チョコレートに使うカカオの原産国として知られるガーナでは、妊産婦の死亡率は日本の60倍以上だ。病院が遠方にあるため通えない妊産婦は多く、予定日すら分からず、不衛生な環境で突然の陣痛を迎える。現地で妊産婦の支援活動を行う日本人が「オート三輪」で妊産婦を病院に連れて行くプロジェクトを立ち上げた。(聞き手=Readyfor支局・杉山 裕美)
このプロジェクトを立ち上げたのは、女性のいのちと健康を守るために、アフリカやアジアで活動する公益財団法人ジョイセフ(以下、ジョイセフ)の矢口真琴さん。ガーナ共和国に駐在し、山間地域コウ・イースト郡の妊産婦支援をしてきた。
矢口さんは、オート三輪でガーナの妊産婦の命を救う取り組みを考案し、その資金をクラウドファンディングサービス「Readyfor」で集めている。ガーナの妊産婦を取り巻く過酷な環境とプロジェクトの概要を聞いた。
※矢口さんが所属する公益財団法人ジョイセフは、クラウドファンディングサービス・Readyforでクラウドファンディングに挑戦中です!支援の受付は、2018年3月15日(木)23時まで。(「ガーナの妊産婦を守る!命を運ぶオート三輪で緊急産科ケア実現へ」 https://readyfor.jp/projects/ghana)
■「道と言えないような道を今にも子どもが生まれそうな状態で移動」
――ガーナの女性たちが直面している出産の現状はどういったものですか。
矢口:ガーナの女性たちは、出産が間近に迫っても、病院にすぐに行くことができません。行く「手段」がないのです。産前健診に行っていないので、予定日も分からない暮らしをしています。
ガーナの妊産婦死亡率は未だ出生10万件に対し319件(世界人口白書2017)。日本の妊産婦死亡率は、出生10万件に対し5件です。
突然の陣痛で、不衛生な自宅で出産。または、道と言えないような道を今にも子どもが生まれそうな状態で移動している途中で出産することもあるのです。最悪の場合死に至り、ガーナの高い妊産婦死亡率の背景のひとつとなっています。
そこで、「オート三輪」があれば、緊急のお産の場合、助産師のいるクリニックへの移動が可能になります。自然分娩でも夜の移動にはオート三輪が必要です。
救急車両の支援が難しくても、自転車よりも身体を横にできるオート三輪がクリニックへのアクセスを可能にするのです。
このオート三輪を2台寄贈するプロジェクトをまさに今、立ち上げています。2台あれば、助産師のいないクリニックから20~30km先にある緊急のお産を受け入れることが可能な施設までの移動ができ、支援地域を広くカバーできるようになるのです。
■家族の世話に仕事。いざ出産の時には、クリニックまでのアクセスがない暮らし
――ガーナ駐在の中で見た女性たちの暮らしは、どういったものなのでしょうか。
矢口:私たちが支援している場所は、ガーナのコウ・イースト郡の山間地域にあります。高低差が激しいため、坂道も多く、道路は舗装されていません。お腹の子どもが今にも生まれそうという状況での移動を考えると胸が痛みます。
さらに驚くのが、この地域のガーナ女性たちは、出産の間近まで働きます。
バナナを収穫して頭の上のカゴいっぱいに乗せて運んだり、薪を集めて火を起こしたり、果物などを売って収入を得るなどしています。
また、冷蔵庫がある家庭は多くなく、そもそも電気が各家庭にまで届いていないので食べ物を長く保存ができないため、「作り置き」ができず、1回1回食事の支度をする必要があり、家族の世話も重労働になっています。
出産後は、少し休むだけですぐに家へ帰ります。育休なんてありません。出産してすぐに、また働き始めます。
既に子どもたちがいる場合は、世話をする人がいないと、クリニックへ行くことができず、自宅分娩を選ばざるを得ません。交通費を貯めていても、そもそも交通手段がないため自宅分娩になることが多いのです。
――コウ・イースト郡の女性たちは何歳くらいから妊娠・出産をしているのですか。
矢口:10代初めくらいの女の子が妊娠することもあります。私は、16歳で妊娠した女の子に出会いました。子どもを生み、育てるために、学校をドロップアウト。結婚はしていないのですが、パートナーとその家族が彼女をサポートしていました。
彼女の今後の暮らしを想像した時に、不安な気持ちになりました。いつ、「出て行け」と言われるか分かりません。彼女は、学校を途中で辞めているため、仕事の選択肢も限られています。
ガーナのこの地域では、少女は、15・16歳で家を出て、早いうちから自立を求められます。しかし多くの女の子は生きるために、男性に頼るようになり、10代後半から妊娠することになるのです。
この問題は根深く、私たちがすべて解決することはできません。そのため、妊娠した女性の「安心・安全な出産」の部分をしっかり支えていきたいと思っています。
■必要な時に必要な保健サービスを
――「安心・安全な出産」をサポートするために、他にどのような切り口で活動をしていますか。
矢口:10代の身体が未熟な状態で妊娠・出産をすると妊産婦死亡のリスクも上がります。妊娠前の保健教育もお母さんと赤ちゃんを守るために、必要なことです。
また、産前健診、出産後の健診、医療従事者のもとでの出産の重要性を知ってもらうために、保健スタッフの研修やコミュニティの人たちを保健ボランティアとして育成しています。
妊婦さんが、必要な時に必要な保健サービスにアクセスできるようになるためには、「保健施設」、「医療機材」、「保健医療人材」、「サービスを受けようという意志」、そして「アクセス」そのものが必要なのです。
■お母さんたちの笑顔が奪われる前に、今、いち早く終止符を
――最後に、今回のクラウドファンディングの意気込みをお聞かせください。
矢口:日本では助かる命が、ガーナでは亡くなってしまう。
同じ大切な命なのに。
生まれる場所でこれほど違う状況があることを現場でよりリアルに実感し、これをどうにかしたいと思っています。
今、明らかになっているのは、保健施設への「アクセス」が大きな課題ということ。
私たちにとっては、想像が難しい環境の中でもガーナのお母さんたちは笑顔で暮らしています。いつこの笑顔が失われてしまうかも分かりません。だからこそ、今、改善に向けた努力を進めたいのです。
そのために私たちだけではできないこの挑戦にみなさんの力をください。お母さんの笑顔は子どもの笑顔につながります。
■ガーナの妊産婦と生まれてくる子どもたちを守る!命を運ぶオート三輪を一緒に届けませんか。(https://readyfor.jp/projects/ghana)