大阪の市民プールで、障がいのある子どもたちや高齢者と共にプールに入る活動をしている団体があります。「水の中の楽しさ、プールの楽しさを健常者だけでなく、よりたくさんの人と共有したい。やさしいプールを広げたい」。そんな思いから始まった水泳教室ですが、20年前に活動を始めた当初は、心ない言葉を浴びせられることもありました。活動について、話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

総勢42名が参加、圧巻の水泳教室

大阪市内の市営プールで開催された水泳教室にて。「泳いでるか〜!」「今日は調子がよさそうやね!」、すれ違いざまに、生徒さんやボランティアさんの間で会話が生まれます

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7月のある日曜日、大阪市内にある市営プールに伺いました。このプールでは、週に3回、プール・ボランティアさんの水泳教室が開催されています。プール・ボランティア事務局長の織田智子(おだ・ともこ)さんによると、今日はなんと、20名の生徒と22名のボランティアさん、総勢42名が参加しているとのこと。
一人の生徒に対しボランティアさんが一人つくかたちで、マンツーマンでプールに入ります。皆さん、どことなく嬉しそうです。

午前10時。皆さん水着に着替えてプールサイドへ。館内放送で流れるラジオ体操に合わせて準備運動。その後、プールに吸い込まれるように入っていきます。

プールの放送に合わせて、まずは体操から

「みんな、水着もカッコいいでしょう。お揃いのスイムキャップをかぶって、ゴーグルをつけて、そうやって見た目をカッコよくすることも大切なんです」と織田さん。プールに入っていく一人ひとりを見送りながら、次のように話してくれました。

「生徒さんの約8割は知的障がいや発達障がいのある人たち、残りの2割ほどが身体障がいのある方や認知症の方、脳卒中後のリハビリなどで利用してくださっている方です。陸の上だと体に力が入って筋肉が硬くなったり体の使わない部分が出てきて凝り固まったりすることがありますが、水の中は浮力があるので、陸の上では使わない部分を使ったり伸ばしたりすることができます。水圧で刺激されて血流が良くなる効果もあります」

「体への好影響だけでなく、プールには生活のすべてがあると思っています。生徒さんはここに来ることで日常の着替えができるようになるし、シャワーを浴びることも、体や頭を洗えるようにもなる。はじめましての相手と1時間半一緒に泳ぐので、初めて会う人への苦手意識も緩和されるし、コミュニケーション能力もつきます。親御さんが心配されるよりも子どもたちはずっとたくましいですよ。あっという間にプールで打ち解けて、仲良くなるんです」

コロナ禍で知った、
水泳教室の大切さ

2月末から5月末までの3ヶ月に渡り、新型コロナウイルスの流行によって水泳教室の開催を断念せざるを得ませんでした。その間、改めて水泳教室の重要性を感じたと織田さんは話します。

20年一緒にプールに入っているアヤカちゃん(右)と織田さん

「2000年にこの活動をスタートして以来長く通ってくださっている生徒さんが多いのですが、20年来通ってくれている重度の心身障がいで寝たきりのアヤカちゃんは、笑顔も少なくなり、それまでは焼肉やラーメン、餃子も大好きだったのが、教室がなくなってしまったことで嚥下(ものを食べたり飲み込んだりする)の力が弱くなって桃の缶詰と豆腐しか食べることができなくなったと聞きました」

「彼女にとって、この20年間の生活の中で『プールのない生活』というのはありませんでした。プールの中で体を自由に動かすことがいかに健康状態に良い影響を与えていたのか、当たり前だった『プールに入る』ということがいかに幸せなことだったか、私たちも改めて感じさせられた3ヶ月でした。私たちの活動が、生徒さんの日常生活の中で大きな影響を持っているということを感じさせられた出来事でした」

「もっと水と親しくなる」を目標に

この日初めてペアを組んだという、カズユキ君(右)とボランティアの森田さん。最初は一緒に水で遊ぶところから始まり、気づけば緊張がほぐれて、一緒に水の中で楽しそうに泳いでいました

