18年前、全国に先駆けて宮崎市に作られた「ホームホスピス」。「がんや認知症などの病気になっても、障がいを持っても、最期まで自分らしく、安心して死ぬことができる場所を」。民家の温かい雰囲気を残した建物で24時間、専門のスタッフが一人ひとりの「生活」を支えます。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「0歳から100歳まで、誰も取りこぼさず、自分らしく生きることを支えたい」

仲良くシャボン玉に興じる、ホームホスピス「かあさんの家」の住人

今から18年前、2004年に宮崎で全国初となるホームホスピス「かあさんの家」をスタートした認定NPO法人「ホームホスピス宮崎」。

「当時、病院にいてもこれ以上治療ができないよという方に対して、長期入院ではなく自宅へ戻っての在宅医療が推進され始めていました」と話すのは、「ホームホスピス宮崎」理事長の市原美穂(いちはら・みほ)さん(75)。

「とはいえ自宅に戻っても、医療的な措置が必要である場合にご家族の負担が大きい、あるいはご家族がおらず介護してくれる方がいない、施設に入居したくても、重い病気があると受け入れられないといった問題が出てきました」

「行き場がない患者さんがいる」という医師からの相談もあり、認知症が進行した人や末期のがん患者、難病の人などが自分らしく生き、最期を迎えられる場所として、民家を活用し、5〜6人を限度に家庭的な雰囲気で24時間介護スタッフがケアするホームホスピス「かあさんの家」を立ち上げた宮崎さん。「かあさんの家」は現在、宮崎市内に3箇所あります。

お話をお伺いした市原さん(写真右)、黒岩さん(写真左)

さらに7年前、2015年からは訪問看護事業もスタート。「かあさんの家」の住人だけでなく、医療的ケア児や重症心身障害児をはじめとする障がいのある人とその家族のサポートもスタートしました。

「昨年の10月に『HALEたちばな』という施設をオープンし、日中一時支援やショートステイ、訪問看護も、今はここを拠点に活動しています」と話すのは、理事であり事務局長の黒岩雄二(くろいわ・ゆうじ)さん(58)。「0歳から100歳まで、誰も取りこぼさず、社会的に孤立している方たちが自分らしく生きることを支える団体でありたい」と話します。

病気や障がい、年齢や介護度に関係なく、
その人の生活を丸ごと支える

コロナ前、「かあさんの家」での団らんの様子。温かく穏やかな空気が流れる

そもそも、「ホスピス」とは何であるのか。お二人に尋ねました。

「ホスピス自体は、生活を支え、どんな病気や状態であっても、その人がその人らしく暮らせる温かいもてなしの心、その場所やサービスを指します。しかし現在日本で『ホスピス』と言った時に、多くの方がイメージされるのは医療的なホスピスだと思います」と黒岩さん。

「『緩和ケア病棟』などとも言いますが、がんなどの痛みをコントロールし、安らげるような場所がホスピスとして広く認知されていると思います。しかし緩和ケア病棟を利用できるのはがんとエイズの患者さん、さらに余命も短い方に限られています。一方でホームホスピスは、病気や障がい、年齢や介護度も関係なく、一人では生活することが難しい方の生活を、丸ごと支えます」

「食べることは、人が人として生きる希望」。できるだけ最期まで、口から食べる幸せを支える

「ホームホスピスは、『その人らしい暮らし』を支えることを前提としています。なので、ケアする側の作業効率にあわせてご飯を食べる時間や就寝の時間が決められているわけではないし、集団行動をとるわけでもありません。一人ひとりの個別ケアを大切にしていて、やりたいことをやってもらうことが特徴です」

入居の際、家族がいる場合は家族とも入居者の生活についてあらかじめ情報共有をして、「できるだけ本人のそれまでの生活スタイルを尊重することを大切にしている」と黒岩さん。自宅ではないけれど自宅のように過ごせるように、環境にも配慮しているといいます。

「日当たりが良いこと、窓から四季や風を感じられること…、いくつかの項目を、ホームホスピスの基準として設けています。住人同士が家族のように、居間で皆で集うような時間も大事にしています。コロナになってなかなか集うということは難しくなりましたが、順番に日向ぼっこをしていただいたりして、部屋にこもりきりなることはありません」

現在の日本の制度や施設では、なかなか「居心地の良さ」に到達できない

最初のホームホスピス「かあさんの家 曽師」外観。「地域に馴染んだ民家を、その家が持つ物語と一緒にそのまま使っています」

「食事の介助をする、おむつを替える、排泄を支えるといったことは、ケアのほんのひとつのファクターに過ぎません」と市原さん。

「そうではなく、『生活を支える』という視点でいえば、その方がどんな空間に身を置いているのか、周りの人がどんな声がけをするのか、家族は時々会いに来てくれるのか…、環境が果たす役割はすごく大きい。その人自身の『居心地の良さ』につながっていくと感じています」

「しかし残念ながら、日本の制度や施設では、なかなか『居心地の良さ』にまで到達することができません。というのは、施設は廊下の幅や部屋の大きさ、洗面所の配置などもすべて法律で定められていて、それにあわせて作らざるを得ないからです」

