「都市養蜂」をご存知ですか。都市部のビルの屋上などで養蜂を行い、それによって都市の緑化や生物の多様性を守ることにつながるだけでなく、都市部で暮らす人たちと自然、あるいは地域との触れ合いやつながりを生む役割を果たしています。街の緑化や活性化、地産地消への取り組み。さまざまな社会課題を解決する方法として、都市養蜂は今、日本全国に広がっています。(JAMMIN=山本 めぐみ)

ミツバチは、都市部の緑や生態系を豊かにしてくれる

丸の内のビルの屋上での養蜂作業の様子。「東京の銀座では2006年に屋上で養蜂を始めましたが、その時は繁華街でミツバチを飼うことに社会が受け入れてくれるか悩みました。しかし今では『銀座で出来るならば』と全国にこの活動が広がりました」(ミツバチプロジェクト)

日本各地で都市養蜂に取り組む約20の団体が参加するネットワーク「全国都市養蜂ネットワーク ミツバチプロジェクト」。全国のミツバチプロジェクトを代表して、大阪・梅田で都市養蜂に取り組んできたNPO法人「梅田ミツバチプロジェクト」代表の小丸和弘(こまる・かずひろ)さん(55)にお話を聞きました。

「ここ最近のハチミツブームもあり、都市養蜂は全国に広がっています。このネットワークでは、かれこれ10年以上都市養蜂をやってきた銀座、名古屋、札幌、仙台、大阪梅田のミツバチプロジェクトだけでなく、最近始めたばかりという学校や企業、商工会など、各地で『都市養蜂を通じて社会課題を解決したい』と活動する人たちが集まって、課題や知識を共有し、都市養蜂のあり方や可能性を話し合っています」

「全国都市養蜂ネットワーク ミツバチプロジェクト」を代表してお話をお伺いした「梅田ミツバチプロジェクト」の小丸さん。梅田養蜂場でのミツバチ学習会で

そもそも、「都市養蜂」とは何なのでしょうか。

「文字の通り、都会で養蜂を行うことです。ビルの屋上や公園、遊休地を利用して養蜂を行います。『この世からミツバチがいなくなると、その4年後に人類も滅亡する』というのは、かのアインシュタインの言葉ですが、ミツバチは農作物の実りには欠かせず、私たちの生活に強く結びついている、なくてはならない存在なのです」

「ミツバチは花の蜜を集めて蜂蜜を作りますが、その際に草花を受粉させる役割を果たしていて、実は草花には欠かせません。受粉によって草花が生き生きして実がなれば、今度はそれを目的に鳥や他の昆虫なども集まってきます。ミツバチは、都市部の緑や生態系を豊かにしてくれる生き物なのです」

人に対しても大きなインパクトを与えることができる

巣箱の周囲2〜3kmから蜜源を探し、巣箱に持ち帰る働き蜂の様子。働き蜂は全てメス蜂で、自分の体重ほどの花蜜を運んでくる

「同時に、都市養蜂は都市部で暮らす人たちに対してもインパクトがある」とミツバチプロジェクトの小丸さん。

「ミツバチがいることによって、都市部にいながらも自然を感じられるようになります。受粉の役割を果たしてくれる昆虫が少ない都会では、たとえばマンションのベランダに果物の苗を植えても、自然に実を結ぶのは難しい。でも近くにミツバチがいると、植物が生き生きと本来の姿を取り戻し、実が成ります。イチゴの苗を植えたら、知らない間にかわいい実が成っていた。そしたら、『また植えよう』という気持ちになるのではないでしょうか」

「1つの世帯がベランダに植えられる植物の数は限られているかもしれません。一家に一つのプランターだと少なく感じるかもしれませんが、もし10万人の人が一つずつ置いてくれたら、10万個のプランターになる。ものすごい緑化につながるわけです。都市の緑化には手間もかかるし、お金もかかる。だけどミツバチは、環境に対するアイコンとして社会に大きなインパクトを与えることができる、貴重な存在です」