「皆それぞれに個性がある中で、私たちがサポートすることでプールを存分に楽しんでほしい」と織田さん。マンツーマンの指導を支えるのは、活動に携わるボランティアスタッフの方たちです。

「ボランティアさんたちは『プールに入れる喜び』で活動に参加してくださっていて、待ってくれている子たちがいることが、プールに来る後押しになっていると聞きます。参加している皆、『プールが好き』というところは同じです」

平泳ぎの足を指導する武田さん(左)とトモキ君。「武田さんは元水泳インストラクター。13年通っているトモキ君は今ではクロール、背泳、平泳ぎ、バタフライを泳ぐ水の達人に成長しました」(織田さん)

障がいのある方たちへの指導について、意識している点などはあるのでしょうか。

「ボランティアさんそれぞれにコミュニケーションの取り方、水泳との関わり方があって、それぞれの教え方があります。でも行き着く先は皆同じ、『楽しく泳ぐ』『もっと水と親しくなる』ということ。だから、どの教え方も間違っていません。リスペクトし合い、危険な行為ではない限り水泳指導について職員が口を出したりということはしません」

「子どもたちにとっては、いろんな大人の人たちと接することでプールの中から社会性を身につけていくことができます。プールで家族以外の人とのかかわり方の免疫をつくっておくことで、普段の生活でも行動しやすくなる部分がたくさんあるのです」

活動当初は
心ない言葉をかけられたことも

スロープを使い特別なプール専用車イスで入水する、重度の障がいのあるササミちゃん。付き添っているのは理事長の岡崎寛さん(右)と、看護師でもある山下香さん(左)

それぞれのペアで楽しくなごやかなムードで進められている教室ですが、プール・ボランティアの特徴は、活動場所が「市民プール」であること。すぐ隣のレーンでは一般の方たちも水泳を楽しんでいます。

しかし、地域の方たちに受け入れられるには時間が必要だったといいます。活動を始めた頃の話を、理事長の岡崎寛(おかざき・ひろし)さんに尋ねてみました。

「活動を始めたばっかりの頃は冷たい対応をとられたり、ひどい注意をされたりすることもありました。『目ざわりや』と直接いわれたこともあります。運営面ではお金もないし、活動が知られていないから生徒さんもボランティアさんも来ないし、出口が見えないと感じたこともありました。当時はこういった活動がまったく存在しなかったので親御さんも身構えられていたし、『障がい者が相手なんやからお金をとらんと無料でやってよ』という意識がまだまだあった時代でもありました」

上級者コースで泳ぐユウキ君(右)、イチヤ君(中央)、アヤさん(左)とボランティアの酒井さん。「私たちの出場するマスターズ水泳大会は、高校生以上であれば誰でも出場できます。彼らだけでリレーチームをつくって出場することがボランティアの夢であり彼らの目標です」(織田さん)

活動をスタートする前はプールの職員として勤めていた岡崎さんと織田さん。

「障がいがある方たちにとってはプールがいかにハードルが高いかというのが見えた」といいます。当時、すでに大阪の市民プールには車イスのまま入れるスロープも障がい者用の更衣室も完備されていたにもかかわらず、「社会の目は冷たかった」と織田さん。車椅子に乗った人とプールへ行くと、受け付けで「障がい者専用のプールに行かれたらどうですか」と言われることもあったといいます。

「障がいの有無にかかわらず誰もが気軽に市民プールを楽しめるようになれば良いし、行きたいと思ったら近所の市民プールに行けばいい。それが当たり前のことだと私は思っていたし、それが実現できた時、『誰しもにやさしいプール』になるのにと思っていました」

