重症心身障がい児や肢体不自由の子どもたちのための遊び場を運営するNPO法人が、「『遊び心』こそ『共に生きる』キーワード」と、障がいの有無に関わらず誰もが遊べる公園を、この3月にオープンしました。「遊び心は制限を取っ払い、自由に羽ばたくきっかけになる」。活動について、思いを聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「重度の障がいや医療的ケアが必要な人の生活がより楽しくなるように」

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「PLAY WORKSリノア・遊びリパークリノアおおば」(神奈川県藤沢市)の施設内の様子(写真左)。「施設の外には『みんなのあそびば リノアパーク』を併設。近隣の親子にとっても新しい公園ができました」(写真右)

重症心身障がい児や肢体不自由の子どもたちを対象にした放課後等デイサービス、児童発達支援事業「遊びリパークLino’a(以下『リノア』)」を神奈川県の4箇所で運営するNPO法人「laule’a(ラウレア)」。

「『遊び心』が僕たちの活動のキーワード。遊び心を持った関わりが、支援する側・される側という関係性を超え、人生を豊かにしてくれます」と話すのは、代表の横川敬久(よこかわ・のりひさ)さん(45)。

お話をお伺いした横川さん(写真右)

「リノア」を初めてもうすぐ8年。昨年からは、リノアを卒業後した子どもたちが通える場所として、生活介護事業「PLAY WORKS リノア」も始めました。

「リノアを長く運営する中で、リノアを卒業した親御さんたちから『これまで子どもたちが経験したことを、同じように経験し続けることができる場所が見当たらない』という声をいただきました」

「これから先も、車椅子から降りて別の場所に自由に動き回ったり、できる範囲で体を動かしたり、何か刺激のあるものに触れたり…そして誰かの役に立つ経験を、という親御さんのお話を聞いて、全部はかなえられないかもしれないけれど、彼らと一緒に自分たちにとっての理想の居場所をつくっていこうと生活介護事業をスタートしました」

「重い障がいがあっても、社会に参加できる」

「ないものは作ってしまおう!」。事業所のポストを自作しているところ

「重い障がいがあっても、ちょっとした工夫と理解があると社会参加のハードルはぐっと下がるのではないでしょうか」と横川さん。

リノアでは「重度の障がいがある児童であっても、アルバイト的な経験値を積み重ねられないものか」と、ここ2年ほどは自分たちで育てた花を押し花にして、それを作家さんにアクセサリーなどの商品に変えてもらい、売り上げを寄付してもらうかたちで売り上げを作っているといいます。

「『重度障がいがあるから仕事は難しいよね』と諦めてしまわず、たとえ一部であったとしても、誰かの役に立ったり、素敵なものを提供する経験、役割を持って何かをする経験は、僕らもそうですが、その人の自主性や生きる力にもつながるのではないでしょうか」

リノアで取り組んでいるねじり染めのための「ねじり」と「染色」。ねじった布を染料で染める作業をしているところ(写真左)、ねじり染めのために布をねじる作業をしているところ(写真右)。「ここでもお互いが補完し合いながらねじり染めを完成させていきます」

「リノアでは、通っている皆さんやスタッフが食べるお弁当を取りに行くことや、車の洗車、施設内の備品作りも、スタッフが仕事として全てやってしまうのではなく、それぞれの持っている能力を出し合いながら皆でやっています」

「一つの作業に対して、果たして100点満点でないとダメなのか、それとも70点取れたら良いのかという時に、『70点でも上出来、十分!』という仕事もいっぱいあるんです。やみくもに生産性や作業効率だけを追い求めるのではなく、『相手が求めていること(ニーズ)を考え、それを満たしていく』という方向性もあっていいのではないでしょうか」

「たとえば、ボールペンを袋詰めする仕事があったとします。もちろん、人それぞれ何が良いかは違うし、その作業が合うという方もいます。ただ、重度の障がいがあると、そもそも手先を動かすことが難しい。なのに『今日中に何個やらなきゃいけない』というノルマがあると、スタッフがそれをこなし続けなければならなくなります」

