「近所で暮らす人におせっかいをやくことができるのは、地域の住人だからこそ。地域の課題を、おせっかいで支援したい」――。そんな思いで、東京都豊島区で活動するNPOがあります。団体立ち上げのきっかけとなったのは、自治体が運営していた子どものための遊び場。子を持つ一人の母親としてそこでさまざまな背景を抱える子どもたちと出会い、「放っておけなかった」と活動を開始した女性。そこから9年、地域への思いとは。(JAMMIN=山本 めぐみ)

遊び場を通じて見えた、地域の子どもたちが抱える課題

団体が運営する「池袋本町プレーパーク」で遊ぶ子どもたち。子どもがおもしろい遊びを思いついたり、もっとおもしろくなるように工夫したりと豊かな発想と感性を育む環境がちりばめられている※写真の子どもは、記事中の登場人物とは関係ありません

池袋がある豊島区を拠点に活動するNPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」。「地域を変える、子どもが変わる、未来を変える」を掲げ、乳幼児から高校生を対象にいくつかの事業を展開しています。

「区から委託を受け、子どもの遊び場『池袋本町プレーパーク』を運営しているほか、区内4箇所で月に2回の子ども食堂の開催と無料学習支援、また外国にルーツを持つ子どもやその親御さんへの包括的な支援なども行っています」と話すのは、代表の栗林知絵子(くりばやし・ちえこ)さん(54)。団体を立ち上げる前は、子を持つ一人の母親として、当時区が運営していたプレーパークを利用していました。

NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」代表の栗林知絵子さん

「そこで毎週のように顔を合わせる子どもが、何も食べていないとお腹をすかせていたり、進学できないかもしれないと悩んでいたり…。そういうのを見聞きすると、放っておけませんでした。『他人の私がそこまでおせっかいをしても良いのかな』と悩みもしたけれど、我が子の幸せを願う時、周りの子どもたちも幸せでなければきっと自分の子も幸せではないのはないか、という思いがありました」と当時を振り返る栗林さん。

プレーパークがあった場所には学校の建設が予定されており、2013年で閉館が決まっていました。同じように地域の子どもたちが抱える課題を認識し、「この場所を残さなければ」と感じていた地域の方たちとともに声を上げ、NPOを立ち上げてプレーパークの事業を継承。現在は朝10時〜夕方5時まで、専属スタッフが常駐して毎日オープンしています。

「家庭や学校でつまずくことがあった時、地域が子どもたちの居場所になれたら」

プレーパークでは「自分の責任で自由に遊ぶ」というモットーが十分生かされるように「プレーリーダー」と呼ばれるおとなが配置されている。「プレーリーダーは『遊びの指導者』ではありません。プレーリーダーの最も大切な役割は、子どもが本気で遊ぶことのできる環境を作ることです」(栗林さん)

団体を立ち上げる前、栗林さんはプレーパークで一人の男の子と出会います。

「知り合って話を聞いていると『(進学したいけれど)高校にいけないかもしれない』と。先生からもお前は無理だと言われたというのです。『そんなことはない』と自宅に呼んで一緒に勉強するようになりました。彼はひとり親家庭で母親はダブルワーク、引っ越しと転校を繰り返す中で、勉強についていけていない、わからないということを周りに言えない環境に陥っていったようです」

さらに徐々に信頼関係が育まれた時、彼は「お金の心配がない日なんてない」と栗林さんに話しました。

「彼は毎日親から500円をもらってコンビニでご飯を買う生活を、小学生の時からずっと続けてきたそうです。勉強の後、『うちでご飯を食べていきなよ』と誘うと『家族みんなでご飯を食べるなんて気持ちわるい』と言いました」

「500円で、好きな時間に好きなものだけを食べる。それを日々繰り返す中で、果たしてその子がおとなになった時、家族団らんを築けるでしょうか。しかしまたその一方で、果たしてそのことを周囲の人たちが『親の責任』や『家庭の問題』として済ませていいのでしょうか」と栗林さん。

