実父母との法的な親子関係を終了させ、子どもが戸籍上も養親と親子になる「特別養子縁組」。年間の成立数は2019年で711件です。「すべての社会的養護下の子どもに、温かな家庭を」と、専門知識を持つスタッフが思い悩む女性を支援する傍ら、特別養子縁組とその啓発のために活動してきた団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

年間350件近い妊娠・養育相談、「何が最善かを、共に考える」

「ベアホープの医療職スタッフと一緒に、養親さんのおうちへ向かう際の一枚です」

東京都東久留米市を拠点に活動する一般社団法人「ベアホープ」。困難な状況で出産を迎えざるを得ない女性を支援し、特別養子縁組をサポートする活動をしています。

「すべての子どもが、愛ある家庭で育つことができる社会を実現するために活動しています」と話すのは、団体理事の橋田(はしだ)じゅんさん。2013年に活動をスタートし、これまでに縁組した数は210ほどになるといいます。

「妊娠・養育相談は全国から受け付けており、年間350件近いご相談があります」と話すのは、スタッフの藤本侑佳(ふじもと・ゆうか)さん。

「実際に相談者さんのもとへ伺って、お子さんにとって、そして相談者ご本人にとって何が最善かを共に考え、目の前の道をひとつひとつ作るお手伝いをしてきました」と話します。

お腹に宿る命が「愛されている」と感じられる支援、実親である女性が「自己決定」できる支援を

「ベアホープを通して親子になったご家族から送られてきた写真です。お子さんの成長に喜びを感じる瞬間です」

特別養子縁組は、どのような流れで進められるのでしょうか。

「実親さんから、『育てることが難しい』『産んでも育てられない』という問い合わせがメールや電話であります。あるいは医療機関や保健センター、児童相談所から話がくるケースもあります」

「背景はそれぞれですし、中には予期せぬ妊娠が自己責任だといわれることもありますが、実際に話を聞くと、DVや性暴力・性虐待、家庭崩壊や機能不全家族、貧困、ホームレスや性風俗…、女性一人だけの責任だという一言では解決できない、さまざまな社会問題が複雑に絡み合っています」

「お腹に宿る新しい命が、愛された・愛されていると感じながら育つことができるようにというのはもちろん、予期せぬ妊娠を『自己責任』としてではなく、実親である女性が『自己決定』できることを大切にしたい。『お腹の中の子の未来を、あなたは決めることができる。あなたはこの子を大事にできたんだ」と、本人が自信を持てるような支援をしたいと考えています』

「妊娠葛藤・養育困難相談については、一件一件、ケースワーカーが対応し、話を聞きながら『何が最善なのか』を考えて動きます。べアホープのケースワーカーは、公認心理師、社会福祉士、助産師、保健師、栄養士、行政書士…、皆、国家資格を持ったプロのスタッフです」

「新しい家族に迎えられる日、子どもは飛行機や新幹線に乗り、人生初めての長旅を経験します。ミルクを飲んで、すやすや眠って、みんなお利口さんに移動します」

「『育てられないから養子に出したい』という希望であったとしても、果たしてそれが最善の方法なのか。実親さんがこれからどうしていきたくて、お子さんと実親さんにとって何がベストなのかを話し合い、いろんな社会資源、さまざまな選択肢がある中で、その一つとして特別養子縁組があるという考えです」

「女性が『がんばって育てていきます』ということであれば、そこをバックアップできる専門機関におつなぎします。これから出産される実親さんが『育てることはできない』と特別養子縁組をご希望される場合であっても、出産後72時間が経ってから、最終的な同意を得た上で、お子さんをお連れするかたちになります」

養子縁組が一般的に浸透していない中で、養親へのサポートも重要

ベアホープが開催する研修の様子。「東京都内の会場にて実施する研修には、全国から養親希望者が集まります」

では、養親はどのように決定されるのでしょうか。

「審査を経て、登録してくださった方が対象です。事前にしっかり研修を受けていただき、社会的養護下にある子どもたちのことや、子どもに障がいや病気があっても受け入れてくださいますかというところも理解していただいた上で、登録していただきます。養親さんにお子さんの受け入れのお話をするのは、お子さんをお連れする数日前になることが多いです」

「出産前の実親さんの場合、赤ちゃんがまだお腹の中にいる時に養親さんを決定します。養親さんには、ケースワーカーが把握している、養育していくために必要な胎児の情報、実親さんの情報をお伝えしていきます」

研修の一つ、乳児・小児に特化した救命/応急手当を受講する養親希望者

「養子縁組をした後のご家族のフォローアップも、私たちの大切な仕事です。ただでさえ子育ては大変ですが、まだまだ養子縁組が一般的ではない中、養親さんへのカウンセリングやフォロー、アドバイスも非常に重要だと考えています」

「養子や養子縁組はネガティブなことでも、恥じることでも全くないと私たちはお伝えしていますが、『他の子と同じようにしてあげられない、自分たちはできていない』という壁に当たり、気持ちとしてつまずいてしまうケースがあることも事実です」

