アパレル大手ストライプインターナショナル(岡山市、石川康晴社長)が基幹ブランド「earth music&ecology」を立ち上げてから20年余りが過ぎた。当初から「エシカル(倫理的)」をコンセプトにしていたのは先見の明だが、この数年でようやく顧客の意識が追い付いてきた。石川社長はエシカルを掲げる目的は「ロイヤルカスタマー(優良顧客)」の開拓戦略だと言い切る。(聞き手・オルタナ編集長=森 摂、オルタナS編集長=池田 真隆 写真=飯塚 麻美)

インタビューを受けるストライプインターナショナルの石川社長

「エシカル」を打ち出したアパレルCMは日本初

――今年2月から放送した、女優の広瀬すずさんと是枝裕和監督を起用した「earth music&ecology」のテレビCMで「エシカルへ」と打ち出しました。おそらくエシカルを打ち出したCMは日本で初めてだったのでは。

石川:アパレル企業が「エシカル」をテーマに生産現場をCMで見せたのは世界初かもしれないですね。

広瀬すずさんを起用して「エシカル」を訴求した広告は第67回朝日広告賞「広告主参加の部」において、グランプリを受賞

――どのような意図で企画したのでしょうか。グローバルで「エシカル」は当たり前ですが、日本ではまだ早すぎるという意識はなかったですか。

石川:当社はもともと「フェアサプライチェーン」という概念を持って経営しています。「強制労働をさせない」「三大公害を出さない」「繁忙期にも長時間労働をさせない」――というものです。

近年では工場現場を見に行きたいと思う若い消費者が増えています。その一方で、すべてのファストファッションは単価を下げるために強制労働に関与しているように見られて、世間からまるで悪者のように見られていることも自覚していました。

すべてのファッションブランドがそうではないため、その間違ったイメージを止めるために問題提起したかったし、「少なくとも私たちは違うぞ」と世間に伝えたかったのです。

カンヌ国際映画祭でパルムドールに輝いた映画「万引き家族」の監督をした是枝裕和さんにお願いして、一緒に東南アジアに行ってもらい工場で働く19歳の少女にインタビューを行いました。そして、「エシカルへ」というメッセージを広瀬すずさんの言葉に乗せました。

これにより、朝日新聞社から「朝日広告賞」の最高賞をいただきました。良い流れは起きていると思っていますが、まだ世論に突き刺さっている手応えまでは感じていません。一部のリテラシーの高い人にだけ刺さっているという認識です。

アパレル産業は世の中に与える影響が大きい

でも、アパレル産業は、世の中に与える影響が大きいので、アパレル企業がサステナビリティやエシカルと言い続けることが、社会を変えるためにも大事だと思っています。

――グローバルでは、ミレニアル世代(1981年~1995年)やZ世代(1996年以降)はほかの世代と比べて社会課題への関心が高いと言われています。日本の若者をどう見ていますか。

石川:エシカルの認識に関しては、世代ごとに違いがあると思っています。学者や専門家は別として、70~80代はほとんど関心がないですね。50~60代は経営者だけが関心が高く、専務クラス以下の関心は低いです。

20代後半~30代はごく一部だけが高いですが、そのボリュームは少ないですね。やはり、一番関心が高い世代は、10~20代前半だと思います。

――企画したCMも10~20代の「Z世代」をターゲットにしたということですか。

石川:はい、そうです。一方で、若い親層もかなり意識はしました。例えば70代にいまから意識改革を促すことはかなり難しい。でも、30代前半の親の意識改革は可能だと思っています。

――企業CMを打つためにかなりの広告予算を費やしたと思いますが、元は取れそうでしょうか。

石川:過去のキャンペーンを振り返ると、2010年に宮﨑あおいさんに出演していただいた時は、売上高が前年比120%上がりました。キャンペーンの途中から宮﨑あおいさんの印象が効いて、「earth music&ecologyは若者向けブランド」というイメージが世の中に定着しました。

写真は東京スカイツリーの「東京ソラマチ」内にある、earth music&ecology

2015年くらいには、親子で買い物に来ても、娘だけ店内に入り、親は外のベンチに座って待っているという現象が起きました。売り上げを上げるために始めたテレビCMですが、その後、多様な世代にリーチしていく戦略に変えました。

2017年には、鈴木京香さんに母親役でCMに出ていただき、親子向けブランドとして訴求するコミュニケーションに切り替えました。こうしたことで、客数が伸び、「earth music&ecology」が300億円規模に成長しました。

このように「若者」や「親子二世代」などタイミングに合わせてターゲティングを変えてきましたが、いまエシカルを訴求している理由は、改めてブランド理念を伝えることで、エンゲージメント(長期的な関係性)の高いロイヤルカスタマー(優良顧客)を増やしていきたいと考えているからです。

「安いから買ってもらう」ではなくて、ブランドの取り組みや姿勢への共感を期待しています。そのことで売価も高めに設定できるのです。この方向性で3年間、広告キャンペーンを行い、理念共感型の顧客をつくることをKPIに設定しています。

サステナブルへの意識が高いのは「経営層と学生」

――エシカルは「ロイヤルカスタマー」を集めるキーワードになり得るという判断ですね。

石川:その通りです。SDGsがゴールの達成年として定めている2030年には、少なくとも3割程度の国民がSDGsを意識しているはずです。いまの20代前後の若者が30代以降で親になった時、一気に社会は変わると思います。

――2019年の段階では、エシカルを購入動機に持つ顧客の割合はどのくらいでしょうか。

石川:ブランドにもよりますが、古着を扱っている「LEBECCA boutique(レベッカブティック)」ではエシカルを購入動機に持つ顧客は3割に達しています。

古着そのものが「リユース」ですし、ブランド総合ディレクターの赤澤えるがプロダクトへの思いを長文で書いてSNSで発信し、それに共感したロイヤルカスタマーが集まっています。

earth music&ecologyの顧客では、SDGsに関心がある消費者は全体の2%くらいでしょう。ただ、1%未満という期間が20年間続き、この数年で2%に向けて動きだしたという手応えはあります。

SDGsやサステナブルへの意識が特に高いのは「経営層と学生」ではないでしょうか。今後の課題は、30~40代ですね。

近年、「SDGsバッジ」を付けているビジネスパーソンが増えましたが、そのほとんどは経営者で、社長以下の関心は決して高いとは思えません。

実はうちの会社も同じような傾向があります。頭で分かっているだけでは意味がなく、行動を変えないといけないので、劇的に変えるための施策を社内で実施したいと考えています。

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石川 康晴(いしかわ やすはる)
株式会社ストライプインターナショナル
代表取締役社長 兼CEO
1970年12月15日岡山市生まれ。岡山大学経済学部卒。京都大学大学院経営学修士(MBA)。94年、23歳で創業。95年クロスカンパニー(現ストライプインターナショナル)を設立。99年に「earth music&ecology」を立ち上げ、SPA(製造小売業)を本格開始。現在30以上のブランドを展開し、グループ売上高は1,300億円、グループ従業員数は6,000名を超える。中国、台湾、ベトナム、インドネシアなど海外各国への進出も強化しており、国内外の店舗数は1,500店まで拡大。ファッションのサブスクリプションサービス「メチャカリ」や、ECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」、ホテル併設型グローバル旗艦店「hotel koe tokyo」など、最新テクノロジーを駆使したプラットフォーム事業・ライフスタイル事業にも注力。公益財団法人 石川文化振興財団の理事長や、国際現代美術展「岡山芸術交流」の総合プロデューサーも務め、地元岡山の文化交流・経済振興にも取り組んでいる。



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