「何か私たちにできることがあるのではないか」と、団体として無料学習支援と子ども食堂をスタートした栗林さんたち。「学校や家でしんどいことやつまずくことがあった時に、地域がちょっとサポートできて、子どもたちの居場所になれたら」と話します。

地域が、家庭でも学校でもない子どもたちの居場所になれる

運営する4つの子ども食堂のひとつ「要町あさやけ子ども食堂」での一コマ。毎月第1、第3水曜日に開催

「自分のことを吐露できる信頼できるおとながいること、自分の意見を尊重して聞いてくれるおとながいることは、子どもにとってとても大切なこと」と栗林さん。

「『もしかしたら、うちはほかの家庭と何か違うのかもしれない』とか『実は困っているんだけど、どうしたらいい?』といった声に、周囲のおとなたち耳を傾けることが求められています」

「千葉県野田市で、当時10歳の女の子が父親から虐待を受けて亡くなる事件がありましたよね。彼女は小学校のアンケートで父親の暴力を訴えていました。もし家庭と学校以外に、彼女が安心して話せるおとながいたり居場所があったりしたら、彼女の人生は変わっていたかもしれません。地域がその役割を担えられたらいいなと思います。早い段階で『大変』『苦しい』と言える誰かとつながることができれば、孤立や虐待を減らすことができるのではないでしょうか」

「『おせっかい』が各地に広がれば、社会の色を変えていくことができる」

無料学習支援の様子。毎週月曜日、豊島区区民ひろばにて開催

「そう考えた時に、やはりそれは地域、同じ地域の住人だからこそ、近くで子どもたちを見守り、継続的に支えられる存在になれるのではないか」と栗林さん。

「以前は行政との話し合いなどの場に行くと、『それは栗林さんがやることではないです』とか『専門機関とつなぎます』と言われました。しかし専門機関とつながったとしても、その子のしんどい暮らしはそうすぐには変わらないし、不登校の子は不登校のままだし、お腹を空かした子は翌週も翌々週もお腹を空かしているわけです。『これ一緒に食べようよ』とか『一緒に何か作ろうか』『一緒に勉強しようか』と言えるのは、それはすぐ隣にいる、住民である私たちだからこそできるではないでしょうか」

コロナ禍で子ども食堂の開催が中止となったため、子ども食堂では定期的に食材配布やお弁当配布を行っている。写真は「椎名町子ども食堂」の様子

「その時に、『地域の中で住人同士が顔を合わせる場がある』ことがとても大切です。互いに名前で呼び合う関係性があれば、困っていた時に放ってはおかないからです。子どもの支援には『地域のつながり』をまるごと作っていくことが非常に大事で、それによっておとなたちも地域や地域の課題に対し、もっと我がごと感が生まれていくのではないでしょうか」

「一人が地域でできることは限られているけれど、日本全国に『おせっかい』が広がっていけば、そんな地域が日本中に点在することによって、社会の色を変えていくことができるのではないでしょうか」

住人同士が支え合うことで、地域がより良い場所になる

団体のキャラクター「おせっかえる」。デザインしたのは、子ども食堂に来ていた当時小学生の女の子。「おせっかいをされた子はおとなになって、おせっかいを返すので『おせっかえる』です。『おたまじゃくしが、まちでいっぱいおせっかいをやかれて大きくなっておせっかえるになる』という思いのもと描いてくれました」(栗林さん)

ある時、一人のお母さんから「子どもの高校進学に必要なお金の工面が難しく、区の窓口に相談すると『子どもと一緒に来てください』と言われた。しかし行きたかった高校にやっと合格してウキウキしている我が子を前に、どうしても『お金を借りるために一緒に区役所に行こう』と切り出せない」という相談を受けた栗林さん。

