「摂食障害」と聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべますか。拒食症や過食症について「好きでダイエットしている」「自分の意志でむちゃ食いして吐いている」といった、誤った認識が横行しています。医療者をはじめとする専門職が集まり、摂食障害について正しく知ってほしいと活動する団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

摂食障害について、医学的な観点から正しい情報を発信

日本摂食障害協会の出張講習会の様子。「セルフグループや家族会主催のイベントなどへ専門家が登壇をして、講習会などを行っています」

摂食障害に関する専門家が集まり、摂食障害の啓発・予防活動、当事者と家族への支援、支援者への情報提供、治療者の育成支援、調査研究などを行っている一般社団法人「日本摂食障害協会(JAED)」。

団体の始まりは2010年、それまで日本になかった摂食障害の公的治療施設の創設を目的に有志が立ち上げた「摂食障害センター準備委員会」。24,403筆の署名を集め、厚生労働省や国会議員への陳情、講演会を行いました。

「厚生労働省は2014年に『摂食障害治療支援センター設置運営事業』を開始、国立精神・神経医療研究センターに摂食障害全国支援センターを設置しました。相談やモデル治療を行う支援拠点病院は47都道府県全部への設置が望ましいのですが、いまだ6県しかありません」と話すのは、協会理事長で医師の鈴木眞理(すずき・まり)さん。

お話をお伺いした鈴木先生

「摂食障害センター準備委員会」は、2015年に「日本摂食障害協会」と名称を変え、2016年に法人化。現在まで専門家が中心となり、摂食障害に関わる人たちを支援しています。

「医学的な観点から正しい情報を発信し、摂食障害のハイリスク群を減らすための啓発を行うことが我々の役割」と鈴木さん。

「たとえば、やせ過ぎの体への悪影響として、月経異常だけでなく、体型が悪くなる、髪の毛や肌に不調をきたす、骨粗鬆症や骨折、不妊症のリスクが高くなります。妊婦のダイエットは、子どもの将来の生活習慣病やうつ病を増やすなどエビデンスを示して情報提供します」

「むちゃ食い後、体重を増やさないために嘔吐する時に園芸用のホースを使う方法がSNSで公開されていますが、薄い壁である食道などの臓器を傷つける危険な行為であることも、医療者として医学的理由を示して警鐘を鳴らす役割があります」

「摂食障害は、医療機関を受診していない、あるいは受診を中断した人口が多い疾患です。医学的根拠がない治療法や治療薬を選択して、被害を受ける事件もありました。正しい医学や支援先情報を発信することも大切です」

摂食障害には、3つの病型がある

当事者と家族向けの講習会を定期的に開催。写真は2019年に十勝で開催された当事者・家族向け講習会の様子。「インターネットやSNSでは間違った情報が多いのが現状です。専門家集団である協会だからこその医学的に正しい情報提供を行っています」

摂食障害は、3つの病型に分けられます。

「主として、若い女性に多い神経性やせ症(拒食症)や過食症、男性にも多い過食性障害があります。拒食症は小食と過剰な運動でひどくやせて、女性の場合、無月経になります。コロナ禍で世界でも日本でも、新規患者数が2倍に増えました」

「過食症はやせてはいません。自分で抑えられないむちゃ食い(過食と呼びます)をしますが、やせ願望が強く、嘔吐や下剤を使って体重を増やさないようにしています。やせていないので、外見で判断できません。神経性やせ症の5~10倍の患者さんがいると推測されています。過食性障害は、むちゃ食い発作がありますが、やせ願望がありません」

「摂食障害はストレス病です」と鈴木さん。

「人は何か困ったことがあると、いろいろな方法で対処します。これを『ストレスコーピング』と呼びます。ストレスの原因を合理的に解決する、原因は変えられなくても自分を成長させる良い機会だと認識を変える、他人に話を聞いてもらう…などがあります」

「飲酒、タバコは『回避』というコーピングで、即効性があり、その時は気分を楽にしますが、連用するとアルコール症やニコチン中毒になります。やせや過食も『回避』に当たります。やせるとつらさのへの感受性が鈍くなり、過食の最中だけつらさを忘れることができます」

「神経性やせ症では、成長期には身長が伸びなくなります。体重増加が遅れると、本来の最終身長に届かないこともあります。また骨粗鬆症は、主要な合併症であり後遺症です。栄養が悪く、骨からカルシウムが抜け出すのを阻止してくれる女性ホルモンが低いので、更年期以上に骨カルシウムは減ります」

「低体重のまま、骨カルシウム量を正常化させる薬物治療はありません。ただ神経性やせ症では、体重を増やすことは、嫌なことに対する感受性を増して、逃げてきた現実を見る恐怖があって、なかなか体重を増やしません」

「過食症は体重が正常範囲なので、低栄養による症状はありませんが、嘔吐や下剤乱用による弊害はあります。胃酸は、肉も溶かす強酸です。嘔吐を繰り返すと歯のエナメル質が溶けて、ひいては歯を失うことがあります。2022年には日本で初めて、日本歯科大学に摂食障害歯科外来が開設されました」

摂食障害は「症状」自分の意志でコントロールできない

日本では摂食障害を治療できる専門家も少なく、治療施設も足りていないという。協会では心理士、管理栄養士、看護師などの専門家向けの講習会も実施している

「拒食や過食、嘔吐に対して、『本人が好きでやっている』というふうに捉えられることがありますが、これらは自分の意志でコントロールすることはできません」と鈴木さん。

「よくある勘違いとして『摂食障害はダイエットが一番の原因だ』というものがありますが、ダイエットはきっかけです。過激なダイエットをしても、健康なら途中でリバウンドして、食べ始めて体重は戻ります」

