人気美容室Londでは社会や環境に配慮したエシカルな取り組みに力を入れてきた。地域の清掃活動やヘアードネーション、児童養護施設へのボランティアカットなどを3年前から行い、今年に入って、レジ袋の廃止やシャンプーの量り売り、マイボトルの給水スポットとして店を開いた。エシカルな美容室になって3年、店には3つの変化が起きたという。(オルタナS編集長=池田 真隆)
Londは東京・銀座を中心に国内外で22のサロンを運営する人気美容室だ。リーズナブルで高クオリティという口コミがSNSで広がり、2013年に構えた銀座にある1号店はHotpepper beauty awardで4年連続売上全国一位を成し遂げた。
特徴は、「従業員第一主義」という理念にある。美容室で働く従業員の離職率は平均で7割ともいわれているが、Londは創業7年目で160人中離職したのはわずか5人という少なさだ。
創業したのは、当時28歳の若者6人組。専門学校時代のクラスメイトだ。全員、学校卒業後に都内の美容室でスタイリストとして就職したが、そこではパワハラに近い先輩スタイリストによる厳しい指導や長時間労働で低賃金という割に合わない待遇が待っていた。
いつか一緒に起業しようと約束していた彼らは再結成したときにある約束を交わした。それは、「先輩にやられて嫌なことはしない」ということ。業界では社内教育や制度に注目が集まるが、実はこの単純明快な約束事から、異例の離職率を誇るLondは生まれた。
例えば、多くの美容室では、オーナーの取り分が最多で、その次に先輩スタイリストが取り、残ったものが若手スタイリストに与えられる。年功序列な店が多く、若手にとっては指名を取る機会は限られ、給料も低賃金が続く。そのため、いつも入れ替わるのが若手スタイリストになる。
Londではまず、この仕組みを変えた。様々な広告媒体やSNSで顧客を呼び込み、まず若手につかせるという風土にした。さらに、作品撮りのノウハウを教えたことで、若いうちから自身の作品をSNSでアピールできるようにした。
こうして若手の活躍を店全体で推し進めることで、毎月、新規のファンを多く開拓する。スタイリストの平均年齢は27歳だが、平均給与は驚きの60万円だ。
そんなLondが力を入れているのが、「CSR」や「サステナビリティ」だ。社内で推進しているのが共同代表の石田吉信さん。3年前、自社を持続可能にしていく戦略を考えた際にCSRに出合ったという。
周囲にCSRに関心を持つ美容室オーナーはいなかったが、書籍などを読み込み、セミナーに通い知見を広めていった。
まず、自社でできることとして始めたのが、店舗を構える地域の清掃活動だ。毎月第二日曜日の朝に全店舗で行い、「#きもちいクウキ」というハッシュタグをつくり、SNSで様子を発信している。
また、髪の毛を切る美容室だからできることとしてヘアードネーションへの協力や児童養護施設へのボランティアカットを行う。
店舗の電力は再生可能エネルギー、日用雑貨の購入にはダンボールではなくコンテナを使うなど環境にも配慮する。
今年に入り、脱プラに力を入れる。プラスチックのレジ袋を廃止し、同社オリジナルシャンプーの量り売りを始めた。シャンプーは4リットル売れるごとに1本、児童養護施設にシャンプーを寄付するコーズマーケティングも行っている。
マイボトルを持つことを社内でも推奨する。給水スポットが探せるアプリ「mymizu」と連携し、各店舗を給水スポットとして開いた。誰でも水を給水する目的での来店が可能にした。店舗で寄付付きマイボトルの販売も行う。
これらの活動は随時同社のサイトで更新しており、専用のインスタグラムアカウント(@lond_media)でも発信している。顧客や社員向けに活動をまとめた冊子「サステナブルマガジン」も発行している。
社内浸透の一環として、サステナビリティチームを発足、約20人のメンバーが所属しており、LINEグループで情報共有しながら日夜学びを深めている。
石田さんはCSRやエシカルに取り組んだことで起きた変化として3つ挙げる。一つ目は、採用への影響だ。「去年面接した約80人の3分の1がCSRに興味を持っていた」と述べる。
新規の顧客の獲得にもつながっている。「『銀座で毎月ゴミ拾いをしていて、離職が少ない美容室ってどんなところだろう?』と銀座にある某有名アパレル店の店員さんがご来店されたり、『SDGs、美容室』で検索したら出てきたという理由でのご来店などがじわじわと増えてきたと実感している」と話す。
3つ目の変化は取材の依頼やセミナーへの登壇が増えたこと。これまで、離職者を抑えた経営に関する取材が多かったが、CSRに関する取材依頼も定期的に来るようになったという。「約10媒体は受けた」とのことだ。「正直、美容室業界はまだまだ意識が遅れている」と言い張るが、他店舗のオーナーなどに刺激を与えているに違いない。
今後力を入れたいことは、社会課題を起点とした事業づくりだ。石田さんは「どんな取り組みも単発で終わってしまったら意味がない。うちの店舗には年間で12万人の来店がある。この集客力を社会課題の啓発につなげたいし、環境に配慮した素材からシャンプーやオイルなどを作ることも考えている」と話す。