先天性二分脊椎症という重度の身体障がいがある、かんばらけんたさん(32)はリオ・パラリンピック閉会式でもパフォーマンスをした車椅子ダンサー。2014年に結婚し、昨年10月には待望の第一子となる汐里(しおり)ちゃんが生まれた。「障がいがあっても、子育ては工夫次第で何とかなる」と言い切る。東京パラリンピックでパフォーマンスをし、娘に観てもらうことが今の目標と夢を語る。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

車椅子ダンサーのかんばらけんたさん。普段はSE(システムエンジニア)としてIT企業に勤務。2016年からダンスを始め、リオ・パラ大会の閉会式でダンサーとして選ばれた。自身が創作する車椅子ダンスで、車椅子の概念をひっくり返したいと意気込む

――ゼネラルパートナーズ社が実施した調査(※)によれば、出産や子育てに関して、障がいがある人の約7割が不安だと回答しました。かんばらさんは、そうした不安を感じたことはありましたか。

私の場合、生殖機能に影響のある障がいなので、そもそも子どもを授かることができるのかが不安でした。また、遺伝の可能性が低いとは聞いていましたが、妊娠中に胎児のエコー写真を見たときには、二分脊椎症の特徴がないかと、無意識に背骨に視線がいっていたように思います。

――奥様とは、障がいがある子どもが生まれた場合のことも事前に話し合われていたのですか。

そうですね。妻とは事前に話をしていましたし、二分脊椎症などの神経系の障がいを持った子どもが生まれる確率を低くするサプリメントを飲んでもらうなど、障がいの確率を減らす取り組みはしていました。

また、羊水検査を受けるかどうかという話もしていました。ただ、その際に決めていたのは「子どもに障がいがあっても中絶はしない」ということ。なぜなら、たとえ生まれつき障がいがあっても幸せに暮らせると、ぼく自身が分かっていたから。それに妻も、ぼくのパフォーマンス仲間であるダウン症の子どもたちと触れ合っていたので、障がいにも偏見はありませんでした。

そのため、「子どもを授かれるか」ということへの不安はありましたが、「障がいのある子どもが生まれること」については大きな不安はなかったですね。

かんばらさんは子育ての情報をSNSやブログなどで発信。二分脊椎症がある子どもを持つ親から、「希望を持つことができた」というメッセージをもらうことも多い

――かんばらさんは、子育てにはどのように取り組まれているのですか。

妻と話し合った結果、できることとできないことをはっきり分けて、できることを担当することにしました。洗濯などはぼくが担当しているのですが、結婚前から一人暮らしをしていたので、そのときの知恵が活きています。

畳んだ衣類はスケートボードに乗せて運べますし、洗濯物を干す際もハンガーにさらにハンガーをかけることで手が届くようになります。

そのほか、娘と触れ合う際にも、さまざまな工夫をしています。

たとえば、ぼくは家の中では車椅子から降りて生活しているため、子どもを抱っこして移動することができません。そこで、家の中で移動させるときには、子どもを座布団の上に乗せて引っ張って移動させています。

また、お風呂に入れるときには、お風呂のふたを使います。ふたの半分にまずは子どもを乗せ、その後、子どもと一緒に湯船につかるんです。

こんな風に、障がいがあっても、工夫次第で何でもできると思っています。

かんばらさんが考えた洗濯物の干し方(左)と運び方

――そんなかんばらさんが、子育てをする中で大変だと感じたり、不安になるようなことはないのでしょうか。

障がいとは関係なく、子どもは夜中でも数時間おきに起きて泣いたりするので、こちらもなかなか寝付けない日々が続きます。そんなときには、大変さを実感しますね。でも、それ以上に、あやすと娘が笑顔になってくれることが本当に嬉しいです。

障がいに関することで唯一気になることがあるとすれば、今後、娘が成長していったときに、お父さんが車椅子で特殊なんだと分かる日がくること。そのときには、娘も受け入れるまでしばらく悩むと思います。でも、それは当たり前のことなんだろうなと考えています。

汐里ちゃんを抱きしめるかんばらさん

――かんばらさんのお話を伺っていると、障がいに対して向き合うことの大切さを感じます。かんばらさん自身は、ご自身の障がいについて、どのように向き合われたのですか。

ぼくは、先天性の障がいだったので、幼い頃からリハビリに通っていました。医師や親から「歩けるようになる」と言われたわけではありませんでしたが、ぼくは「リハビリを続ければ歩けるようになるだろう」と一人で少し期待していました。

ですが、小学3年生のときに、親から「リハビリをしても一生歩くことはできない」と言われたんです。そのとき初めてはっきりと事実を知り、ショックで母親の前で大泣きしたことを覚えています。

その後、ようやく受け入れられるようになったのは中学生くらいになってから。幸いにして友人にも恵まれ、友人に前輪上げを教えたり、二人乗りで坂道をくだったりと車椅子をおもちゃ代わりにして遊ぶようにもなっていました。嫌なことや大変なこともありましたが、楽しく暮らせたと思います。

運動神経が優れており、幼稚園のときから逆立ちはできていたという。直近では、合格率10%程の狭き門であるストリートパフォーマンスの資格も取得した

――かんばらさんの車椅子ダンサーとしてのパフォーマンスの原点は、そんな友人との遊びにもあったのかもしれませんね。

そうかもしれませんね。ただ、本格的にダンスに興味をもったのは、ヤマハとヤマハ発動機が共同でデザインした音を奏でる電動アシスト車椅子がきっかけでした。その車椅子に乗ってパフォーマンスを行うというイベントがあり、パフォーマーを一般公募していたんです。なんとしてもその車椅子に乗りたいという想いから応募し、そこからダンサーとしての一歩が始まりました。

――今後の目標などはありますか。

今は2020年の東京パラリンピックが一つの目標になっています。そこで車椅子ダンサーとしてパフォーマンスをしたいですね。

前回のリオ・パラリンピックのときと違うのは、自分に娘ができたということ。2年後のその舞台で、娘に観てもらいたい。それが人生の大きな楽しみになっています。

娘と過ごす時間が何よりも幸せな時間と語る

(※)記事内で紹介したアンケート調査について
障がい者の就労支援などのソーシャルビジネスを展開するゼネラルパートナーズ(東京・中央)が行った「障がい者の出産・子育て」に関するアンケート調査。
調査結果からは、以下のような傾向が見られた。
[1]子どもがいない人は約7割。そのうち約半数が「子供を授かりたい」と考えている
[2]出産・子育てにおいて、約7割が「障害はハードルになる」と回答
[3]障害によるハードルへの印象は、出産・子育て前後で変わらない人が最も多い。
また、約3割は「想像していたよりもハードルは低い」と感じている
詳しくはこちら


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