「そうすると『一体誰の、何のための活動だ?』というふうになってしまう。発注者もそんなことは望んでいなかったと仮定すると、ニーズが合致していないことにやみくもに手を出すのではなく、一人ひとりの特性を知り、得意なことやできそうなことを楽しみながら、相手のニーズにも応えられることを探していこう、というスタンスが、リノアのスタッフ間でも定着してきています」

日々を楽しむために。どんな時も、自由な「遊び心」を

「田んぼをされている地域の方と『お米の苗づくりプロジェクト』の打ち合わせ。『耳を傾ける人』『提案してくれる人』『質問をする人』『自分を知ってもらう人』と、いろんな役割がここにはあります」

「一人ひとりの特性を見ながら、やれることをやっていこう」というスタンスは、リノア内でどのようにして定着していったのでしょうか。

「定着したというより、気づいたことから手をつけていった結果そうなったのかもしれません。10人いたら10人、全員が100パーセントで参加しているわけではないかもしれませんし、『特性のある一人ひとり、全員の個性を明確に出し合いましょう』ということは僕たちも言いません」

「ただ『できることからやっていこう。まずやってみて、そこから何か広がっていってもいいじゃん』という姿勢です。一人ひとりの特性を生かしながら、本人が楽しいとかやりやすいということが見つかればもちろんそれがいいし、かといってたとえそれが見つからなかったらダメかというとそうではありません」

「お米の苗づくりプロジェクト」。皆で種をまく

「やりたいことが見つからなくても、本人が楽しそうな姿勢で参加できることがあればいい。『ああしないといけない』とか『こうしなさい』というルールはありません。現場の中の日々の発見を、大事にしてもらえたらと思っています」

「ただその時に、スタッフの皆さんには『遊び心を持とうよ』ということは伝えているかなと思います。ものごとに対する捉え方として、『遊び心』を持つことが、人生で大切な豊かさや経験を与えてくれると思っていて。子どもたちに楽しく遊びを提供するためには、その場所を運営する僕たち自身も『遊び』や『遊び心』を持っていることが大切だと考えています」

日常の一コマ。お尻につけたしっぽを取り合う「しっぽ取りゲーム」で遊んでいるところ。「この時はスタッフが夢中になりすぎて、子どもたちが周りで笑っていました」

「僕の中では遊びも仕事も、ただ呼び方が違うだけで、全部同じようなものだと捉えています。遊んでいる時は幸せな感情が湧き出てくるから、仕事をしている時も、家族といる時も、寝る時も、同じように遊ぶような感覚でいたい。遊んでいるかのように働き、遊んでいるかのように生きるためには、自由な『遊び心』が必要なんだと思うんですよね」

「目的に向かって、その過程でどう楽しめるか、どう遊べるか、その価値や感覚は『遊び心』によって生まれていく。だから僕たちは、『遊び』を前面に出しています」

「遊び心」が、一緒に楽しむ空気を生む

落ち葉もただ集めるだけでなく、ちょっと一工夫するだけでこんな素敵なアートになる

「いろんな方が事業所を訪れてくださる際に『何か必要なものはありますか』と尋ねていただくことがあるんです。その時にも『遊び心です』とお答えしています」と横川さん。

「『子どもたちの遊びのお手伝い』というと、その方の中でも『お手伝い』になってしまう。でも『遊び心』というと、その人にとっての『遊び心』を考えながら、ここに来てもらえるんですよね。障がいに対しての知識ももちろん大切ですが、『遊び心』も同じくらい大切にしてほしい。そう思っています」

「子どもたちが僕に、『ここに来る大人の人たちに、僕たちの障がいを伝えてください』と言うのであれば、僕もそのままそれを伝えます。だけど子どもたちからすると、大人の人たちは、一緒に遊んでくれる人、何か楽しいことを一緒にしてくれる人なんです」

