簡易宅配ボックスの「OKIPPA(オキッパ)」を展開するベンチャー企業Yper(イーパー、東京・渋谷)はこのほど、ブランドコンセプトを一新して、エシカルやサステナブルをブランドの核に置くことを発表しました。(オルタナS編集長=池田 真隆)

ブランドコンセプトを業界を越えた「エシカル&サステナブルバッグ」に変えた

同社は再配達問題を防ぐため、玄関のドアノブに吊り下げることができるOKIPPA(3980円)を開発、2018年9月から売り始めて2年間で16万個販売しています。

従来は、OKIPPAの素材はポリエステル素材100%でしたが、衣料品の製造過程で出る端切れや再生ポリ素材に切り替えます。今後は素材だけでなく、人が行き来する「玄関前」の特徴を生かして、配送にかかわらない異業種とも協業して再配達問題の解決を進めていきます。

玄関前に吊り下げ式のOKIPPA

サーキュラーエコノミーを推進

「業界を超えて様々な企業とコラボして、多くのユーザーが参加できるモノ・ことにしていきたい」――。Yperを立ち上げた内山智晴社長は今後の戦略についてこう説明しました。注目すべきは、「業界を超えて」という部分です。

その異業種コラボの第一段として10月8日に発表したのが、伊藤忠商事との取り組みです。同社が扱う循環型素材ブランド「RENU(レニュー)」の再生ポリ素材を使ったOKIPPAを開発します。

さらに、破損したOKIPPAを回収して、再生紙にリサイクルし、その紙をOKIPPAの付属品に使うサーキュラーエコノミーの推進にも着手します。

RENU素材を使ったOKIPPA製造の循環イメージ

「玄関前」からの社会変革

ECの普及と比例しながら起きた再配達問題。家にいながらワンクリックでモノが買える便利な時代になった一方で、配達員への負担は増しています。Yperによると、1日に1200万個の荷物が配送され、そのうちの5個にひとつが再配達になっているといいます。

配達員の労働問題にもつながりますし、車で移動するので、co2の排出増にもなっています。諸外国に比べて時間を厳守し、丁寧に取り扱うなどサービスのクオリティが高い日本でなぜ再配達問題が解消されないのか、スタートアップをするなら、「誰も解決していない領域に挑みたい」と考えた内山社長は5年半務めた伊藤忠商事を辞めて、Yperを立ち上げます。2017年のことです。

配送員が抱える真因を自ら体感して探るため、配送のアルバイトも行いながら、約1年掛けてOKIPPAを開発しました。一時は、自動販売機のような宅配ボックスの設置も考えましたが、費用面から割に合いませんでした。一体何がお客さんにとっても、配達員にとっても便利なのか考えた結果、「玄関前に置く」ことが最善の解決策だと分かりました。

OKIPPAのサイズはペットボトル18本分

コロナでも売上倍増

宅配ボックスというとステンレス素材の箱が多かったのですが、これをバッグにして、地面に置かずドアノブに吊り下げる方式にしたことで差別化しました。

今年3月には、大阪府八尾市で実証実験を行い、再配達の7割削減に成功しました。家にいる機会が増えたコロナ禍でも販売は落ち込むことなく、むしろ感染症対策として非対面を求めるニーズをつかみ、今年3~6月の販売個数は前年同月比2~4倍とのことです。

地方自治体が導入を支援するケースも出てきて、8月には沖縄県北中城村(きたなかぐすくそん)が200世帯に無償提供、9月には滋賀県大津市が費用の一部助成(定価3980円を1000円負担で購入可)にしました。

総合商社を経て起業した内山社長、会社名のYper(イーパー)は「Hyper(最高の)」のフランス語読み

異業種巻き込むプラットフォームに

2年を経て着実に実績を積み重ねてきましたが、内山社長は再配達問題に取り組んだ手応えをこう話します。

「再配達問題が社会問題になった背景には、配送会社のみに責任を押し付けている構造的な課題があります。そこで、解決するためには業界以外の事業者と連携してこの問題にコミットすることが必要だと考えています」

具体的には、16万個売り上げたOKIPPAをプラットフォームとして活用します。例えば、アパレルブランドとコラボして、ブランドロゴを入れたオキッパを開発することで、事業者にとっては玄関前を広告枠として利用できるようになります。

60万個販売すると、宅配ボックスを設置しているコンビニと同規模となる。内山社長は来年には「100万個の普及を目指したい」と意気込みます。

Yper株式会社 代表取締役
内山智晴(うちやまともはる)

1985年生まれ。京都大学大学院 地球環境学舎修了。学生時代、海外のNGOや国際機関でのインターン経験を経て経済成長なしにインフラ開発は語れないと、ビジネスで開発に携わるるため、2012年より伊藤忠商事株式会社機械カンパニー航空宇宙部に勤務。前職では航空機の販売及び改修、航空機装備品の国際開発案件に従事。フランス駐在中に日本の配送システムのレベルの高さを再確認すると同時に「再配達」という社会課題の存在に疑問を持ち、再配達問題解決を目指して、2017年8月にYper株式会社設立。2018年9月から「OKIPPA(オキッパ)」のサービス開始。会社名のYper(イーパー)は「Hyper(最高の)」のフランス語読み。