「かあさんの家」の玄関。「住人の方々が大事にしていた写真を、その方の思い出と共に飾っています」

「そうすると、どこも同じような建物になってしまう。暮らし慣れた自宅とは全く異なる環境になってしまうわけです。在宅でのケアのような環境を求めた時に、制度にのっとった施設では、ぴったりとイメージに合うものがありませんでした。だから民家なのです」

「特別養護老人ホームは10人、グループホームは制度上9人が上限です。しかし一人ひとりにあったケアを丁寧にしようとなると、それは多すぎると考えており、一つのホームホスピスで、最大でも5〜6人を上限としています」

「ただ、ホームホスピスは制度上の仕組みではないので、経営面ではかなり苦労を強いられます。収支はギリギリで、他の事業をやりくりしたり助成金やご寄付をいただいたりしてなんとか回している状態ですが、社会に必要な資源として、地域の方たちに育てていただきたいという思いがあります」

「一人ひとりの、物語に触れていく」

ホームホスピスの理念は、「生活をまるごと支える」こと。「かあさんの家」の住人とスタッフの皆さん

「かあさんの家」からスタートしたホームホスピスですが、現在、全国に60を超えるホームホスピスがあるといいます。「『かあさんの家』を始めた頃は、全国にこれだけホームホスピスが広がるとは思いもよりませんでした」と市原さん。

「目の前の課題に対して向き合いながら一つひとつを作っていった結果、『うちの地域でもやりたい』という声を少しずついただくようになりました。『最期まで自分らしく、望むように生を全うして、安心して死ぬことができる地域をつくりたい』というのは、宮崎だけの課題ではなかったんですね」

「では他の地域でもホームホスピスを作りましょうとなった時、ただ民家を借りてそこに人を集めればいいというものではなくて、ホームホスピスを謳うのであれば、一人ひとりと丁寧に向き合う姿勢や環境は担保したいと思っていて、『全国ホームホスピス協会』を立ち上げ、ホームホスピスの理念や基準をお伝えする活動もしています」

「かあさんの家 霧島」のベランダから見た庭と畑。ホームホスピスとして、風や四季が感じられることも大切にしている。「遠方で暮らす住人のご家族が時々訪れて、手入れをしてくださいます」

ではなぜ、「ホームホスピス」というかたち、その向き合い方にこだわるのでしょうか。市原さんに尋ねました。

「一人ひとりに人生の物語があって、人生の最期で、その人の生き様が出てくると思うんです。一人ひとりが物語を生きている。その物語を理解した上で、スタッフがケアに当たること。そうすると本当に、穏やかな、『よかったね』といえる最期があるんです」

「これまで130人ちょっとの方をお看取りしてきました。人生の最後のステージで、お一人お一人が生きてこられた、その一つひとつの物語に触れていくこと。これはホームホスピスでなければできないことだと思っています」

「実は今朝、一人の方をお看取りしました。Aさんはずっと一人で生きてこられた方でした。想像するに、きっと厳しい人生だったのではないかと思います。人に頼ることをせず、誰かに触れられることも、誰かにありがとうと感謝を伝えることもなかったようです」

10年以上前に亡くなった「かあさんの家」の住人の方が生前使っていたネクタイを、手芸ボランティアさんがコインケースに作り替え。新たないのちが吹き込まれ、誰かの今日に、そっとやさしく寄り添う

「しかしここで過ごすうち、Aさんは少しずつ変わっていきました。亡くなる前、Aさんはいつも周りに『ありがとう、ありがとう』とおっしゃっていました。スタッフも次第に心動かされ、『最期の旅立ちぐらいはちゃんとしたお洋服を買って、着せてあげたい』と、亡くなった時のために新しい服を用意してくれていました」

「最期の朝、Aさんは医師の先生を含めた皆に見守られる中で、静かに息を引き取りました。『誰も頼る人がなく、一人で頑張って生きてこられたけど、最期、こうやって皆に囲まれ、声をかけられながら亡くなられてよかったね』と、先生がそっと声をかけてくださいました。穏やかな最期が、確かにそこにありました」

「看取ることは、『今をどう生きるか』という問いでもあるのではないでしょうか。一対一のいのちとして、人としての関わりを持ちながら、そこに必ずある物語を尊重し、丁寧に向き合った先に、その方が必ず遺していってくださる、何かがあると思うんです」

「『ケアをしてあげる』という意識や関わりでは、ともするとその方が持っている力や尊厳を奪いかねません。その方の物語を知り、その方の力を信じて引き出しながらケアをしていく時に、死は決して終わりではなく、次につながっていく何かを紡いでくれると思うのです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は9/19〜9/25の1週間限定でホームホスピス宮崎とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、病気になっても、障がいがあっても、大切な家族や仲間たちと、その人らしく楽しく暮らせる地域をつくっていくための活動資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、家の周りに集まったさまざまな動物たち。自分らしくあれる場所で、一人ひとりがその人らしく、楽しく生きていく様子を表現しました。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

家庭のような温かな雰囲気で「その人らしい暮らし」を支え、穏やかな最期を紡ぐ「ホームホスピス」〜NPO法人ホームホスピス宮崎

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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