今から30年以上前、佐賀で空手道場を開いていた一人の男性が、人の幸せを自分の幸せと感じられる「地球市民」を増やしたいと、国際協力に取り組む団体を立ち上げました。「地球市民の会」は、途上国で教育や農業、村のインフラ開発や環境保全を行ってきました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「地球市民」を増やすためにアジア各地で活動

コーヒーの実(コーヒーチェリー)を収穫する現地の住民

佐賀を拠点に活動するNPO法人「地球市民の会」。これまでタイやスリランカ、ミャンマーなどアジアを中心に、教育や農業、村のインフラ開発や環境保全活動を行ってきました。近年は海外での経験を生かし、日本国内でも中山間地の地域づくりなども行っています。

「人は一人で存在することはできず、互いに助け合って生きています」と話すのは、事務局次長の藤瀬伸恵(ふじせ・のぶえ)さん(36)。「人とのつながりが希薄になりつつある昨今ですが、活動には人の幸せを自分の幸せとして喜んだり願ったりできる、そんな『地球市民』を増やしていきたいという思いもある」といいます。近年はミャンマーでの活動に力を入れており、農業・教育・環境保全・地域開発・国際交流を軸に、現地の人たちが自分たちで生きていくことができる持続可能な支援に取り組んでいます。

諫山さん(左写真・左端)、「ミャンマーチン州で執り行われた当会の農業研修センターの完成を祝う式典にて」。藤瀬さん(写真右・左端)、「ミャンマーシャン州で小学校を建設したリス族の村で」

「ミャンマー国内に農業研修センターが三つあり、農業技術を伝えるだけでなく副収入の獲得手段として食品の加工や裁縫、農機具などの機械を自分たちで修理できるような研修なども行っています」と話すのは、ミャンマー事業担当の諫山由紀子(いさやま・ゆきこ)さん(28)。自立のために必要な小規模な水力発電や道路建設、給水支援や、団体立ち上げ当初から力を入れている教育の分野では、学校や保育園建設以外にも、経済的に貧しく進学が困難な高校生を1学年につき36名ずつ選出し、奨学金支援などをしてきました。

「一方的な支援ではなく、現地の人たちと話し合いを重ねることを大切に

団体創設者の古賀武夫(こが・たけお)さん(1950〜2008、享年57)は、佐賀で1980年から空手道場を開いていました。

「フランスとカナダへの留学経験があった彼は、語学が堪能で、佐賀の田舎では当時、かなり珍しい存在だったようです。海外の人と関わるなかで、世界的な視野で物事を捉える『地球市民』を増やしていきたいと1983年、前身の『佐賀フランス研究会』から発展させる形で団体を設立しました」(諫山さん)

写真左が団体創設者の古賀さん。2000年、ミャンマーを訪問した際の一枚。古賀さんはどこへ行く時も作務衣姿だったという

生前、古賀さんは自身の名刺に、昭和の名僧と呼ばれた曹洞宗の僧、澤木興道(さわき・こうどう)の「成人に己なし、己ならざるところなし。天地と我は同根、万物と我は一体」という言葉を刻んでいました。

「古賀には、他人の幸せを自分の幸せと願う人でありたい、そんな仲間を増やしていきたいという思いがありました。タイで学校建設、スリランカで学生への奨学金支援などをしてきましたが、2003年から縁あってミャンマーでの活動をスタートしました。その際、現地の少数民族の長の方から『私たちの民族に食べ物を与えないで欲しい。食べ物を与えられれば、私たちはただ口を開けて待っているだけになってしまう。そうではなくて、食べ物の作り方を教えてほしい』と言われ、古賀は非常に感銘を受けたと聞いています」

「ここでも教育支援をしようとしたのですが、食べることができなければ、子どもを学校にやることもできない。また、子どもが労働力として働いている家庭も多く、『まずは食べられるように』と農業支援に携わるようになりました。現地では、現地で指導力のある団体とカウンターパート(パートナー)を組んでいます。一方的な支援ではなく、現地の人たちと話し合いを重ね、こちらの意図も相手の意図も捉えた上での活動を大切にしています」

循環型共生社会を目指し、コーヒー事業に取り組む

コーヒー栽培を行っているライレンピー地域は、急峻な山々に囲まれている

ミャンマー・シャン州で17年にわたってさまざまな活動を続けてきた地球市民の会。「(自分が生まれ育った)地域コミュニティの暮らしをよりよくしたい」という熱意を持ったミャンマー人との出会いをきっかけに、2018年よりミャンマーの中でも最も開発が遅れているというチン州での活動を開始しました。そこで現在、環境保全のためのコーヒー栽培に取り組んでいるといいます。この地域にはどのような課題があるのでしょうか。諫山さんに尋ねました。

「チン州は急峻な山々に囲まれた立地の厳しい地域で、インフラが整っておらず物流も困難、ミャンマーの中でも最貧地域とされています。この地域では伝統的に、険しい山の斜面を利用した『焼畑(やきはた)農業』が大きな収入源になってきましたが、過度な焼畑による問題が深刻化しています。焼畑農業は森や草地を焼き、その焼け跡を畑として作物を育てる農法ですが、人口増加に伴う食糧需要の増加によって過度な焼畑をせざるを得なくなり、地力が低下しています」

「焼畑農業」によって焼かれた畑

「通常は畑を焼いた後、その土地を7年ほど休ませてからまた焼くというサイクルですが、食料需要の増加のため、7年必要な休耕時間を3年に縮め、土地を焼いて農業を行いました。その結果、地力の低下によって農作物の収穫量が激減しています」

「地力が戻らないことには、地域の人たちの収入にも大きな影響が出ます。また、移動式焼畑農業による自然環境への影響も深刻化しています。森林の減少により生態系が崩れたり、土砂災害も頻発しています。この悪循環を食い止めるためにコーヒー栽培に取り組んでいます」

