菅義偉首相は10月26日、「2050年までにカーボン実質ゼロ」を宣言した。この宣言を受けて、WWF(世界自然保護基金)ジャパンは2050年にカーボン実質ゼロを達成するための提言を発表した。(オルタナS編集長=池田 真隆)

所信表明演説をする菅義偉首相=10月26日

WWFジャパンの小西雅子・気候変動・エネルギープロジェクトリーダーは菅首相のカーボン実質ゼロ宣言を「歓迎」と評価した上でこう指摘した。「2050年に実施ゼロを達成するためには、2013年度比で二酸化炭素の排出量をマイナス45%にしなければいけないが今の目標はマイナス26%である。来年には、パリ協定における温室効果ガス国別削減目標(Nationally Determined Contribution: NDC)を再提出するが、その内容次第でこの宣言の本気度が分かる」と語った。

これまでの日本は「脱炭素」を掲げても、期限は示さず、石炭火力も継続する方針で、国際社会と比べ周回遅れが鮮明となっていた。WWFジャパンでは「2050年にカーボン実質ゼロというパリ協定の1.5度努力目標が視野に入る長期目標に踏み込んだことは重要な一歩である。あと30年で排出実質ゼロを目指すには、コロナ禍からの経済復興策として、脱炭素経済への移行策を入れていくことが不可欠」とした。

2050年カーボン実質ゼロを達成するために、WWFジャパンが発表した提言は下記の通り。

1.2030年の排出削減目標を45%以上に引き上げ、新たなNDCとしてパリ協定に提出するこ

2018年度で約12.4億トン排出されている温室効果ガスを2050年までにゼロとするためには、年率約3.1%の削減が必要となる。これは、2030年に2013年比で45%の排出削減に値する。

現在の日本のパリ協定への削減目標である2030年度26%削減(2013年度比)では、2050年排出ゼロには到底届かないことが明らかである。

2050年排出ゼロを実現するためには、その中間である2030年の排出削減目標を45%以上に引き上げ、2021年末のCOP26までに再提出するべきである。

パリ協定に参加する各国の国別目標引き上げの機運を高めるリーダーシップを示してもらいたい。

2.2050年排出ゼロ目標を具体化する策として、2030年エネルギーミックスの改定に取り組むこと

温室効果ガスの9割以上がエネルギー起源である日本においては、エネルギーの脱炭素化が喫緊の課題である。

いよいよ検討が始まった第6次エネルギー基本計画の見直しでは、2050年排出ゼロという目標と整合的な2030年目標とすることが不可欠である。

中でも脱炭素化の主役である再生可能エネルギー目標は、現状の22~24%から少なくとも45%以上に引き上げる必要がある。

また、石炭火力発電は高効率を含めて完全に脱却する道筋を明確にするべきである。福島第一原発事故を経験した日本として、現実を直視し、原発に依存しない将来像を明示してほしい。

さらに大量の再生可能エネルギー導入を可能とする電力系統の仕組みの改定や拡大、市場の整備など、
具体的支援策の導入を加速することが必要である。

また、これまでのようにエネルギー政策を担う経済産業省が先にエネルギーミックスを決め、環境政策を担う環境省が後追いする形では、そもそも2050年ゼロを実現することは不可能だ。そのためエネルギー政策と環境政策を一体化して議論する体制の構築が不可欠である。

3.脱炭素化へ誘導する排出量取引制度などの有効な政策の導入と、地球温暖化対策の基本法の制

2050年排出ゼロ実現のためには、目標達成に有効な具体的政策を導入することが欠かせない。
化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を促進し、エネルギー効率の改善を促す

カーボン・プライシングはその代表的な施策であり、具体的な制度設計を早急に進めるべきである。また、日本にはまだパリ協定の実施に合わせた地球温暖化対策の基本法がない。

2050年ゼロ目標が明記され、さらにそこへ至る道筋としての2030年目標や実現するための施策などを明示する基本法を策定するべきである。

さらにESG投資の重要性が高まる中、日本が世界において産業競争力を向上させていくためにも、脱炭素化に向けて炭素生産性の向上にきちんと取り組んでいる企業が、国内外の投資家から適切に評価され、投資が進むような制度の整備、支援が必要である。

4.温暖化対策をコロナ禍からの経済復興策と明確に連動させること

2050年実質ゼロを掲げる世界の温暖化対策先進国に、ようやく加わることとなった日本にとって、コロナ禍からの経済回復政策は、脱炭素化への移行を加速し、後れを取りもどす絶好の機会である。

日本がこれまで打ち出してきた経済復興策には、環境と連動させた政策はほとんど見られない。欧州連合やドイツ、フランス、イギリス、カナダなど世界の先進国のように、企業の救済に気候変動に関する情報の開示を求めるなど、グリーン・リカバリーを具体的な施策として打ち出すことは、まさに経済回復と脱炭素化を両輪で進め、日本企業が世界に伍して脱炭素化ビジネスをリードしていくことにつながるものである。

現在2050年に実質ゼロの目標を掲げる国と地域は、欧州連合を含めて、すでに約30か国・地域に上る。
さらに先月これまで消極的だった中国も2060年に実質ゼロにする目標を公表した。

新しいアメリカ大統領が2050年ゼロを掲げることになった場合、脱炭素化が世界経済の趨勢となる中で、2050年脱炭素化という明確な目標設定は、日本企業の今後の国際競争力向上につながる。

菅政権のモットーである「行政の縦割りや前例主義を打破して、既得権益にとらわれずに規制の改革を全力で進める」精神は、この脱炭素化へ向けても最も必要な視点である。

縦割りや既得権益に妨げられて停滞している日本の温暖化対策を刷新し、2050年ゼロを真に実現する策を推進してもらいたい。