日本の10歳〜39歳の死因の第一位は自殺であることをご存知ですか(国立社会保障・人口問題研究所『人口統計資料集2022』より)。コロナ禍も重なってさまざまな活動が制限されてきた中、子どもたちが夢を持てる社会へ、好きなことや夢が「どうせ無理」と否定されず、「「挑戦が連鎖する社会を作りたい」と滋賀県草津市で活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「子どもを見守る手は、いくつあってもいい」

「我が子はかわいいけど、ずっと抱っこで、片時も目を離せない。ママの身体は悲鳴を上げます。子どもを抱っこする手は、いくつあってもいいのです」

滋賀県草津市を拠点に活動する認定NPO法人「くさつ未来プロジェクト(KMP)」。

代表の堀江尚子(ほりえ・なおこ)さん(50)は、自身の3人の息子の子育てを通して、その都度感じてきた地域の課題に合わせ、「こんなのがあったら良いな」を一つずつかたちにしながら、活動を続けてきました。」

お話をお伺いした堀江さん

「『子どもを守る手は、いくつあってもいい』というのが、私たちの思いです。子育ては正解を追いがちだし、一人で抱えてしまいがち。そうすると余裕がなくなり、子どもを否定したり、虐待したりしてしまうこともある」と堀江さん。ベースの活動は、未就園児の居場所づくり。料理教室や英語学習、子どもの一時預かりなどを行っています。

「『正解はいくつあってもいいんだよ』ということを伝えたくて、子どもも大人も、いろんな人やいろんな価値観と出会える場を作るために活動しています」と話します。

制限の多いコロナ禍、子育てはますます孤独に

「『コロナでイベントは中止、外出や旅行も控え、今年は一度も家族でお出かけしなかったので家族写真が一枚もないんです』。そんな声を受け、2021年の思い出作りに100組の親子と、空に向かってバルーンを飛ばしました」

「コロナは、子育て世代や子どもたちにとって大きな影響を与えています」と堀江さん。

「私たちが活動を始めた15年前、知らない土地で知り合いもおらず、子育てサークルなどもなく、子育ては非常に孤独でした。今、その頃以上に大変な状況にあると感じています。コロナの影響で、子育てや子ども向けのイベントは軒並みキャンセル、市民センターや図書館、公民館などは真っ先に閉じました」

「保育園や幼稚園も一時預かりをストップしていたし、実家を頼りたくても、帰省することができない。子どもと片時も離れられず、同世代のママたちと知り合うこともなく、一方で旦那さんはリモートワークでずっと家にいて、子どもが邪魔をしないか気を使いながら、『ダメ!ダメ!』と言い続ける育児。お母さんが息抜きできる場所も時間もありません」

「私たちは公共の場を借りて居場所事業をしてきたので、これも軒並みストップせざるを得ませんでした。でも、子育ては一人ではできないから、こういう時こそ、本当は支えたかった。リアルな体験やリアルな場は、こんな時だからこそ必要なんです。それを強く言える状況ではなかったし、場所を借りている以上、そこが閉まると何もできない。悔しいと思いました」

「それでも、とにかく自分たちの都合では休まないようにして、できるかぎりお母さんたちとつながり続けていると、『よく辞めないでいてくれた』という声を多く聞きました。コロナで旦那さんも立ち会えず、病院で一人で出産して、張り詰めた中で子育てをしながら、『もう4ヶ月も5ヶ月も旦那以外の大人としゃべっていません』という方もいました」

閉塞感の中、「どうせ無理」という子どもたち、今こそ大人たちが声をあげるべき

「昆布だし、いりこだし、市販のだしを味見!学校での調理実習はストップしているけど、お味噌汁づくり、お醤油づくりなどを通して味覚を磨きます」

「ただでさえ『子育てをちゃんとしなくちゃ』と思っているお母さんたちにとって、コロナはさらに輪をかけて『こうしなければならない』ということが出てきて、極限の状態だったと思います」と堀江さん。

「子どもは子どもでどこにも寄り道できず、週末に出かけたり旅行に行ったりもできず、勉強や家で遊ぶ以外に逃げ場がない。好きなことを見つけたり、それに没頭したりする体験が、ほとんどできていません」