コーヒー栽培が豊かな土地を取り戻

背の高い木々でできた日陰の中に、一つひとつコーヒーの苗を植える

コーヒー栽培に、これらの問題解決の糸口があるのでしょうか。

「コーヒーは換金作物(お金に換えられる作物)のため、地域の人の現金収入につながります。また、地域にもともとある資源を利用した『循環型農法』を用いることにより、自然のサイクルを乱すことなく栽培ができます。そして何より、コーヒー栽培は環境保全のためにとても有効なのです。痩せ細ったはげ山にただ木を植えても、現地の人たちは伐採してしまいますが、コーヒーがお金になるとわかれば、伐採することありません」

コーヒーの専門家から、豆の見分け方などの研修を受ける現地の人たち。「商品化して、地域の収入につなげることができれば」(諫山さん)

「『日陰栽培』といって、コーヒーの木は、他の木々が生茂る場所でその陰を利用して育ちます。つまり、コーヒーの木を育てるためにはそれよりも高く育つ木、陰を作る役割を果たしてくれる木も一緒に植える、もしくは既存の森の木を切らず、その中で栽培する必要があるのです。コーヒー栽培が他の木も含めた植林の理由になるし、それによって豊かな環境を取り戻すことにもつながっていくのです」

「入り口としては環境保全ですが、同時に、現地の人たちの生活向上にもつなげられたらと思っています。近年、気候変動の影響もあって『コーヒーベルト』と呼ばれるコーヒーが育つ地帯が北上していることもあり、ミャンマーでのコーヒー栽培が少しずつ注目を浴びています。商品化して販路を作ることができれば、現地の人たちの収入にもつなげていくことができると期待しています」

「人の思い、喜び、笑顔も循環する」

コーヒーティスティングの様子。「生産者もコーヒーの味の違いなど知識を深めることで、より質の良いコーヒーの生産につなげていくことができます」(諫山さん)

活動の中で、二人が印象に残っている出来事を聞いてみました。インド国境から40kmほどにある「ライレンピー」という地域での出来事が印象に残っている、と諫山さん。

「そこは電気も水道も通っておらず、妊婦の流産率が非常に高い地域でした。水汲みは女性の仕事で、山の水源から引いた地域内にたった12箇所しかない水汲み場と家とを、20Lタンクを持てるだけ持って往復しなければなりません。さらに配水設備の不良もあり、十分な水が水栓まで届いていませんでした。水汲み場の水栓から水が出るのは一日たった2時間だけ。一日に使える水が限られているために衛生上の問題もあり、感染症などで命を落とすリスクもある。流産率の高さには、そんな背景があったのです」

民族の伝統布を抱っこ紐に乳児を抱えて談笑する村の子ども。「幼い子が、更に幼い子をあやすこの姿は決して『可哀そう』な景色ではなく、地域全体で子育てをする『コミュニティとしての生き方』の表れなのだと感じました」(諫山さん)

「私たちはこの地域で、水源から各世帯へ給水する丈夫な給水設備の整備を行いました。それによって女性たちがそれまで労力と時間を費やしてきた水汲みから解放され、『これ一つで人生が変わった』と大変喜んでくださったのです。私が滞在している間、毎日代わる代わるたくさんお方がお礼を言いに来てくださいました」

「そして貧しい中にあって、女性たちが用意したという畑で収穫した中でも一番大きい農作物を棚がいっぱいになるほど持ってきてくれて、さらに町の女性たちの主導で、『最上の感謝の印』とされる『ナナウ』と呼ばれる半野生牛を1頭提供してくれました。涙が出ました」

「コーヒー1杯は英語で”A Cup of Coffee”と言いますが、『コーヒー1杯は”A Cup of Peace”だ』と話すコーヒー生産者がいます。コーヒー1杯を通して、人と人の繋がりや多くの笑顔を生み、平和を紡ぐ活動になっていったらと願っています」(諫山さん)

「日本から支援者の方を現地にお連れすることがあります。その際、現地の人も支援者さんも、どちらもみんな笑顔で『ありがとう』と言ってくれる」と藤瀬さん。

「私たちは『循環型共生社会』を目指して活動しています。それは環境だけではなく、人の思い、喜び、笑顔も循環する。『支援する・される』という垣根を超えて互いに笑顔の姿を見たとき、とてもやりがいを感じます。互いに与え合い、学び合うという心で、今後も活動を続けていけたらと思います」

ミャンマーでの活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「地球市民の会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×地球市民の会」コラボアイテムを買うごとに700円が団体へとチャリティーされ、チン州でコーヒー事業を進めるにあたり、コーヒーの苗木を購入し、現地で植えるために必要な資金として使われます。

「近年SDGsが話題になり、世界を変えていくためにみんなそれぞれ一人ひとりが努力しないといけないという意識が浸透しつつあるように思います。良い流れだな、素敵だなと思っていて、コーヒーに関しても、遠いミャンマーという国のこと、村の人たちの思いや地域の状況に心を寄せて自分ごととして考え、行動してくださったらうれしいです」

「JAMMIN×地球市民の会」10/26~11/1の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ネイビー(カラーは全10色)、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、コーヒーの枝、その周りにミャンマー・チン州のさまざまな動物やコーヒーにまつわる道具が描かれています。私たち一人ひとりの行動が、実は遠く離れた人たちの生活にもつながっているということ、コーヒーを通じて思いがつながり、ストーリーが紡がれる様子を表現しました。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月26日~11月1日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

ミャンマー奥地の自然環境と現地の人たちの生活を守り、資源と笑顔を循環させるコーヒー栽培への挑戦〜NPO法人地球市民の会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら