約40種類に及ぶ多彩な事業で様々な社会課題を解決するソーシャルビジネスの雄、ボーダレス・ジャパン(福岡)がついに電力の小売り事業に乗り出した。サービス名は「ハチドリ電力」。森火事を消すためハチドリが一滴ずつ水を垂らしたという南米アンデス地方に伝わる物語のように、契約者は毎月の支払い額の1%をNPOへ寄付する仕組みだ。陣頭指揮を執る田口一成社長に戦略を聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)
――ハチドリ電力では、NPOへの寄付を提供することでウィルとつなげたというワケですね。
田口:そうです。善意のモヤモヤを形にできるサービスにしました。多くの人は自分の周りに、関連のある社会課題がないわけではない。その課題に取り組むいい団体も知っている。けれども、毎月の寄付はハードルが高いという人も多い。
そこで、支払い代金の1%から寄付を始められるようにしました。現在は16の社会活動家やNPOなどからご契約者が寄付先を選べるようにしていますが、すでに60団体が決まっています。今後は社会的事業を行う企業との連携なども考えています。
――ということは、ハチドリ電力で目指すのは、電気の切り替えを通して、NPOへの支援を増やすことでしょうか。
田口:私が2007年に会社をつくって、初めて考えた事業のビジネスモデルは、NPOなどの社会的事業にお金を回すものでした。13年経って、そのモデルに電気というインフラを使って取り組みたいと思います。
地球温暖化において、co2が寄与していると世界中の科学者が警告しています。石炭や火力発電への投融資をやめる「ダイベストメント」の動きが世界で起きているのに、日本はいまだ増設の方向。世界と逆行しているこの状況に、非常に強い危機感を持っています。
自然エネルギーをできるだけリーズナブルに提供するために、電気代からは一切利益をとらないことにしました。うちの収益は月会費の500円のみです。
電気の調達価格は市場に連動して変動しますので、安くなることもあれば高くなることもあるので、どれだけ電気を使っても自分たちの収益を500円/月に抑えることで皆さんに納得感を持って契約してもらえるようにしています。
――いずれは発電所をつくる考えはありますか。
田口:はい、あります。先ほど支払い代金の1%をNPOへ寄付すると説明しましたが、もう1%を、再生可能エネルギーを普及する基金として積立していきます。
例えば、月の電気供給代が7,000円(利益を載せずに提供)とすると、その1%70円がNPOへの寄付金、もう1%70円が再エネ発電基金になります。月会費500円と合わせて、ご契約者が支払う総額は7,640円となります。
ハチドリ電力を使うことで、確実に再生可能エネルギーの発電所が増える「追加性」を担保した仕組みにしています。
――商業施設やマンションでは、テナントが電力を自由にできないといった問題もあります。また、大手電力が法人向けに新電力の仕入れ価格を下回るほど値下げして提案する「不当廉売」も起きています。
田口:日本のCO2排出原因の約40%が発電によるもので、家庭におけるCO2排出の48%が電気によるものです。
「地球温暖化に加担しないために、自然エネルギー100%の電気を使いたい」というのは、とても自然な発想で、誰もが取れる選択肢であるべきです。建物オーナーの意向や条件などで、その選択の自由が阻害されているのは大きな問題です。
メディアなどとも連携しながら、世の中へ働きかけをしていきたいと思っています。
田口一成:
1980年福岡県生まれ。25歳で創業。現在は「貧,困問題」「環境問題」などを解決する29のソーシャ,ルビジネスを日本・韓国・台湾・バングラデシュなどで展開。2019年度のグループ売上高は54億円。
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