重度身体障がい者用浮具「うきうきくん」を使って泳ぐのは、19年間教室に通うタイガ君(左)とボランティアの宮野さん

「やっぱり、僕らはプールが大好きやからね。大好きなものやからこそ、健常者だけではなく誰にとってもやさしい場所であって欲しいと思ったし、きっとそんなニーズもあるのではないかと思いました。それで、この活動を始めたんです」

「この20年で、ほんまにプールの風景は変わりました。僕たちが地域のプールをずっと利用させてもらってきたことで、僕たち以外にも障がいのある方が利用されるということがごく当たり前になってきました。誰にでもひらかれた、やさしいプールになっているんだと感じ、これも活動の一つの成果だと嬉しく感じています」

全国のプールを「やさしいプール」に

この日、「1500メートル泳ぎます!」と宣言、見事に泳ぎ切った12歳のハルキ君(中央)。ボランティアの末光さん(左)、岡崎さん(右)と

「今後、活動を大阪だけでなく全国各地に広げていきたい」と二人。

「各都道府県に一つは僕たちのような団体さんがあって、障がいがあってもプールに入りたいという人をサポートできたらと思っています。地域のプールから共生社会をつくっていきたいという思いもあるし、もう一つは、やっぱり利用してくれる子どもたちにとっても、障がいがあると何でも褒められたり全部やってもらったりばかりだったりする中で、障がいあるからといって特別扱いせず、時に厳しく時にやさしく、そこは関西なので時にイジりながら(笑)、接する機会があることも大事やと思っています。子どもにとっても、ここをきっかけに豊かなコミュニケーション力を身につけてほしい」

プール・ボランティアが東京都の許可を得て制作した、外見からは障がいや病気があるということがわからない人が支援や配慮を必要としていることを知らせる「ヘルプマーク」付きのスイムキャップ。必要とする人に提供し、全国に「やさしいプール」を広げたいと織田さんは話す

「水泳は水着ひとつでできるスポーツで、やってみたいと思ってらっしゃる方も多いのではないでしょうか。新型コロナウイルスの影響で延期になってしまいましたが、東京でオリンピック・パラリンピックも開催されます。水泳が注目される機会も増えると思うので、興味を持って『やりたい!』と思った方が、たとえ障がいがあったとしても、地域のプールにどんどん入っていけるような環境を作っていけたらと思います」

「やさしいプール」を広げる活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「プール・ボランティア」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×プール・ボランティア」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、外見からは障がいや病気があるということがわからない人が、支援や配慮を必要としていることを知らせる「ヘルプマーク」をプリントしたスイムキャップを無償で配布し、啓発するための資金となります。

「バッグなどにつけるストラップ型のヘルプマークが主流ですが、プールでこれを携帯することは困難です。ヘルプマークの著作権を持つ東京都に相談し、許可を得てヘルプマークをプリントしたスイムキャップを制作しました」

「私たちが行けるプールであれば、障がいのある方の目となり足となり手となってサポートできますが、私たちが行くことができないプールでも、このスイムキャップさえあればもし何かがあった時、誰かが支援の手を差し伸べてくれます。当事者の方の『配慮してほしい』を素直に出せるものだし、周りの人たちも『何か手伝いましょうか』と声がけしやすくなるものになる。私たちが行くことができないプールで、これがプール・ボランティアの代わりになってくれると期待しています」

「JAMMIN×プール・ボランティア」8/10~8/16の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はベーシックTシャツ(カラー:ホワイト、価格は700円のチャリティー・税込で3500円))。他にパーカー、トートバッグやキッズTシャツなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、水の中を自由に泳ぐいろんな生き物。水の中では誰もが自由になれて心の底から楽しめる、そんなメッセージを表現しました。よく見ると、タコがかぶっているスイムキャップには「ヘルプマーク」が描かれています。

チャリティーアイテムの販売期間は、8月10日~8月16日の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

障がいある人も心から楽しめる「やさしいプール」を広げたい〜NPO法人プール・ボランティア

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、コラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は4,500万円を突破しました!

【JAMMIN】
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