「自分を大切にして、自分らしく生きていくために、まずは体力を回復していこう」。からだと心のセルフケアを通じ、シングルマザーをエンパワメントしたいと活動するNPOがあります。「家族も生き方も多様化している今、シングルマザーが偏見ではなく、祝福して受け入れられる社会になれば」。活動への思いを聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「シングルマザーが互いに励まし合ったり助け合ったりできる場になれば」

「シングルマザーズシスターフッド」が実施するセルフケア講座は、オンラインで30分。「忙しいシングルマザーが参加しやすいように工夫しています」

シングルマザーが自分らしく、誇りを持って生きられる社会のために活動するNPO法人「シングルマザーズシスターフッド」。団体を立ち上げた吉岡(よしおか)マコさん(49)は、産後ケアのNPO法人「マドレボニータ」を立ち上げ、22年に渡り、産後女性のセルフケアの普及と啓発に取り組んできました。

コロナ禍において、「マドレボニータ」でシングルマザー向けに開発したセルフケア講座を開催したところ、大きな反響があり、「自分を大切にするという感覚が、ひとり親であることが理由で低下している。シングルマザーのからだと心に特化した支援を行う団体が必要だと感じた」と吉岡さん。マドレボニータを退き、2020年に新たに「シングルマザーズシスターフッド」を立ち上げました。

「団体名にある『シスターフッド』は、『女性同士の連帯』という意味。シングルマザーが集まって、互いに励まし合ったり助け合ったりできる場になればという思いでこの名前をつけました」と話します。

シングルマザーズシスターフッドでは、シングルマザーが心身ともに健康に過ごせるようにと、オンラインのセルフケア講座を定期開催しています。

お話をお伺いした吉岡さん

「ひとり親の女性、あるいは離婚の調停/裁判中の方、これからシングルになる方、ひとりで子育てを担う女性はどなたもウェルカムで、無料で参加できます。火曜日と木曜日のランチタイムと、平日の参加が難しい方のために、土曜日の朝7時からのレッスンがあります。定員は10名。オンライン開催なので、全国各地からの参加があります」

簡単なストレッチ、深呼吸や瞑想も取り入れた30分のセルフケア講座。

「ストレッチで全身を丁寧に動かすので、血のめぐりがよくなって気持ちよく感じられることはもちろん、講座の最後に、数分だけですが、参加者同士が言葉を交わす時間も大切にしています」

「『からだがポカポカしています』などとそれぞれに感想を語り合うのですが、自分の感覚をじっくり感じて、それを言語化できることだけでなく、それを誰かと分かち合えることにも、大きな意味があると感じています。この場で明るくなって、残りの1日をポジティブに過ごしてもらえたらと思っています」

社会的な孤立、偏見…シングルマザーが抱える苦悩の背景にあるもの

生まれて間もない息子を抱く吉岡さん(写真左)と、現在の息子さんと。「息子は社会人となり家を出ました。今では、仲のいい友達のような関係です」

産後ケアのNPO「マドレボニータ」で活動していた頃、シングルマザーのからだや心に特化して支援している団体がないことに気づいたという吉岡さん。

「マドレボニータでシングルマザーを対象のセルフケア講座を開催した際、参加したシングルマザーたちから『セルフケアなんて考えたこともなかった』『自分には贅沢で、関係ないと思っていた』という声を、非常にたくさんいただきました」

「『自分のことは後回しにして、子どもに尽くさなければいけない』と思い込んでいるシングルマザーの思考の傾向が見えてきて、『自分を大切にする』という感覚が、ひとり親であることが理由で低下していると感じたんです」

「一人で子どもを育てるシングルマザーの多くが、子育てと仕事を両立しなければならず、さらに社会的に孤立している。日々の生活の中では、自分を見つめ直したり、自己肯定感を取り戻すきっかけがなかなか得づらい状況があります」と吉岡さん。

さらに、シングルマザーに対する偏見が未だあると指摘します。

「一つは、シングルマザーだと伝えると『気の毒だね』とか『変なこと聞いてしまってすみません』のような、腫れ物に触るような扱いを受けること。もう一つは『離婚したその人に問題がある』『非婚で子どもを産むなんて』といった批判的な偏見です」

セルフケア講座の受講者の声

「シングルマザーになる経緯はそれぞれですが、中には深刻なDV(家庭内暴力)から逃れるためであることもあります。パートナーから身体的・精神的な暴力を受け、やっとの思いで逃れたのに、『離婚したあなたが悪い』と言われたらどうでしょうか」

「いずれにしても、日本では『バツ1』とか『バツ2』という言葉に象徴されるように、シングルマザーであるということが失敗とか、ネガティブなものとして捉えられることが多い。離婚が『自分らしい新たな人生を歩むために、パートナーシップを解消したんだ。勇気のある選択をしたんだ』という前向きなものとして捉えられていません」

「最近はシングルマザーがメディアで取り上げられることが増えましたが、『子どもの貧困』という文脈のうえで語られることが多い。でも、シングルマザーが抱える問題は貧困だけではありません。社会からの孤立や精神的な傷つきなど、他にもさまざまな課題があります。それが『貧困』だけに集約されてしまう状況には違和感があります」

