「身体障害者補助犬法」をご存知ですか。2002年5月に施行された、補助犬とそのユーザーの自立と社会参加を促進するための法律です。施行から20年が、補助犬と補助犬ユーザーへの理解はなかなか進んでいません。「補助犬を通して障がいのある人への理解不足を解消し、多様な生き方を認め合う社会を築きたい」。1995年から啓発活動を行ってきた団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
補助犬ユーザーを含む障がい者への理解を広げるために活動
「身体障害者補助犬法(以下『補助犬法』)の施行から20年になりますが、今でも社会の7割の人がこの法律を知らず、補助犬ユーザーの6割以上が過去に入店拒否に遭ったと回答しています」と話すのは、NPO法人「日本補助犬情報センター」専務理事兼事務局長の橋爪智子(はしづめ・ともこ)さん(49)。
補助犬には、目が見えない人を安全・快適にサポートする「盲導犬」、手や足が不自由な人の日常生活をサポートする「介助犬」、聴覚障がいがある人を音源まで誘導する「聴導犬」、の大きく分けて3種類の犬たちがいます。日本には現在、848頭の盲導犬(2022年3月末時点)、58頭の介助犬、63頭の聴導犬(2022年4月1日時点、いずれも厚生労働省発表)とユーザーが暮らしているといいます。
「根本的に日本はまだまだ障がいのある方への理解が低く、補助犬の理解だけを訴えてもなかなか難しいという壁を感じてきました」と橋爪さん。近年では、補助犬と補助犬ユーザーと一緒に、障がい者への理解を伝えるワークショップや出前授業などを多く開催しています。
「身体障害者補助犬法」から20年の今もまだある受け入れ拒否や無理解
2002年の施行から20年が経つ今でも、なかなか補助犬や補助犬ユーザーへの理解が進まない背景には、一体何があるのでしょうか。
「根本にあるのは、障がい・障がいのある人に対する理解不足や差別」と橋爪さんは指摘します。
「この法律は、皆さんが普段利用する施設、例えば誰でも土足で入れるような場所であれば、ユーザーさんと補助犬も同じように利用できるよ、利用して当然いいんだよということを定めたものです」
「レストランや商業施設、病院や歯医者さん、ジムなどもユーザーさんとパートナーの補助犬は一緒に入ることができます。その場その場で対応を考える必要はあるかもしれませんが、たとえば歯医者さんやジムであっても、補助犬が待機できるスペースさえあれば問題ありません」
「この法律が、『(補助犬ユーザーが)どこでも自由に入れる』という権利だけを主張するものではなく、受け入れる側も当然不安はありますから、お互いにきちんと向き合い、懸念点や心配ごとをシェアしながら、『じゃあこうしたら良さそうだね』といった対等な話し合いを持つきっかけになれば」と橋爪さん。
「障がいがあるから、補助犬を連れているから特別扱いしてくれといっているわけではありません。受け入れる側が物理的に無理なこともあります。ただ、このお店で食事がしたい、このお店のコーヒーを飲みたいという、人として当たり前に抱く気持ちを、『車椅子はダメ』『犬連れはダメ』と、話し合うこともせずハナから否定されてしまうところに問題があると思っています」
「以前、小さな居酒屋さんに車椅子の方何人かとお邪魔したことがあったんです。その時にお店の方が『中は狭いから入ることが難しいけれど、店先にテーブルを出すから、そこで食べていいよ』とおっしゃっていただき、即席でテーブルを作っていただいたことがありました。車椅子の皆さんも大喜びでした」
「障がい者とどう接していいかわからない」が
拒否につながっている可能性も
「受け入れる側は、最初に聞いてみようとか理解してみようとなるまでのハードルが高いと感じています」と橋爪さん。その原因の一つは、障がい者に対する理解が低いことにあるといいます。
「そもそも日本では、障がいのある人と接するチャンスがあまりに少ない。子どもの頃から同じ空間で学んだり遊んだりする機会がなく、『障がいのある人を知らない』『どう接していいかわからない』という方が多いのが事実です」
「受け入れないといけないというものわかるし、何かやらないといけないというのもわかる。でも、何をすればいいかはわからないというのがきっとあって、その『わからない』という恐さのようなものが、拒否につながってしまうのかなと考えています」
補助犬と補助犬ユーザーへの理解が進まない原因のもう一つが、犬に対する意識の低さだと橋爪さん。
「犬とは家の外で番犬として飼われる生き物、ワンワン吠えたり噛んだりする動物である、臭くて汚いというような意識が、一昔前と比べて随分減りはしましたが、それでも残っています。そうすると、犬と一緒にお店に入る、乗り物に乗るといったことへの理解が得づらいところがあります」
