世界の児童労働問題の解決に取り組んできた、認定NPO法人ACE(エース)はこれまでに1600人以上の子どもたちを過酷な児童労働から引き離し、1万3千以上の子どもの教育環境を改善してきました。今年で活動を始めて20周年を迎え、1冊の本の作成を目指しています。ACE事務局長の白木朋子さんは、「児童労働という難しい問題でも解決できる。あきらめなければ、世界は変えられると伝えたい」と話します。今回作成する本への思いをお伺いしました。(聞き手=Readyfor支局・榎本 未希)
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―――設立20周年を記念して、『Change(仮)』と題した一冊の本を作りますが、読者の方にはこの本を通じてどんなことを伝えたいですか。
白木さん:私たちは児童労働という難しい問題でも解決は可能であるという確信を持てるようになりました。そこには、私たちが目にしてきた、ひとりひとりの人生の変化があり、そして社会のあり方の変化があったからです。
この本を通じてみなさんと共有したいのは「あきらめなければ、自分の周りにある世界は変えられるんだ」という私たちの実感です。
今までの活動で1600人以上の子どもたちが児童労働から離れることができ、学校に通えるようになり、自分たちの人生を取り戻せるようになりました。そんな子どもたちの変化や、また私たち自身の人生も同様に、小さな一歩を踏みだすことでそれがやがて大きな変化につながっていきました。そういうことを伝えたいと思っています。
世の中にはいろんな問題があってどこから手を付ければいいのか分からない状況だけど、前向きな一歩を踏み出すことによって変化を生み出す可能性が増えると思うのです。
子どもたちの人生に変化ができたように、この本の読者の方にもそういった”人生のチェンジ”が起きたらいいなと思います。
今回は、ACEの活動を通じてインド、ガーナ、日本で起きた変化を、一冊の本にまとめて写真はフォトジャーナリストの安田菜津紀さんに撮影してもらう予定です。
―――これまで活動を続けていてどんなことが大変でしたか?
白木さん:児童労働という問題の世間の認識が低いことです。これは日本でもそうですが、活動している現地の人々の意識もまだまだ低いのが現実です。児童労働は人の人生に関わる重要な課題であり、急いで解決しなければいけません。
以前ガーナに滞在していた時に、現地で人身売買に関わる子を救出する場面に出くわしたことがあります。親から引き離されてガーナ南部のカカオ農家に連れてこられた11歳くらいの男の子は、学校に行くはずの時間に牛の世話をしていました。
実際、子どもを保護するためには現地の行政的な手続きが必要なので、すぐに保護することはできず、事情を聞くことしかできませんでした。しかし、その後現地の行政担当者にもなかなか動いてもらえず、7カ月が経っていまいました。
私がその村から離れる最後の日に、男の子に「何か言いたいことはありますか」と聞いたんです。すると男の子は「今すぐここから抜け出したい…。」とぼそっとつぶやきました。この言葉ではっ、と気づかされました。
子どもにとっては7カ月という大事な時間が失われていて、その間にずっと苦しい時間を過ごしていたということを。その日、自治体のトップの方に直接保護をお願いし、警察や裁判所に連絡して動いてもらいました。その雇い主は家に帰らず逮捕できなかったのですが、男の子は無事に保護されました。
「今すぐここを抜け出したい」という言葉は、今も児童労働の環境にいる1億5200万人の子どもたちの叫びだと思います。インドやガーナの関係者に「児童労働はそんなに大変な問題なのか」と聞かれることもあります。
それくらいに問題意識が低い現実と、心の中で今も助けを求めて叫び声をあげている子どもたちがいるという大きな認識のギャップがある。だからこそ大変な問題なのだと思います。
―――確かに「児童労働」を身近に感じることができない人にこの問題の大変さを理解してもらうのは難しそうですね。どうやって乗り越えてきたのでしょうか。
白木さん:自分たちの興味関心を世の中に押し付けるのではなく、人々の興味関心に接点を作っていくことを意識しました。
例えば2002年のサッカーボールのキャンペーン。当時手縫いが良いと言われていたサッカーボールは、インドやパキスタンの児童労働とも関わりがあったのです。そこでサッカーに興味がある人に支援を呼びかけるために、チャリティフットサル大会を行いました。すると共感してくれる人も増え、メディアでも取り上げてもらえました。
「世の中の流れに乗りながら情報発信したら人は注目する」ことを学び、児童労働のことを知ってもらうために人が来るのを待つのではなく、自分たちから人が集まるところへ行くようになりました。
今もその考え方はACEの活動に根付いていて、まずは児童労働を知ってもらう”きっかけ”を見つけ”接点”を作る。この方法でたくさんの人が児童労働問題に関わり、一緒に多くの”変化”を作り出してきました。
―――これまで活動していて嬉しかったことはどんなことですか。
白木さん:一番は私たちの活動によって、子どもたちやそのコミュニティーが良い方向に向かうことです。ACE自体は小さな団体なので、村にある課題全部を解決することはできません。
なので、私たちの活動は現地の人が自分たちの課題に気が付き、自分たちで解決するためのきっかけづくりを行うことだと思っています。また現地で支援を受ける子どもたちに、「日本から応援してくれる人たちがたくさんいるんだよ」ということを伝えるようにしています。
「日本で応援してくれる人たちがいるから高校を中退せずに頑張って卒業することができた」と現地の子が言ってくれた時はとても嬉しかったですね。ダイレクトにお金を渡すような支援ではなく、子どもたちの精神的なバックアップも私たちの役割としてあるということを感じました。
―――ありがとうございました。最後にクラウドファンディングに対する意気込みをお願いいたします。
白木さん:私たちのクラウドファンディングを通して作成した本が、誰かの新しい一歩に繋がり、その人の人生がより良いものとなり、さらに社会も良い方向に向かって加速していったらいいなと思います。
ACEを自分たちで作って20年間続けてこれたというのは奇跡に近い事だと思っています。支えてくれている人たちへの感謝の気持ちもこめて頑張ります。
■クラウドファンディング情報
「世界は変えられるんだ!」一歩を踏み出す勇気を、この一冊で。
期限:12月18日(月)午後11:00まで
目標金額:2,000,000円
URL:https://readyfor.jp/projects/ace20th