by GOETHE」。このアワードは、スコッチウイスキーの「シーバスリーガル」と幻冬舎が発行する雑誌「GOETHE」が2011年から毎年開催している。

このアワードの対象は、ビジネスを通して、社会貢献にも寄与しているビジネスパーソン。中田さんは、日本酒の魅力を世界に広めた取り組みが評価され、「ビジネスイノベーション カルチュラル部門」を受賞した。

中田さんは昨年2月、六本木ヒルズで「CRAFT SAKE WEEK」を開いた。中田さんが選んだ100銘柄を販売した。5月には、香港で開かれたワインの世界見本市「VINE EXPO」で、日本酒セラーを発表。世界初の試みで注目を集めた。

授賞式が始まる直前、中田さんに話を聞いた。

――これまでサッカー選手としてはさまざまな賞を受賞したと思いますが、今回はビジネスパーソンとして賞を受賞しました。

中田:会社は去年立ち上げたばかりですし、サッカーで言うと新人賞をもらったような気持ちです。でも、自分としてはまだ何も成し遂げていないと思っているので、これからすごく長い道のりが待っているのではないかなと思っていますね。

――この事業で目指すゴールは何でしょうか。

中田:ぼくの気持ちとしては、サッカーを始めた頃の気持ちとまったく変わらなくて、目指しているのは世界です。

ただ、明確なゴールというのは正直ないと思っています。ですが、自分が何百年も続いてきた文化と一体となれたら、まぁ自己満足の世界だと思いますけれど、それが自分の幸せなんじゃないかと思います。

――日本文化を発信していくことに、そこまでのめり込むことができたのはなぜでしょうか。

中田:サッカーを8歳で始めて、10年間はアマチュアとしてやって、18歳でプロになりました。2006年に引退して、それからほぼ10年をかけて世界中、または全国47都道府県を周りました。

それだけの時間を使ったということが、そこまで自分がのめり込める、または、それだけ好きになれた理由だと思います。

――あえて会社を立ち上げて、挑戦したいと思ったのはなぜでしょうか。

中田:それは、アマチュアとしてやっていくのか、プロとしてやっていくのかの違いですね。アマチュアというのは、自分にも責任感はそこまでかからないし、ある程度の時間の余裕があればできるものです。プロというのは、やはりそこに大きな責任が伴う。覚悟がある。

そのことを、自分に対してもそうだし、外に対してもきちんと伝えていく。そういった意味で、会社を立ち上げました。

――事業をする上で、うまくいくことや難しい部分もあると思いますが、例えば、ここはサッカーと似ているなと感じることはありますか。

中田:基本的にサッカーをしているときの気持ちとまったく同じです。取り組み方も。ただ、扱うものがボールではなく、お酒や工芸であるかの違いで、そこへの取り組み方は一切変わりません。

――事業を進めることは、チームプレーと似ていると。

中田:個人プレーでもありながら、やはり多くの人と関わりながらやらなくてはいけない。特にこの伝統産業は、より難しいところが多いので。でも、やっぱり最終的には、人が好きなのでしょうね。

サッカーもそうでしたけど、人が楽しんでもらえるようなプレーをしたいと思っていましたし、今回のお酒に関しても、できるだけ多くの人に楽しんでもらえることが、自分の目標であり、幸せだと思っています。

――事業化したことで、酒蔵の人など仲間が増え続けています。

中田:そうですね。それがいま楽しいです。情報化社会といわれる今の世の中で、多くのやりとりがメールなり、インターネットを介してのものが多いですが、伝統産業はその現場に行き、人と会う。

その人との関係性を築きあげることから始まっていく。基本的には、ぼくが人好きなので、自分にはすごく合っているのだと思います。

■「旅」についても言及

左からホラン千秋さん、安藤忠雄さん、中田さん

トークセッションの様子。左からホラン千秋さん、安藤忠雄さん、中田さん

授賞式ではトークセッションが行われ、中田さんは、特別審査委員長を務めた建築家の安藤忠雄さん、MCのホラン千秋さんと登壇した。

中田さんは、「日本全国を見て周り、自分が勉強しないと何もできないと理解した。好きなことを中途半端で終わらせずに、突き詰めていけば形になる」と喜びを語った。

「お店で『酒』と頼む人は多いが、銘柄指定する人は少ない。実際、日本には4000~5000ほど日本酒のブランドがあるが、そのうち10以上言える人はどれくらいいるだろうか。時間はかかるが、ブランドとして名前を覚えてもらいたい」と今後の事業への抱負を語った。

安藤忠雄さんは、「そもそも考え方が国際的」と評価した。

ホラン千秋さんからは、世界に日本文化を伝えていくときに、日本文化の強みは何かと質問されたが、中田さんは、「世界と日本のどちらが良いのかではなくて、お互いに情報交換するだけの話」と答えた。「向こうのことが分からず、一方的に『これいいでしょ!』と伝えても仕方がない」。

中田さんは現役引退後、世界150都市・全国47都道府県を周り、250以上の酒蔵を訪れた。ホラン千秋さんから、「中田さんにとって、旅とは何か」と聞かれると、「旅がなかったら僕の人生は成り立たない」と言い切る。

「いろいろな人と出会い、いろいろなモノを見て、アイデアが出てきた。今の時代はネットで何でも出てくるけど、表面的な部分しか知ることができない。この情報化社会だからこそ、五感を刺激するような経験を積むことが大事で、それがない限りは、そこに真実がないことと同じ」

受賞者を囲んで記念撮影、コーポレートバリューデベロップメント部門を受賞したスノーピーク山井太・代表取締役社長(左から5人目)とビジネスイノベーション ソリューション部門を受賞したユーグレナの出雲充社長(左から6人目)

受賞者を囲んで記念撮影、コーポレートバリューデベロップメント部門を受賞したスノーピーク山井太・代表取締役社長(左から5人目)とビジネスイノベーション ソリューション部門を受賞したユーグレナの出雲充社長(左から6人目)

サッカーに関する質問もあったが、「サッカーはプレーすることが好きで、教えたりすることは好きではない」とした。

現在、FIFAの評議機関であるIFAB(国際サッカー評議会)でFootball Advisory Panel(サッカー諮問委員)を務め、ビデオジャッジをどこまで導入するかなど「ルール改正」について議論している。

「ビデオジャッジ専用のカメラをどれだけ用意するのか。コストがかかるので、アフリカや南米の奥地でも同じことができるのか。レフリーとビデオジャッジでは、どちらに権限を与えるか。この議論をすることで、サッカー以外のことも勉強になっている」

ただ、サッカーに関してこの領域以外については、「もういいかな」と答え、「今はそれよりも、日本の文化を発信することに没頭している」とした。

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