「『誰が来てくれるの?どんな人が来てくれるの?一緒にどんなことをして遊んでくれるの?』という、ワクワクドキドキする、やっぱり『遊び心』なんですよね。もちろん障がいの特性を理解し、一人ひとりに必要なケアやサポートはしっかり把握しておく必要がありますが、そのサポートを実施する上で、『遊び心』を持つのはありなのではないでしょうか」

「一緒に遊ぶこと」が、「共に生きる」をつくっていく

「自然を感じよう」なんて言葉はいらない。なぜなら、すでに彼は自然を肌で感じようと動き出しているから

この3月には、「PLAY WORKSリノア・遊びリパークリノアおおば」(神奈川県藤沢市)内に、誰でも遊ぶことができる「みんなのあそびば リノアパーク」をオープン。ここにはどのような思いがあったのでしょうか。

「現段階での僕たちのゴールは、障がいのある人もない人も『”共に生きる”をしやすくする』こと。そのために必要なことを考えるといくつかあって、共に生きることが当たり前の感覚を養うために、ひとつは『一緒に過ごす時間を持つこと』であり『知り合う場をつくる』ことなんだと思います」

「その時に、それが楽しい時間であり空間であれば、より記憶にも残りやすいと思うんです。ただ、わざわざ交流イベントを開催すると、『特別なイベント』になってしまう。日常的に知り合えて、楽しいことを共有できる場ということを考えた時、『誰もが遊びに来られる公園』いうのは大きなメリットがあると感じました」

「障がいのある子でも遊べるインクルーシブ遊具を設置し、段差などにも配慮していますが、この場所の一番の特徴は『一緒になって遊べる』こと。障がいのある子を優先するのではなく、知らない子同士をつなげる一声があれば、きっと仲良く一緒に遊べるはずです」

「自分の翼を信じて、空に向かって羽ばたいて」

「鯉のぼりは、風に逆らうことなく、風がない時は無理に飛ぼうとしない。やるも、やらないも選択できる。そんな『自由』が心地よく感じます」

今後の目標について、横川さんに尋ねました。

「子どもたちの世界がもっともっと広がることをしたいと思っていて、いよいよオーストラリアに半分移住する流れで動いています。子どもたちが短期留学や旅行などで『海外に行ってみたい』となった時、その一歩を踏み出しやすくなるような、土台作りみたいなことができたらと思っています」

「障がいがあって、たとえば日本から車椅子で渡航するとなると、言葉の壁もある中で、現地の空港から移動するレンタカー一つとってもハードルが高くなります。
私は介護の専門職でもあるので、多少なりとも日常的なケアはできるし、移動のサポートなどもできたら、その人の世界観を広げることや『遊び(経験)』にもつなげられると思うので、そんなところでお手伝いができたらいいのかなと思っています」

「『やってみてもいいんだよ』『やってみたら意外とできるよ』ということを知ってほしい。時に障がいのある方は、自分で制限を作って『できない』と思ってしまうこともあるかもしれません。だけど、実は飛びたてる部分もたくさんあります』

「障がいがあることで本当に消せない難しさが、いくつかはあるかもしれない。だけど人によっては、もっと飛びたてるかもしれない。不安や制約を吹き飛ばすほどの『これだ!』『やってみたい!』という『遊び心』を大切にして、自分の可能性、背中の翼を信じて、広い空に向かって羽ばたいてほしいと思います」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「laule’a」と5/9〜5/15の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動資金として活用されます。

「JAMMIN×laule’a」1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、スケボーに乗る動物たちを描きました。足取りは軽やか、背中の翼で、陸も空も時空も超えて、自由にかけめぐる姿は、「リミットなんてない、あなたはあなたの思い描いた生きたい世界を、周りの人たちとも協力しながら自由に生きられるんだ」というメッセージを表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

障がいの有無にかかわらず、共に、楽しみながら生きる生活や人生が当たり前になる感覚を、「遊び心」で養う〜NPO法人laule’a(ラウレア)

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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