僕は信仰心が薄い人間ですが神社のすぐ傍で育ったからか神社が好きで、地元の神社はもちろん、撮影や出張で出かけると大小、有名無名関係なく、その地の神社にお参りします。最近、神社にお参りしていて気になるのは、プラスチックでできた「しめ縄」が増えてきていることです。(高柳 豊=カエルデザイン クリエイティブディレクター)
「しめ縄」の「しめ」という言葉は、てっきり「「締める」の「締め」だと思い込んでいた。縄をぎゅっと締めるから、「しめ縄」なのだろうと。
でも、それは間違いで「しめ縄」には「占め(しめ)」の意味があり、それは神霊が特定の場所を占めていることを示しているのだそう。ちなみに漢字では注連縄と書くことが多いけれど、wikipediaによると「注連(ちゅうれん)」とは、中国において死者が出た家の門に張る縄のことで、故人の霊が再び帰ってこないようにした風習で、これを日本の「しめ縄」に当てることには違和感があります。
さて、「しめ縄」は一般的には稲藁を用いてそれを撚り合わせて作るのですが、神社によって時計回り、反時計回りがあるそう。稲藁は収穫前の青々としたものを乾燥させて用いるのが本来で、出来上がった縄に「紙垂(しで)」と呼ばれる切り紙を取り付けて完成となります。
金沢から車で30分ほどのところにある白山比咩神社の「しめ縄」。太さ約80センチ・長さ8メートル・重さ約300キロだそうです。毎年12月の末に氏子青年会とOBが集まってこの大しめ縄を奉製し、29日に付け替えられます。さすがにこの大きさをプラスチック製でというのは難しいでしょう。
で、この「しめ縄」。規模の大きな神社の場合は氏子総出で作るのでしょうが、多くの場合、農家の手仕事、収入源として受け継がれてきた伝統技術でした。それが、農業人口の減少と農業環境の変化で農家が作ることが減って地域の老人クラブで作るようになっていったのが、最近ではそれも難しくなってきている地域が多いようです。そして都市部であっても年々氏子が減ってきていて、毎年新しい「しめ縄」に取り替えることが大変になってきています。
そうなると、取り替えられずに薄汚れて朽ちた「しめ縄」が使い続けられたりするわけですが、さすがにそれは忍びないと、プラスチック製の「しめ縄」が掛けられることになるのですね。プラスチック製の方が安いし軽いし耐久性もあるし。
プラスチック製であっても、薄汚れた「しめ縄」よりはましなのかも知れませんが、稲藁の質感、素朴さ、綯(な)われた力強さと美しさには敵わないし、神様がおられるところにイミテーションというのは何だか寂しく、悲しく感じてしまうのです。農業人口の減少、少子高齢化、氏子という地域コミュニティーの崩壊みたいなことが「しめ縄」にも現れてきているのです。
でも、色と形が似ていれば良いのでしょうかね?藁で縄を綯(な)うという日本の伝統の手仕事が失われていく。時代の流れだからやむを得ないことでしょうか?
「しめ縄」だけでなく、竹籠や竹笊(ざる)、籐のかご、木桶、曲げわっぱ(木の弁当箱)、箸、お椀など――。自然素材を職人が手仕事で作っていたモノがプラスチック製品に取って変わられた。
軽くて清潔で着色も成型も自由で大量生産で安価なプラスチック製品が、自然素材の製品を追いやり、その職人も追いやり、伝統的文化も追いやる。色形が同じなら文化は継承されたことになるのでしょうか?そうではないでしょう。
でも、そんなことを言っても、それが時代の流れ。流れに乗れないモノは廃れる。それが必然でしょうと言われるかも知れませんが、できることならその流れに抗いたい。例えば、全国各地の障がいを持つ人が通う就労継続支援施設。多くの施設が様々な生産活動を行っています。
そこで失われつつある日本の手仕事を継承していく。いわゆる健常者が働く効率、生産性と利潤追求が最優先される企業では、手仕事を担っていくのは無理でしょう。でももしかしたら就労継続支援施設であればそれが可能かも知れない。僕は最近それを漠然とですが考えているのです。
「しめ縄」に限らず、多くの伝統工芸、手仕事の素材は天然素材です。環境面ではサステナブルでしょう。でもそれだけではなく、モノを作る技術、手仕事の技、作る人の存在を大切に、次世代につないで行くこともサステナブルなのだと思います。
高柳 豊
エシカル、サスティナブルをテーマに活動するクリエイティブチーム、カエルデザインのクリエイティブディレクター。海外向けコンピューターシステムのシステムエンジニアを経てカルチャー教室で様々な文化教室の企画運営などを経験。その後、フリーランスになってから地域通貨の発行・運営、雑誌の出版編集、地サイダーやクラフトチョコレートなどの加工食品ブランドの立ち上げなど、商品企画、ブランディング、マーケティングなどを手掛けている。企画からデザイン、コピーライティング、写真撮影などクリエイティブ全般に携わる。
*高柳さんのこれまでのコラム記事一覧