「修学旅行、運動会、キャンプ…、楽しみにしていたイベントも突然中止になる。期待したのにがっかりする、その繰り返しは、子どもたちに『どうせ無理』という意識を植えつけてしまったところがあるように感じます」

「現場で感じることですが、子どもなので言語化には至らなくても、『どうせダメなんでしょ』という意識が、小さなことでも発動しているような節があります。それは怖いことです。マスクをつけているので、相手の表情もわからなければ、言いたいことも言えない」

「そんな今だからこそ、大人がもっと大きな声で『子育てを手伝ってください!』と言ってあげないと。今こそいろんな人に会って、いろんな経験をして、いろんな大人の姿を見せてあげたい。そうしないと、夢も希望もなくなってしまう。3年後、5年後を考えるとすごく不安があり、危機感を抱いています」

「いろんな考え、いろんな生き方がある。かならず、応援してくれる人がいる」

芋掘り。「周りの2〜3歳児に負けじと真似して掘る1歳の子。人は本来、何でもやりたい、何でも挑戦したい生き物だということを改めて感じる一枚です」

「毎年、厚生労働省が年齢別の死因順位を発表しています。10~14歳、15歳〜19歳、20歳〜24歳、25歳〜29歳、30歳〜34歳、35歳〜39歳の死因の第一位は自殺なのをご存知ですか」と堀江さん。

「この状況に、何も感じない方がおかしいと思うんです。若い世代が、夢や自信を持てずに、自ら命を経つということが起きているんです。さらにコロナで行動が制限され、経験が削られ、閉塞感や子どもたちの生きづらさは増しています。ひずみが生まれてきています」

「子育ては、親や家族と学校の先生だけではできません。隣に住んでいる人、近所の大学生、犬でも猫でも、とにかくいろんな人が関わらないと、人は育ちません。だから、いろんな人と価値観に出会える場所を作り続けること。微力かもしれないけど、悲観していても何もかわらない。コツコツ活動していく以外に道はありません」

「工作が大好きなたまちゃんの夢は大工さん。建築会社さんにご協力いただいて通うこと3回、電動ドリルやノミやカンナなど、今まで触ったこともないプロの道具を使い、自分の手で知恵の輪を作りました」

「『いろんな考えがあるし、いろんな生き方があるんだから、死ななくていいよ。とにかく死ぬことだけはやめてください』と強く思っています。『好きなこと、やりたいこと、自分の気持ちを、ありとあらゆる人に言ってごらん。絶対に応援してくれる人がいるから』というメッセージを伝えたい」

「周りの人から『おかしい』とか『どうせ無理』といわれるんだったら、そうじゃない世界があるんだよ、応援してくれる人が必ずいるよということを伝えたい。そう思っています」

自作のロケットを空に飛ばして「私はできる」を実感してほしい

植松努さんと。「草津小学校150周年記念事業。植松さんの講演会と全校生徒によるロケット打ち上げを行いました」

団体として、宇宙開発を行う技術者・植松努さんのロケット教室を各地で開催している堀江さん。

「言葉だけの大人はたくさんいます。でも、植松さんはそうじゃない。ずっと宇宙開発を続けています。子どもの頃、大人たちからダメだ、無理だといわれてもこだわりを捨てず、夢に向かい続けた植松さん。彼の講話は、ものすごく説得力があります」

「『自分の好きなもの、興味のあること、なんでもいいから、それをどうか大事にしてね』と植松さんは話します。子どもたち一人ひとりが好きなものを、本人が、周りの大人たちがもっともっと大事にできたら、『何が好きかわからない』『生きている意味がわからない』ということにはならないと思うんです」

「『勉強しろとしか言わへんやろ』と、今の子どもたちの多くが、大人を信頼していません。テストの点で評価され、好きなことや興味があることを話しても『どうせ無理』と一蹴されてしまう。ロケットを空に飛ばして、『私にもできるんだ』『私はできるんだ』っていう実感につなげてもらいたいと思っています」