東京・銀座のミツバチプロジェクトの例がその一つです。

「銀座ではミツバチを飼育して、ハチミツを採るだけでなく蜜源を増やそうと呼びかけると、すぐに街の皆さんが呼応して屋上緑化を進めてくださいました。東京中央区の方針で緑化率を増やす助成制度とも重なり、デパート、商業施設、ホテル、結婚式場など様々な施設にビーガーデンと称する屋上緑化が広がりました」

東京中央区で行われる「柳まつり」にて、銀座の採れたてハチミツを販売する様子。ミツバチプロジェクトは、街の新しいシンボルとなっている

「ここに地方と連携した苗が植えられて、苗植え祭、収穫祭には、地域で働く人々だけでなくシェフ、バーテンダー、クラブのママに芸者さんなど職業や世代を超えた多様なコミュニティが広がり、銀座ならではの特徴ある緑化活動が展開されています。今ではハチミツと合わせた商品ができるなど、地方との交流からビジネスマッチングの場にもなって、多くの街の関心が高まって来ました」

もう一つの例として、大阪・梅田の東側にあるエリア、若者の街である茶屋町では、毎年3月末に菜の花を植えるプロジェクトを実施しています。

「もともとこの地域は、一面の菜の花畑でした。地元小学校の子どもたちが種から育ててくれた苗を、地域の団体や企業の方たちと一緒に商店街のプランターに植えるのですが、それが都市の緑化につながるだけでなく、地域の人たちがつながるきっかけや、そこを訪れた人たちにも何か感じてもらうきっかけになります。都市養蜂には、社会問題の解決や地域のコミュニティ作りのフックになる可能性が大きく秘められていると思います」

環境や食の大切さを子どもたちに伝える役割も

初めて近くでミツバチを見て、興味津々な表情を浮かべる子どもたち。「『食べ物を残さず食べるようになりました』と親御さんからお手紙をいただく事も」(ミツバチプロジェクト)

さらに都市養蜂で採れる蜂蜜は、子どもへの食育や地産地消にもつながります。

「全国のミツバチプロジェクトでは養蜂体験や見学会などを行っていますが、都会にいながら子どもたちに自然や食を身近に感じてもらえるというのは大きいと思います。実は働きバチが一生かけて作ることができる蜂蜜は、たった3gほど。およそティースプーン一杯です。いのちの重さを感じると、また違った味わいがあります」

「子どもたちの『なぜ?』から始まって、ミツバチのことだけでなく、自然の循環を知り、蜂蜜を収穫し、味わう。環境のことだけでなく、食べ物の大切さも伝えられたらと思っています」

「ミツバチはおとなしい生き物。ただし、安全は必ず担保する」

実はとってもおとなしいミツバチ。こちらは女性スタッフの手に乗っているミツバチ。暖かくてモフモフしている

一方で「怖い」「刺される」というイメージもあるハチですが、都市養蜂にあたり、どのような準備が必要なのでしょうか。

「『ハチ=凶暴、刺す、こわい』というのは、『スズメバチ』のイメージから来ている部分も大きいのではないでしょうか。花の蜜を集めて蜂蜜を作るのは『ミツバチ』だけで、『ミツバチ』は攻撃性が低く、基本的には安全だという点はお伝えしておきたいと思います」

「ただ、他の生き物も同じだと思いますが、まずは『生き物を飼う』ということへの覚悟を持つ事、さらにミツバチの場合はそれが『針を持った生き物である』ので、飼育には養蜂技術や知識をしっかりと身につける準備が必要です。何より大切なのは、事前に近隣の方々にしっかりと説明して、同意を得ること。ルール、安全管理、技術も含めて全部しっかりやること、それがないことには、せっかく社会を良くするための試みであっても、周囲からの理解を得ることは難しくなってしまいます」

「いろんな世界とつながれるのが魅力」

ミツバチの受粉により菜の花から採れた菜種油を使っての神事。古来の道具と菜種油を使っての神事は100年ぶりに行われた

「都市養蜂はキャッチーだし、もしかしたら『楽しそう』『儲かるかも』と思ってこの世界に足を踏み入れる人もいるかもしれません。だけど実際にやってみると、決して楽ではありません」と、ミツバチプロジェクトを代表して小丸さんは話します。

