ソーシャルベンチャーのリジョブ(東京・豊島)は美容・ヘルスケア・介護領域の人材不足の解消や働き方改革、途上国での貧困層向けの雇用支援などに取り組む。同社を率いる鈴木一平社長は2014年に28歳の若さで社長に就任、19.8億円の投資額を2年強で回収した実績を持つ。求人サービスでは業界シェアトップクラスを誇るが、その戦略は事業と社会課題の解決をリンクさせるCSV経営だった。

CSV経営を掲げるリジョブの鈴木一平社長 写真:Ben Yamaguchi

――鈴木社長は2014年、28歳のときにリジョブの創業者から引き継ぐ形で経営者になりましたが、引き受けた経緯を教えてください。

リジョブの代表をやらないかと話をもらったとき、直接サロンと取引することによって一人でも多くの人に出会いを届けられることに本質的な魅力を感じました。

美容業界の業界課題として、早期の離職があります。一般的には、3年で3割の離職率と言われますが、この業界の3年以内の離職率は8割にも及びます。小さい女の子が憧れる職業にもかかわらず、なぜこんなにもやめる人が多いのか。ここに違和感を抱きました。

就任したばかりの頃より、この課題を解決する方法を模索していたのですが、2年ほど経ったときに現実的な「解」を見つけたのです。

――解とはどのようなものでしょうか。

働き方を多様化させるということです。サロンで働く、若手スタッフは特にそうですが、土日祝日にシフトに入れることを歓迎され、業務時間後に無給での自主練も行われています。職人的な慣習がある業界なので、従来はこういった長時間労働も「下積み期間」として受け入れられてきました。

ただ、土日も働き、サービス残業を繰り返し、毎日終電ぎりぎりで帰る働き方をしていると家庭との両立は厳しい。サロンを離職する人やサロンのオーナーさんにヒアリングしたところ、働く側と雇う側とでニーズの不一致があることが分かりました。

サロンのオーナーさんからすると、繁忙期にはシフトに入ってほしいのですが、お客さんが少ない時間帯にはそこまで入ってほしいと思っていません。一方で、スタッフさんの中には、土日や祝日に入ることを避けたい方もいます。

このギャップを埋めるには、働き方の多様化を推進するのがよいと考えたのです。

――具体的にはどのようにして働き方の多様化を推し進めていきますか。

働き方を多様化するためには、美容師のスキルを可視化する必要がありました。よく勤続年数でその美容師を評価する傾向にありますが、それだけで本当に正しく評価できているのでしょうか。そこで、新たな指標を用いて、美容師の活躍度合いを測定できるようにしたいと考えたのです。

この考えに基づき、2019年末には、サロン向けの集客支援・予約システムを運営する株式会社リザービアをM&Aしました。リザービアのシステムを使えば、美容師一人当たりの施術単価や支持されている顧客の年代や属性、満足度などが測れます。

例えば、ご家庭の事情などで、週に1日しか働けないという美容師でも、リピーターがいることがデータとして可視化できていれば、雇用する側も雇いやすくなります。繁忙期にスポットで入ってもらうようにすれば生産性も上がります。

美容師のスキルをITで可視化して、働き方の多様化を促進する 写真:Ben Yamaguchi

――可視化することが難しい技術職をお客さんの声によって数値化しようという試みですね。いつ頃から本格的な導入を考えていますか。

施術データは、サロンのものであり個人のものでもあります。特定の個人が、どのような施術をしたのか分かるようにデータを持ち出すことはNGなので、POSに貯まったデータを「20代、女性」など個人名が分からないようにラベリングして集めます。

美容師のスキルを可視化するまでには、2年はかかると思います。このデータがマーケティングに活用できるようになったときに、美容師の働き方の多様性は格段と加速すると思っています。

――リジョブでは社会課題を事業で解決するCSV事業にも力を入れています。社会性を意識するようになったきっかけは何でしょうか。

実は20歳のときに創業した会社を25歳で倒産させた経験があります。この経験から、企業が社会的意義を持つべきだと強く感じました。

――そのような経験があったのですね。起業した会社では社会性は意識してはいなかったのですね。

はい、とにかくお金を稼ぎたいという思いが強かったです。有名起業家の姿をテレビや新聞で見るにつけて、単純に憧れがありました。自分も近づきたいという野心で経営していました。

その頃よりどころにしていたのは、利益でしたね。そして、そこを強く追求した結果、いろいろなものを犠牲にしてしまいました。

当時は学生起業ながら、8億円程度の売り上げを出していて、マーケティングをうまくやっていれば十分と思い込んでいたところがあります。組織体制のことは頭になかったのです。当然、お客様や働く人のことを考えない経営は行き詰まり、5年後には倒産しました。