「これは脳の正常な防衛反応です。ストレスから逃れるためにダイエットに没頭し、気がつくと怖くて食べられなくなっている。遺伝や性格傾向、行き過ぎた完璧主義や白黒思考などのストレスを作りやすい考え方、ストレスが多い環境、やせを称賛する文化などを背景に、思春期にありがちな進路や人間関係の挫折体験をきっかけに発症します」

「治療としては、偏った認知を修正し、ストレスコーピングを向上させるために、認知行動療法や対人関係療法などが用いられます。神経性やせ症は重症の低栄養のために、死亡率は精神疾患の中で最も高いので、ある程度の体重増加を優先させます」

「厚生労働省の調査研究班による全国約5,000の医療施設を対象にした調査では、神経性やせ症(拒食症)は約12,000人、摂食障害全体では約26,000人の患者がいるという数字が出ていますが、これはあくまで診断を受けた患者さんのカルテから引っ張ってきた数字であり、実数は把握できていません。未受診の方も含め全国に数十万、100万人、あるいはそれ以上の患者がいるのではないかと推測されています」

「やせているのがかわいい」という風潮から若年化が進んでいる

2022年より、摂食障害当事者の学生が中心となり、協会公認で「学生部」として活動中。「Instagramを中心に、経験者だからこその目線での情報発信や講習会などでの登壇をして摂食障害の啓発の協力をしてくれています」

15歳未満もソーシャルネットワーク(SNS)に簡単にアクセスできる今、摂食障害の若年化が進んでいると鈴木さんは指摘します。

「SNSが若者のボディーイメージや摂食行動に悪影響を与えていることが学術文献的に明らかにされています。低炭水化物ダイエット、やせ過ぎ体重であるシンデレラ体重は医学的に健康障害が証明されていますが、SNSでは勧められています」

「2022年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた『ルッキズム』の負の側面を、SNSが深刻化させていることもエビデンスで示されています。狭い意味でのルッキズム、容姿や体型、つまり『やせている=かわいい』とする風潮は子どもの健康観を歪めていると思います」

海外に目を向けると、「ファッション業界が『健康』を取り戻すアクションを起こしている」と鈴木さん。

「2006年11月、ブラジル人モデルのアナ・カロリナ・レストンさんが神経性やせ症で亡くなると、スペインとイタリア政府はBMIが18未満のモデルのファッションショー出場を公式に禁止しました」

「2012年、『ヴォーグ』誌の19ヶ国の編集長連名で摂食障害ほどやせたモデルは採用しないと表明しました。同じ2012年、ティーン向けのアメリカのファッション誌『セブンティーン』は、写真の加工によって作られた非現実的な美は思春期女性の美意識へ悪影響を及ぼすという8万人以上の署名によって『あらゆる種類の美を称賛する』『健康的な現実の少女やモデルを登場させる』とコメントし、写真の加工をしないことを宣言しました」

「フランスでは2015年、フランス国民議会下院が『過度の細さ』を扇動した者や、やせ過ぎモデルを雇用した事務所に禁錮刑や罰金を科す法案可決し、2017年10月にはレタッチトフォト(加工写真)明記の法案可決、違反者には罰金、または広告費の30%の罰金が科せられる法律ができました」

日本では、未だ制限はありません。ファッションだけでなくスポーツの現場においても、タイムを縮めるために体重を減らすことを求められたり、器械体操やバレエなど、見た目としてやせていることが良しとされて体重が厳密に管理されたりと、周りの子と比較されてしまうような環境下において、摂食障害を発症することがあります。

「トップアスリートだけでなく、学校のクラブ活動でも起こっています。アスリートの摂食障害の発症は非アスリートの3倍です」と鈴木さん。「団体として、日本で遅れているヘルスリテラシーの向上にも貢献する使命がある」と話します。

当事者だけでなく、周囲の人たちにも正しい知識を広げていくことが重要

摂食障害の啓発と支援活動を世界で同時に行う「世界摂食障害アクションディ2023」の基幹センターのメンバー、登壇者(メディア関係者)の皆さんと

「家族や周りの人たちは、本人のことを否定するような発言や他人と比較するような発言は避けて、本人が工夫や努力している行為そのものを肯定することが重要です」と鈴木さん。

「本人が求めれば、『ほかにもこの方法があるよ』というふうに、強制しないで、選択肢を提示できると良いと思います。そして『不都合な結果になって困ったら、手伝えることがあればいつでも言ってね』というスタンスで待つことです。本人のニーズに合わせて、焦らず応援して欲しいです」

「家族以外の第三者の介入があると、回復も早くなるといわれています。当事者とその家族だけでなく、社会全体として、周りの人たちのリテラシーを上げることも、大切な啓発活動の一つだと捉えています」

「さらには彼らと関わる専門職、管理栄養士や心理師の方たちへ、専門的な分野での啓発にも力を入れています。少しずつですが、メディアでこのテーマを取り上げてもらうことも増え、社会の認知も広がってきています。一人でも多くの方に、摂食障害のことを正しく知ってもらえたらと思います」

協会の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、10/16〜10/22の1週間限定で日本摂食障害協会とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が協会へとチャリティーされ、摂食障害のことを正しく啓発するための活動資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、「みにくいアヒルの子」の物語をヒントに、白鳥と夜空を描きました。たとえ周りと違うことがあっても、またそこに理解が得られなくても、ありのままの自分の美しさに気づき、生きてほしいという願いが込められています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてくださいね。

・未受診者も含めると数十万の患者がいると推測される「摂食障害」、正しく知って〜一般社団法人日本摂食障害協会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は480超、チャリティー総額は9,000万円を突破しました。

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