「教科書や制服など一式を新しく揃えるとなると、15万円前後かかります。生活に困窮している家庭がこの額を工面するのは容易ではありません」

そこで団体は4年前より、小中高へ進学する子どもを持つ家庭に対し返済不要・成績不問の「WAKUWAKU入学応援給付金」の配布をスタート。最初は企業の協賛を受け、2年に渡って110世帯に給付金を届けることができました。企業の協賛が終了した後、2019年は自分たちでクラウドファンディングを実施し、寄付金を募って給付金を届けました。

「WAKUWAKUホーム」は宿泊機能をもつ子どもの拠点。「異年齢の子どもたちが集まり、ゲームをして遊んでいる様子です」(栗林さん)

「持続可能な支援や地域のことを考えた時、企業さんから大きな額をご支援いただくのももちろん大変ありがたいですが、草の根の活動として、地域の方たちからたとえば一人千円を、千人二千人と集めることができたとしたら、それは『お金が集まる』という価値だけでなく、その地域が、地域の人たちの意識が変わっていくということも意味するのではないでしょうか」と栗林さん。

「支援する・支援されるという関係性ではなく、自分たちが暮らす地域をよくしていくためには、そこに住む住人同士が支え合っていく姿勢が大切なのだと思います」

「『地域』は、誰もが持つ資源」

子ども食堂にて、ボランティアの方たちが協力して調理をしているところ。「WAKUWAKUの取り組みは、ボランティアさんたちの協力があってこその活動です」(栗林さん)

地域に根ざして活動する栗林さん。最後に、「栗林さんにとって地域とは?」を尋ねました。

「私にとって家族はかけがえのない存在です。受け入れてくれて帰る場所があるということは、何より大きな力です。家にいるのがしんどかったりつらかったりする人がいた時に、ある種地域が、家族のような存在になれるのではないでしょうか。そしてそれがある限り、人は幸せになれるような気がしています。家族の次のコミュニティである地域が豊かになれば、幸せを感じることができると信じています」

「生活に困窮し孤立していたあるひとり親のご家庭が、何度も声をかけるうちに少しずつ支援の場に足を運んでくださるようになりました。子どもも地域資源とつながり、お母さんの話に耳を傾ける人が増えました。その時にそのお母さんが言ったのは、『くりちゃん、世の中変わったよね』と」

「社会や制度が変わったわけではありません。だけど彼女にしてみたら、話を聞いてくれて自分や子どもを肯定してくれる居場所ができた、そのことで『世の中が変わった』と感じるぐらい気持ちが変化したんですね」

「地域って、実は一人ひとり皆誰もが必ず持っている『資源』なんですよね。そこにアクセスすることで、その人の人生も心持ちも大きく変わるし、社会も変わる。それだけで解決できる問題も、もしかしたらあるかもしれません」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

3/8〜3/14の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」へとチャリティーされ、小学校入学を控えた子どものいる生活困窮家庭に、1万円の入学応援給付金を届けるための資金となります。

「昨年からの新型コロナウイルスの流行によって、困窮する家庭が増加しています。団体として日々の活動に追われ、今年は給付金のためのクラウドファンディングを実施する余裕がありません。しかしありがたいことに問い合わせやご寄付をいただき、進学するお子さんのいるご家庭になんとか給付金をお届けしたいと思っています。今回のコラボで、20世帯への給付金・20万円を集めたいと思っています。ぜひ応援いただけたら幸いです」(栗林さん)

「JAMMIN×豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」3/8〜3/14の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はスウェット(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で7600円)。他にもTシャツやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、一致団結して塀の向こう側を覗く愛らしい動物たちの姿。それぞれができることを持ち寄り、手を取り合って支え合うことで、よりワクワクするステキな世界(地域)が見えてくるよ!というメッセージを表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、3/8〜3/14の1週間。JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「地域の中に『おせっかい』増やしたい」。困窮した家庭を支える「地域づくり」〜豊島子どもWAKUWAKUネットワーク

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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