この経験から、どのような会社だと長く続くのか、を真剣に考えました。その答えはよりたくさんの人に貢献する会社、だと思っています。

世の中には解決していない社会課題や業界課題が山積みです。そういう課題に向き合い解決することで結果として会社が成長する。リジョブの代表を引き受けたときに、そんな会社を目指したいと思いました。

結束力を高めた全社運動会の集合写真、写真は2019年 

――28歳でリジョブの社長になってから、まず始めに取り組んだことは全社員との面談だったそうですね。

はい、当時は社員が80人程度で、平均年齢も25歳と若かったです。社長が変わっても残ると意思表示してくれた全社員のことをしっかりと理解しようと思いました。希望する働き方だけではなく、どのように育ったのか、趣味は何かなどプライベートのことまで話を聞きました。

社会に対する課題解決意識を持っているメンバーが本当に多くて、なかには、「介護施設にいる祖母が、トイレに行けず膀胱炎になってしまいました。だから、介護業界の人不足をなんとかしたいです」と訴えてきた社員もおりました。

――全社員との面談の狙いは、社内コミュニケーションでしょうか。

それもあるのですが、最大の狙いは自社の存在意義の再定義です。何のために会社は存在するのか、よりどころになるものをつくっておきたいと考えたのです。

創業者の採用基準に、「世界を変えたい人」というものがあって、当時はグーグルのように画期的なサービスで世界を変えることで社会をよりよくしていこう、と考えている人を採用していました。こうした価値観を大事にしながら、存在意義を再定義していきました。

いまはSDGsがこれだけ社会に浸透するなど、歴史的な転換点です。多くの企業も社会課題の解決を重視した経営に舵を切っています。その背景には、一国だけで課題を解決するのではなく、二国間で利害を合致した形で取り組むスキームができたことがあります。国レベルでの提携ができるようになったことで、民間企業はその制度の中で事業活動ができるようになりました。そのため、事業の社会性が非常に重要です。

その一環として、特定技能制度を使って外国籍労働者と日本の介護施設をマッチングする事業も構想中です。

――事業の社会性や存在意義などを、どのようにして社内に浸透させていますか。

事業と社会的な価値を接続するための「貢献指標」を定めました。貢献指標を高めることで、事業価値が高まるように設計しています。例えば、サロンの求人サービスの貢献指標は、就業継続率などです。

具体例として、たとえばうちのサービスを通してスタッフを採用した時と、1年間就労した時にお祝い金を出す制度があります。ただ、採用を支援するだけでなく、業界課題である就業継続率の向上につながる取り組みを貢献指標として重要なKPIにしたのです。

こうすることで、メンバーが事業価値と社会的価値をリンクさせ、日々の業務に取り組めるようになりました。

また、数ある貢献指標に対するメンバーの想いや取り組み、成果、チーム力などを伝えるインタビュー記事を定期的に共有・発信しています。オフィスにはメンバーがお客様や求職者様との間に咲かせた「人と人との結び目」を掲示するスペースを設けて「リボンド」と呼んでいます。

オフィスに設けた「リボンド」掲示スペース

これは、モチベーションの維持にもなるのですが、自分たちがなぜこの事業に取り組んでいるのか立ち返る場所でもあります。もちろん、株主へのコミットメントはあるのですが、売り上げや利益を出すことを目的化することへの虚しさは痛いほど分かっています。

コロナ禍で働き方が変わってきたいまだからこそ、仕事の根本の意義を見直し、業界課題に悩んでいる人に寄り添い、自分たちの存在意義を忘れずに働いてほしいと思っています。

2020年~2021年の2年連続で「GPTW働きがいのある会社 ベストカンパニー」を受賞

――どのような人と働きたいですか。

リジョブの軸は、どれほど会社が成長したとしても「事業を通して社会や業界の課題を解決すること」です。ここはいつ何時もブレません。ソーシャルビジョン「人と人との結び目を世界中で増やし、心の豊かさあふれる社会を創る」実現に向け、当事者意識を持って取り組みたいという方とともに、リジョブを創っていきたいです。

そして、リジョブは個人プレーの組織ではなくて、全体最適を意識したチームプレーを重視した組織です。ベンチャースピリットを失わず、メンバーが事業創りや組織創りにチャレンジできる仕組みも、よりブラッシュアップしていきます。

テクノロジーを積極的に活用しながらも、人と人との温もりを感じられるサービスや社会性のある事業にしていくのがリジョブらしさ。リジョブに「入る」のではなく「ともに創っていく」という意識を持つ方に、ぜひ仲間に加わって欲しいですね。

鈴木 一平(すずき・いっぺい)
1986年生まれ。和歌山県出身。数々のベンチャー創業者を輩出する東大起業サークル「TNK」に参加し、20歳でファッション通販ベンチャーを起業する。2011年に株式会社じげんへ入社。経営企画を経て、2014年、M&Aによりじげんグループの連結子会社となった株式会社リジョブの代表取締役に就任する。

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