本当に好きなことは、熱中できる。そのための世界を見つける

ロケット教室で、昨年から打ち上げできるようになった、ペーパークラフトの特大ロケット。「子どもたちのひときわ大きな歓声が響く瞬間です」

高3、高2、中2の三人の息子の母親でもある堀江さん。

「子どもたちがやりたいことに対して『オッケー』と言ってきて、今、まさに本当に皆それぞれ好きなことをやっています。長男は通信制高校に通ってのびのびと過ごし、大好きだった飛行機を極め、パイロット免許を取得しました。今、航空大学に入るために勉強しています」

「次男は勉強が嫌いで、ゲームばかりしていました。魚をさばくのが好きで、テスト期間中、ストレスを発散するために包丁を研いでいるような子でした。無理して高校に通わなくても良いと思っていたので、ゲームばかりしていても否定はしませんでした」

「本人と相談して調理科のある高校に入ったところ、今や皆勤賞です。高校のテストの内容が包丁研ぎ。余裕で一番です。社会実習としてイタリアンのレストランでアルバイトしているのですが、好きな料理を学びながら、お給料ももらえる。自己肯定感が上がっています」

「三男は本が好きで、韻を踏むことに興味があり、熟語や隠語をたくさん勉強しています。最近は英語の小説も読み始めました。自作の小説や英語の面白い小説を翻訳して、オンラインで発表しています。三人とも、好きなことに対してはものすごい熱量で向かっています」

「結局、一つのところで合わなかったりダメだったりしても、価値観が違うところに行けばガラッと変わるわけですよね。一つの場所では否定されても、別の場所に行けば肯定される。見ていて本当にそれを感じるし、それがすごくおもしろい」

「挑戦する楽しさ」を知ってほしい

「つながりが作りづらいコロナ禍でしたが、2021年に初めて、育児サークルの卒業式を行いました。子育ての早い段階で出会うことで、つらい時やしんどい時、一人で抱え込まずにお互いに声をかけ、助け合って子育てしていこう、という気持ちになってもらえたらと思っています」

「ただ、親としてはものすごく覚悟も必要でした」と振り返る堀江さん。

「私も散々勉強を教えたし、ゲームをずっとしているのに何も言わないのはとても勇気が要りました。だけど私自身が、親に言われる通りに勉強して受験して、予備校の先生になり、ガチガチに生きてきて、それが子育てで何一つうまくいかず大きな壁にぶち当たった時に、同じやり方ではダメだと気づいたんです」

「子育てをしながら、『こっちの方がおもしろそうだぞ』に乗っかって、それはそれで腹を括って覚悟を決めて、違う世界の扉を開いた先に、本当に広がる世界があったんです。だから皆にも、明るく楽しく、こっちもあるよ、やってみようよ!って伝えたいんです」

「『挑戦する楽しさ』を知ってほしい。大人が子どもに教える時に、『挑戦してごらん。楽しいよ』という言葉だけでは伝わらなくて、大人がまずやって見せないことには伝わらないと思うんです。楽しそうに挑戦している姿、たとえ失敗しても起き上がる姿を見て、子どもたちも『そっか、大丈夫なんや』ってはじめて挑戦できるのではないでしょうか」

「人が挑戦する姿は本当に美しい。私も挑戦する方たちから勇気をもらい、『自分もやろう』と思えました。その連鎖が起きる社会にしたい。一生懸命、いのちの限りの挑戦は、周りの応援も生みます。そこには愛しかありません。その中に一度でも、願わくは子どもの時に身を置くことができたら、それは必ず、その人の中で息吹いていくと信じています」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は1/9〜1/15の1週間限定で「くさつ未来プロジェクト」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、子どもたちの挑戦を後押しするロケット教室を開催するための資金として活用されます。

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、未知の惑星に向かって、全速力で一直線に飛んでいくロケット。好きなこと、熱中できることに向かっていく力強さ、夢や希望を持つことで広がる可能性を表現したデザインです。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(左・700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINの特集ページでは、堀江さんへのインタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

挑戦が連鎖する社会を。自分のワクワクを信じて、「やってみよう」を広げよう〜NPO法人くさつ未来プロジェクト

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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