原因不明・治療法未確立の難病「レット症候群」。1万人〜1.5万人に一人の確率で生後半年〜1年半の女の子に発症する、進行性の神経疾患です。生後1歳を過ぎた頃、娘の異変に気づいた一人の父親。「今の医療では、治療法はない」と告げられた帰り道、治療法を見つけるために、団体を立ち上げることを決意します。団体を立ち上げて11年、娘は中学3年生に。今の思いを聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)
1万人〜1.5万人に一人の確率で発症する難病「レット症候群」
レット症候群は、1万人〜1.5万人に一人の確率で、女の子に発症する難病です。遺伝子の突然変異で起こるといわれていて、生後半年〜1歳半までごく普通に成長していたのが、徐々にできないことが増えていく難病です。症状の幅は広いものの、ほとんどの子が言葉を発さず、てんかんや側弯症、睡眠障害や息堪えなどを併発します。
大阪在住の谷岡哲次(たにおか・てつじ)さん(45)の娘の紗帆(さほ)さん(14)は、2歳でレット症候群と診断されました。
「それまでできていたことができなくなっていく姿を見守ることしかできず、できることなら代わってあげたい、もし自分の命と引き換えに紗帆が普通の子になれるなら…、『神様、できるならそうしてください』と何度も願いました」と当時を振り返る谷岡さん。
「代わりになることができないのなら、他の行動で、できるだけのことをやるしかない」と、根本的な治療法開発のために、患者家族として声を上げ、研究者のつながりをつくることを目的に、NPO法人「レット症候群支援機構」を2011年に設立、これまでに累計1,600万円の研究助成を行ってきました。
「未だ治療法の確立には至っていませんが、海外では症状を緩和する薬の治験が最終段階にきており、結果も悪くないとのこと。遠からず日本にも入ってくるのではないかと考えています」と谷岡さん。さらに根本治療としての遺伝子治療にも進展が見られるといいます。
「日本の企業が、レット症候群の遺伝子治療について海外の製薬企業と業務契約を結びました。これまで、この分野に積極的だったのは海外の企業ばかりで、日本の企業が名乗り出たことで、日本のレット症候群の治療が大きく前進するのではないかと思っています」
そんな中、治療法や薬の開発のバックアップ体制を作ることが患者家族会としての役割と捉えていると谷岡さん。「家族会としてのネットワークを生かし、前進を支えたい」と話します。
患者専用アプリ「レッコミ」をリリース、治療法確立にも役立てる
2021年10月には、レット症候群の患者家族専用アプリ「レッコミ」をリリース。全国に20歳以下で1000〜1500人いるとされるレット症候群の人たちの中で、同じ症状を持つ患者家族同士がつながり、悩みや不安の相談や、治療や症状、地域などに関する情報交換ができる場となっています。さらに、製薬企業や研究者がレット症候群の人たちの状況を把握するためのアンケート協力や、治験のリクルートの呼びかけも行いたいと考えているといいます。
「基本的に患者家族であれば、誰でもアプリに無料で登録できます。登録者の数は現在、300名程度になりました。当事者や家族が何にどれだけ苦しんでいるか、より密な情報が得られるツールがあるという点は、治療薬や治療法の促進にも大きく貢献すると考えています」と谷岡さん。
インターネットやSNSが発達し、病気の症状や治療、生活に関する情報が簡単に手に入る中で、「つながりを保つツールとしてアプリが生きてくるのではないか」と期待を寄せます。
この先の10年に向けて
娘の紗帆さんがレット症候群と診断されてからの13年を、「一瞬でした」と振り返る谷岡さん。
「活動を始めた頃は、『5年後ぐらいに製薬企業と結びついて、10年後ぐらいに薬が開発されないか』と思っていましたけど、なかなかですね。気づけば10年経っていたという感じです。でも、この先の10年で、治療法に関するいろいろなことが動きそうな気がしています」
「団体として活動を初めて11年、患者家族、製薬企業、研究者…、団体としてのつながりはできてきたと実感しているので、あとは点と点をつなげていく。それがアプリだったりするかなと思います。研究の助成も、今後もっとできたらと思っています」
「紗帆の場合は、症状が出始めてから、参考になる情報は少なく、いろんな病院を回り、レット症候群と診断がつくまでに1年かかりました。今は情報もたくさんあるし、アプリも作ったので、その点は良いのかなと思います」
「この10年で、一般の方の認知も増えてきたと感じています。以前は『レット症候群』と調べても情報はわずかで、それもネガティブで暗いものばかりでした。それが今は、積極的に、ポジティブな情報を発信する方も増えてきました。今後は、啓発活動にももっと力を入れていきたいと思っています」
「紗帆がこの世に生まれた意味を、見つけてあげたい」
現在中学3年生で、春には高校に上がる紗帆さん。紗帆さんへの思いを聞きました。
「もうかわいいかわいいで。顔にどれだけチューしても、普通の中学3年生だったら嫌がるのに、ニコニコ受け入れてくれる。かわいくて仕方がないです。紗帆は次の春に、高校に上がります。高校に3年間通った後、日常をどうしようかなというのが、今考えているところです」
「紗帆は働けないので、就労支援に通うことは難しい。そうなると生活介護か自宅でみるかという選択肢になるのですが…。たとえばパソコンのソフトを使って視線で絵を描くとか、本人が熱中できる好きなことで、それが社会との接点になるような場所があればいいなと思っていて、できることを模索しているところです」
仕事をしながらNPO活動を続けてきた、谷岡さんのモチベーションを尋ねました。
「紗帆がこの世に生まれてきてくれた、その意味を、生きている間に見つけてあげたい。それがモチベーションです。レット症候群を、まず知っていただき、少しでも興味を持ってもらえたら、ホームページを見る、友人に伝える、どんな小さなことでも良いので、何か一つ、アクションをしていただけたら嬉しいです」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は1/16〜22の1週間限定で「レット症候群支援機構」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、レット症候群の治療法確立に向けて、患者専用アプリ「レッコミ」を継続して運営していくための資金、治療に関する研究を助成する資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、さまざまなかたちのランプやライトがぶら下がった一本の木。コミュニティや、そこで生まれたつながりが未来を照らし、新しい可能性を運んでくる様子を表現しました。
JAMMINの特集ページでは、谷岡さんへのインタビュー全文とここでは紹介しきれなかった写真を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「娘がこの世に生まれてきた意味を、見つけてあげたい」。患者家族会として、難病「レット症候群」の治療法確立を支援〜レット症候群支援機構
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。