「今は、家族のあり方も多様化しています。たとえばLGBTQのカップルで、パパふたり、ママふたりで子育てしている、養親で子どもと血はつながっていない…、いろんなかたちがあるし、その中の一つとしてひとり親というあり方もある。そんな捉え方が広がっていけばと思っています」

仲間の中で自分らしさを磨き、取り戻し、発揮する「グループリフレクション」

全国の支援団体が加入している「シングルマザーサポート団体全国協議会」の仲間と。「ひとり親の背景はさまざま。ひとくくりにはできない豊かな多様性があります」

「母親であっても、同時に一人の女性であることには変わりないのに、『母親になったんだから、自分のことは後回し』と、つらいことやしんどいことも耐えて我慢して、自分の感覚を麻痺させて、どんどん自分を大切にしなくなっていく。産後、多くの女性が陥るこの状況に対する違和感は、マドレボニータで活動していた時から感じていたことでした」と吉岡さん。

「ただ、シングルマザーの場合に一つ大きく異なるのは、産後だけでなく子どもが大きくなってからも、子育てをしながら家計を支え、『自分のことは後回し』という状況が長く続くこと」と指摘します。

「また、パートナーからの暴力などで、トラウマや人間不信に苦しんでいたり、自己肯定感が著しく低下していたりすることがあります。『自分を大切にして、自分らしく生きていくために、まずは体力から回復させていこう』という基本のコンセプトは、マドレボニータで活動していた時から全く変わっていません」

「身体感覚を研ぎ澄ませていないと、自分が本当に感じていることを感じ取り、言葉にして表現することは難しい。自分を大切にして、心身の健康があってこそ、社会とつながり、自己を表現することができるのではないでしょうか」

「皆、一人ひとりに力がある。逆境に直面したことでたまたま力が発揮できていない時に、再び自分の力を発揮して、立ち上がり、前に進んでいけるようにサポートするのが、私たちの活動です」

シングルマザーズシスターフッドでは、セルフケア講座の次のステップとして、「グループリフレクション」というプログラムを年に数回開催しています。

「2週間に1度、オンラインで集まり、小さなグループの中で、自分の振り返りを仲間と分かち合うという全5回のプログラムです。自分を深く掘り下げ、気づいたり感じたりしたことを他の参加者と分かち合ってフィードバックをもらう。続けることで自分らしさが磨かれ、自分を取り戻し、より力を発揮できるようになります」

「仲間からの質問や称賛、あるいは他の仲間のがんばりに気づきや刺激をもらいながら、意志を持って前に進み、自己肯定感を高めていくプログラム。仲間の存在があってこそ、実現できるものです」

「このプログラムには、過去の参加者がメンターとして一緒に参加します。メンターも皆、最初はセルフケア講座を受講し、そこからグループリフレクションに参加し、『次は誰かのために』と一つひとつステップを登ってきたシングルマザーたち。支援される側にとどまらず、次は支援する側として担い手になり、力を存分に発揮してくれています」

経験を、ポジティブなエネルギーに変えて

「シングルマザーズシスターフッドの活動を応援してくださっている、東北大学の岡田彩先生の研究室で。岡田彩先生、ナイジェリアからの留学生でシングルマザーズシスターフッドの活動を調査研究してくれているマーガレットさんと」

さらに、年に2回、シングルマザーが自分の体験をエッセイにして、ファンドレイジングを行う啓発キャンペーンも行っています。

「毎年、母の日の5月と寄付月間の12月に実施していて、今回が4回目。今後も続けて行く予定です。シングルマザーとしての自分たちの経験が、決してネガティブなストーリーとしてではなく、ポジティブなものとして受け入れられ、それによって寄付が集まることは、社会への信頼を取り戻すことや、自己肯定感を高めることにもつながります」

「そしてさらに『自分も過去に寄付の恩恵を受けたから、今度は私も寄付集めという形で、いま困っている人を支援したい』というサイクルを生みます」

「セルフケアで、まずは『今が良くなる』。次に主体的な行動で『未来が良くなる』。そして何らかの貢献のアクションで『社会が良くなる』。助けられるだけの存在ではなく、力を取り戻した方が、その力を使って貢献してくれています。このサイクルをぐるぐると循環させながら、輪がもっともっと広がっていけばと思っています」

「『家族の多様性』『生き方の多様性』を祝福できる社会になれば。子どもがいれば、どんな家庭も、ひとり親家庭になる可能性はあります。あるいは自分の家族や子ども、友人、大切な人がひとり親になる可能性だってあります」

「本当は誰にとっても、他人事ではないんですよね。ひとり親への偏見がなくなって、多様性が祝福される世の中になるといいなと思っています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は12/19〜12/25の1週間限定で「シングルマザーズシスターフッド」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、シングルマザー向けのセルフケア講座を継続して開催し、より多くのシングルマザーに届けるための資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、“Turn lemon into the lemonade”、「人生がレモンを与えたら、それをレモネードにしてしまおう」というメッセージと、輪切りのレモンをタイヤに前に進むポジティブなイラスト。団体の思いを表現しました。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

セルフケアで自己肯定感を高め、多様性を祝福できる社会へ〜NPO法人シングルマザーズシスターフッド

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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