「一人ひとりが、愛されている存在なのだと実感できるために」

養親の元へと向かう新幹線での一枚。たくさんの愛情に包まれた生活がありますように

「子ども、実親、養親、この3者が3者ともバランスよく幸せなトライアングルが築かれていることが大切」と二人。

「子どもはやはり、どれだけ幸せでどれだけ養親さんのことが好きでも、どこかでは『自分はどんな人から生まれたんだろう』という思いを持ちます。こういった時に、思いや情報を丁寧に紡いでいかないと、なかなか『幸せである』という実感に辿りつくことが難しくなります」

「『養子縁組=実の親に育ててもらえなかったかわいそうな子が、幸せな家庭にいく』という意識もまだまだあります。しかしこれまで養子縁組の現場に携わってきた中で、多くのケースにおいて、実親さんは愛をもって、我が子を養子縁組に託しているということを感じてきました」

「お腹の中にいる子どもを育てられないとわかっていたある一人の女性は、生まれて間もない子どもを養親さんに託す際、涙されていました。子どもを愛していて、その子の幸せを想う気持ちは実母さんも養親さんも同じなのではないでしょうか」

「障がいや病気を理由に断られたら、子どもは2度、親を失うことになる」

ベアファミリーピクニックの様子。「ベアホープには養親さんの自助グループがあり、この会も企画から運営まで全て養親さんが行ってくれています。これまでベアホープでは、病児・障がい児を養育する親御さんへ約2,500万円の支援をしてきました」

「私たちの団体の大きな特徴は、障がいや病気の有無にかかわらず養子縁組を支援しているという点です」と二人。

「養子縁組は『子どもの福祉のための制度』であって、親となる大人が、性別や病気、障がいの有無を問うことはできません。どの子の命も同じ重みがあり、同じように尊重されるべきです。しかし実際は、障がいや病気のある子どもの場合、なかなか親が見つからないという事実があります」

「実親が反社会的勢力である、精神的な病がある、子ども自体の年齢が高いなどという理由でも養親を見つけるのが難しいことがあり、この点は悩ましいところです」

コロナ禍にあっても活動は続く。「退院したお子さんを病院までお迎えに行き、養親さんのご自宅へ移動しているところです」

「養子の受け入れを希望される方から、『どうしても健康な子がいい』というご希望をいただくこともあります。『障がいのある子どもを養育する自信がない』という養親希望者さんのお気持ちは理解しつつも、私たちは特別養子縁組について『大人が子どもを選ぶためではなく、家庭で育つことが難しいお子さんに家庭を提供するための制度であることを理解した上でお申し込みしてください』と、はっきりお伝えしています」

「その理由は、子どものお家が決まった後に、病気や障がいがわかったことを理由に『ちょっと養育は無理です』となってしまいかねないから。せっかく安心・安全に暮らせるはずのお家に行っても、その養親さんに『障がいがわかったから養育は無理』といわれたら、子どもは実親と養親の2度、親を失うことになるのです」

「人や家族は十人十色。養子縁組やそんな家族がいることを知って」

インタビューさせていただいた、ベアホープの橋田さん(左)と藤本さん(右)

「団体に関わるようになって6年になりますが、自分が考えている『普通』ってなんだろう、ということを改めて感じています」と橋田さん。

「人は十人十色であって、それぞれ違うように生まれ、つくられているという理解が本当に深まりました。一人ひとりのがんばりの中に養子縁組という選択肢があって、そこでつながって人生を垣間見せていただく点では、私自身の勉強にもなっています」

「ここに来て、命の大切さを強く実感しています」と藤本さん。

「若年で出産を経験した方が、新しく人生を切り拓いているという明るい知らせを聞くと、嬉しい気持ちになります。子どもも養親さんのところで元気にしているし、子どもを産んだ彼女たちもまた、子どもが元気に成長していることを励みにしながら、過去を否定しすぎず、前に進んでいる。こういう人生もあるんだな、これがベストだったんだな、と日々感じています」

「この制度を知らない人もまだまだ多いし、言葉は知っていても中身はよく知らないという方も少なくありません。養子という言葉が出ると場の空気が少し変わるというか、まだまだ『触れちゃいけない』『聞いてはいけないことを聞いてしまった』というような空気感になってしまう、といったことを養親さんからも伺います」

「養子や養親さんがいるということを知ってもらえることが、実親さんにとっても温かい社会につながっていくのではないでしょうか」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ベアホープ」と5/2〜5/8の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動資金として活用されます。

「JAMMIN×ベアホープ」1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもパーカー、バッグなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、ブドウ(花言葉は「あなたを守りたい」)、レモン(「真実の愛」)、キンセンカ(「慈愛」)、アスター(「互いに思う」)を、一本の枝から派生するように描きました。一本のリボンを纏わせ、人と思いをつなぎ、子どもたちに温かい家庭と愛情を届ける団体の活動を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「すべての命が、大切にされるべき存在」。予期せぬ妊娠や出産に悩む女性を支え、特別養子縁組を通じ、子どもに温かな家庭を〜一般社団法人ベアホープ

山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。

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