「せっかく始めても、一年ぐらいで辞められるところもたくさんあります。気軽に始められる割には、始めるとものすごく手間ひまがかかるのがその理由かもしれません。効率の良さとか手っ取り早さとかを優先する事ができない。実は地道な活動です」

「ですが、続けていくとどんどんミツバチの魅力に惹きつけられていきます。ミツバチというキーワードで、環境や文化、食、ライフスタイル、デザイン、教育など様々なジャンルの方々との繋がりが国境を越えて生まれ、豊かな生活環境の構築に関わる事に喜びを感じます」

梅田ミツバチプロジェクトは今年、医療関係者、介護関係者を支援。「コロナ禍で懸命に頑張っておられる方々に支援物資としてハニーキャンディをお届けしています」(ミツバチプロジェクト)

全国のミツバチプロジェクトを代表して、札幌・銀座・名古屋・梅田各ミツバチプロジェクトの方たちに、ご活動への思いを声を聞きました。

「ミツバチは蜜だけじゃなく、多様な人や物語を集めてくれます。都市養蜂は、自分が暮らす街をもっと好きになれる活動だと思っています」(札幌)

「15年前、繁華街の真ん中で奇想天外の事をしたと言われました。それでも、銀座の街の皆さんは当初から応援してくれました。あれから、『銀座でもできるのなら』と全国にミツバチプロジェクトが広がり、今大学生や高校生までもがミツバチを飼って地域の課題に向き合っています。都市が環境のメッセージを発信する事がとても重要な時代、私達は環境指標のミツバチを中心につながることで循環型の新しい社会を目指します」(銀座)

「未来を担う子供たちと支える大人たちに、ミツバチを通じて生物多様性について少しでも知ってもらえる事が喜びで続けています」(名古屋)

「応援してくださる方々、一緒に活動しているメンバー、その笑顔がある限り、活動を続けていきたいと思っています」(大阪)

「自分にできること」を考えるきっかけに

春の日差しの下でミツバチの世話をする。ボランティアや学生、リタイヤ後のシニアの方など様々なメンバーが集まる

「ミツバチプロジェクトが、より良い社会を築くために一人ひとり、『自分ができること』を考えるきっかけになれば。それが私たちの思い」とミツバチプロジェクトの皆さん。

「私たちはミツバチと人、自然のつながりを突き詰め、それに特化して活動してきました。だからといって都市養蜂がすべてとか、みんなが都市養蜂に興味を持つべきとかということではなくて、私たちが言えることとしては、それぞれの立場でもし何か興味を持ってできることがあったら、アクションを起こした方が良いのではないかな、ということです。都市養蜂に限らず『誰かがやらないといけないこと』がきっとあると思うんですね。ミツバチプロジェクトが、そこを考えるひとつのきっかけになれたらと思っています」

「都市養蜂は大きな意味で、将来の人の行動、社会のあり方、街のつくられ方を変えていくものです。やがて大きなうねりとなってすべてがつながっていきます。それぞれのつながりの中で何か気づきを得て、社会を少し良くしていくために『自分がどう関わっていけるか』を考えながら行動できたら、というのが私たちの思いであり、願いです」

都市養蜂を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「全国都市養蜂ネットワーク ミツバチプロジェクト」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×ミツバチプロジェクト」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、全国のミツバチプロジェクトの学習会や見学会、また共同のPOP-UPショップなどを開催し、都市養蜂の魅力を広めていくための活動資金として活用されます。

「JAMMIN×ミツバチプロジェクト」11/23~11/29の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:オートミール(杢ホワイト)、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツ(チャリティー・税込3500円)やパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ミツバチを中心に、生き生きと咲く花、野菜や果物、蜂蜜を描きました。ミツバチを中心に豊かな自然が育まれ、自然と人、人と人とがつながり合う様子を表現したデザインです。

チャリティーアイテムの販売期間は、11月23日~11月29日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

ミツバチが、都市と人、自然をつなげる。「都市養蜂」通じ、豊かな社会を築きたい 〜全国都市養蜂ネットワーク ミツバチプロジェクト

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

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