「『吠えたり噛んだりして他のお客さんの迷惑になるから、犬を連れている人は入れない』『衛生的に困るから入れない』と断られることもあって、まだまだ補助犬とユーザーさんのことが知られていないと感じます」
補助犬と補助犬ユーザーは、
心のパートナーでもある
「補助犬ユーザーさんは、補助犬と社会の中で暮らしていく時に、周りに迷惑をかけないように補助犬たちの衛生や行動をしっかり管理しています」と橋爪さん。
「日常的にブラッシングをする、ケープをかけて犬の毛が飛び散らないようにする、乗り物にのったりお店に入ったりする前に、必要があればおしっこやうんちも済ませておく…。見えないところですごく徹底し、工夫して管理とお世話をする、まさに犬の飼い主のお手本のような方たちなんです」
「当然ですが、補助犬はそれぞれにしっかりしたトレーニングを積んだ上で、その適性があると認められて補助犬になった犬たちであり、突然吠えたり噛み付いたりすることはありません。それなのに、障がいがあるからとか犬を連れているからと、外見で判断されて断られてしまうというのは、やっぱりものすごく残念なこと」
「多くの補助犬ユーザーさんがおっしゃるのは、『自分のことは我慢できる。だけど、この子(パートナーである補助犬)のことだけは悪く思ってほしくない。犬は何も悪くない』と。ユーザーさんたちにとって、補助犬は日常をサポートしてくれるだけでなく、大きな心の支えであり、『この子と一緒に社会参加したい』という気持ちを持っているということを、知っていただきたいと思っています」
「補助犬法は、違反したところで何か罰則があるわけではありません。だからユーザーさんと補助犬を拒否しても、そのお店に対するペナルティはありません。ここは法律を作る際から議論があった部分で、今でも『罰則を設けるべきではないか』という声もあります」
「しかし、多くのユーザーさんがおっしゃるのは『時間はかかるかもしれないけれど、障がいや補助犬のことをちゃんと理解してくれて、当たり前に受け入れてくれる社会になってほしい。そうじゃないと、自分たちも気持ちよくお店を利用できないし、美味しく食べられないし、楽しくない』と。そうやって20年が経ってしまいましたが…」
無償で愛してくれる相手がいるからこそ、
日々の生活に自信やモチベーションが生まれる
「補助犬たちは、パートナーであるユーザーさんのことが大好きです」と橋爪さん。
「補助犬は、褒めて褒めて、楽しく活躍できるようなトレーニングを受けています。犬たちからすると、ユーザーさんのために何かをして、褒めてもらうのが楽しくて嬉しい。彼らにとっては、ユーザーさんの笑顔が喜びなんですよね」
「電車やバスで、ユーザーさんの足元で補助犬が休んでいると『犬を働かせてかわいそう』という声が聞こえてくることがあると聞きます。自分の目や耳、手のかわりになってくれている大好きなパートナーのことをかわいそうといわれるのは、すごく傷つくと皆さんおっしゃいますね」
「犬は自分がどうであるかなど関係なく、ありのままを受け入れ、無償で愛してくれる。自分が自分であるということを感じさせてくれる、大切な相棒。ただ物理的な支えだけでなく、心理的にもユーザーさんを支えています。相棒がいるからこそ、一緒に街へ出かけられる。知らない場所にも行ってみることができる。本当に大切な存在なんです」
「ユーザーさんは朝早く起きて犬のごはんを準備したり、お散歩したり、室内の温度管理をしたり…。そういったことが結果、自分の体調管理にもつながっているんだとおっしゃる方も少なくありません」
「『してもらう』ばかりの自分ではなく、何か『してあげる』こと、いのちある生き物で、その子の生活には自分が必要なのだという意識が、日々の自信やモチベーションにもつながっているんですね」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は8/29〜9/4の1週間限定で「日本補助犬情報センター」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動費として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、それぞれの人生のストーリーを表す本、その周りに思い思いに過ごす犬たちを描き、多様性を認め合う社会を表現しました。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!
・身体障害者補助犬法施行から20年。補助犬ユーザーを含むすべての人が、壁なく共にあれる社会を作るきっかけを〜NPO法人日本補助犬情報センター
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。