「個人の社会貢献活動を履歴化して、信頼関係をつくりたい」。こう話す社会起業家に会いました。その起業家は、社会貢献活動に応じて独自のコイントークンを発行するサービスを展開しています。目指すのは、そのコインで寄付やエシカルグッズの購入ができる仕組みです。「社会貢献活動を可視化して、価値になる社会をつくりたい」と意気込みます。(オルタナS編集長・池田 真隆)
” open=”no” style=”default” icon=”plus” anchor=”” class=””]社会貢献でグッズ購入も
人の信用を社会貢献活動で測る時代が来るかもしれません。IT企業のソーシャルアクションカンパニー(東京・品川)はボランティアや寄付など個人が社会貢献活動をするとブロックチェーン上でコイントークンを付与するサービス「actcoin」(iOS版アプリ)を開発しました。
このサービスの仕組みはこうです。アプリ内には、様々なNPOのイベントやお勧めの寄付先団体などの情報が載っています。ユーザーは、参加した活動に応じて、コイントークンがもらえます。
例えば、アプリ内で指定したNPOのボランティア活動を1時間行うと1000コイン、寄付した場合は寄付金額の10%、活動に賛同した内容をSNSでシェアすると100コインがもらえます。
このコインは換金したり、モノを購入したりすることはできないのですが、将来的には、1コイン1円でNPOへの寄付やエシカルなグッズと交換できるようにするとのことです。
このサービスは2019年1月にできたばかりですが、現在のユーザーは7756人。学生や20代の若者が中心です。他のユーザーのコイン所得枚数や活動実績が分かるので、社会貢献の活動歴でつながることもできます。
ソーシャルアクションカンパニーの佐藤正隆社長は、「今年中に3万人のユーザーを狙いたい」と目標を掲げます。そのための「ある施策」を実施中で、「今年3万人突破できれば、翌年には10万人も見込める」と言います。
「半径3メートルのSDGs」を習慣化
佐藤社長が言う「ある施策」が生まれた背景には、一人の主婦がいます。昨年末、その方からこんな問い合わせが来ました。「NPOのイベントなどに参加したいのですが、家のことをやらないといけないので、なかなか参加できません」。
この問い合わせを受けて考えたのが、「デイリーアクション」です。これは、SDGsの目標にまつわる活動を1日1回以上行う機能です。自己申告制で、1日1回完了すると、500コインがもらえます。日常生活から実践できるので、時間や場所に制限されません。
現在は、SDGsの17目標の中から、特に深刻で、個人の日常生活から取り組みやすいものとして、「フードロス」「マイクロプラスティック」「CO2」「循環生活」、そして、「感染予防」の5つの領域での「デイリーアクション」を紹介しています。
例えば、感染予防に関しては、「手洗い、手消毒をこまめに実行した」「人が集まり、換気の悪いところには行かなかった」など8つのデイリーアクションがあり、フードロスに関しては、「余分な食べ物の購入をやめた」「ドギーバックで食べ残しを持ち帰った」など17のデイリーアクションがあります。
SDGsで定めた目標はいずれもグローバルイシューで自分事にすることが難しいのですが、「半径3メートルのSDGs」を実行することで、個人の日常生活から社会を変えていきます。
7月には、初の企業連携企画として「SDGsパートナー」をリリースしました。これは、企業が考えた独自のデイリーアクションをユーザーに提供できる機能です。ユーザーの活動を把握するだけでなく、社員を対象に計測すれば、社内のSDGs推進度を測る一つの指標にもなります。
第一段の連携先として名乗り出たのは、学研ホールディングス。同社では、人生100年時代のウェルビーイングを重要視しているので、健康促進につながる10のデイリーアクションを考えました。
「外出し、世代の違う人(年長者・こども)と挨拶・笑顔ある会話をした」「地域でどのような行事・活動が実施されているのか知ろうとした」「町中で世代の離れた人や困っている人の手助けをした(電車・バスで席を譲るなど)」――などがあります。
佐藤社長は、「企業が重要視するSDGsの取り組みを、ユーザーと一緒に行うことができる。企業が求める取り組みが、生活者の日常生活の習慣になればコレクティブインパクトにつながる」と強調します。
信頼性の高い寄付先団体を紹介
寄付に関する機能も強化しました。非営利組織評価センター(東京・港)が公認する「グッドガバナンス認証」を得た団体や認定NPO法人、公益財団法人などを掲載することで、寄付先が決められないというユーザーの悩みに応えました。財務や運営に関して、第三者組織から適切と判断された信頼性の高い団体を優先的に掲載しています。
岡山県出身の佐藤社長は高校卒業後に大阪に行き、フリーターをしながら音楽活動を始めました。その後、大阪市内の営業会社で、営業やウェブ制作・システム開発を経験し、2008年20代後半でウェブ制作会社を起業します。
2011年に大久保秀夫塾に入塾したことがきっかけで社会課題に関心をもつようになります。「利他の心」を重要視するようになり、社名を変更しました。「利他」への思いをストレートに伝えるため、「リタワークス」という社名にしました。
そこからは社会性に力を入れ、病院・NPOに特化したソーシャルITカンパニーへと変貌を遂げ、2018年に新たな挑戦として、ソーシャルアクションカンパニーを創業します。いまは、リタワークスも経営しながら、ソーシャルアクションカンパニーでは「actcoin」を通じて、社会貢献を価値にする社会をつくっています。
SDGsが定めた目標を達成するまでに残された時間はあと10年、様々な領域で取り組みが活発になっていくことが予想されます。「活動をしっかりとデータに残しておきたい」と佐藤社長は述べます。
社会・環境課題に対して、個人のアクションは些細な影響しか与えないかもしれません。けれど、多くの人がつながって、アクションを起こしていけば、世の中は変わるはず。佐藤社長は「個人の社会貢献歴で信用や連携を生み出したい」と理想の社会を見据えます。